第8話 私、期待してませんから!
……なかなか衝撃が来ない。
絶対痛いのがくると思ったんだけど。
おそるおそる目を開けると、何故だかジョシュア様がワナワナと震えており、リタ様はキラキラと目を輝かせていた。
「セオドア、様……あの、こ、これは」
ジョシュア様は慌てふためかれている。
芋虫のようにうごいてジョシュア様の目線の方を見ると、
セオドア様がいらしていた。
もしかして、セオドア様、私を助けにきてくれたの?
安心感に、張り詰めていた体の力が抜けてしまう。
セオドア様はすごく怒っていらっしゃるのが見て取れる。
ジョシュア様はさすがにそのことに気づいたようだが。
リタ様は全然気づかずに、
「あら、セオドア様、いらっしゃったのですね! 今、お邪魔虫を排除しようとしてましたのよ。セオドア様はお優しいからペアを優先なさるのはわかるのですけど、やはりお隣にいらっしゃるのはポージー様でないといけませんわ」
そう言ってニコニコと微笑まれる。
「君たち何をしているのかな? 俺の大事なデイジーが怪我をしているけど」
「「……え?」」
お2人も仲良くハモる。
以前のポージー様とエイモスのよう。デジャブかしら。
リタ様はすぐ切り替えられて、
「だ、大事……? あ、なるほど、ペアの方ですもんね。でも大丈夫ですわ。マーガレットさんの方からペアを解消してもらうように今お願いしてますの。マーガレットさん、嫌だ解消したくない、なんておっしゃるから、少し拘束させていただいたんですわ。その時にこけてらっしゃったから、それでお怪我なさったのかしら? 全然たいしたことありませんわよ」
……お願いじゃないよね、脅迫だったよね!
たしかに怪我はすりむいただけで、たいしたことないけど。
私は、心の中で思いっきりツッコんだ。
セオドア様は怒りのオーラを纏ったまま、
「俺のペアはデイジーだけだ、そして、デイジーの顔に怪我させたのは君たちで間違いないんだな」
そうおっしゃると。
先程、ジョシュア様が出された雷の魔法の数倍の威力のものが彼の手のひらに集まってきた。
『サンダー』
セオドア様が唱えると、稲妻が2人の頭上に炸裂した。
2人はそれぞれ悲鳴をあげて、倒れた。
絶対それ痛いやつだわ……。
そう思っていると、ジョシュア様が意識を失ったからか、私を拘束していた魔法の縄が解かれる。
ほっとして力が抜けてしまってなかなか立てないでいると、セオドア様が抱き起こしてくれた。
「もしかして、助けに来てくれたんですか?」
「勝手にいなくなるから探しただろ? 何わけのわからないのに捕まってんだよ」
「わけわかんないのって、セオドア様よくこの2人と一緒にいますよね?」
「ん? この2人と一緒にいることなんかなかったと思うけどな?」
お2人、まさかのセオドア様に認識すらされてない? 残念すぎなんだけど。
セオドア様が私をじっと見る。
……またキスされちゃうかも。
と思ったら「ヒール」と言い、私の擦りむいた頬を治してくれた。
すごく暖かくて優しい魔法。
「顔に傷残ったらどうするんだ」
さっき拘束されたときに転けて擦りむいた傷、全然たいしたことなかったんだけど気にしてくれたらしい。
「デイジーさ、俺にキスされるかと思っただろ?」
セオドア様、悪い顔してる。
「お、思ってません!」
いやめっちゃ思ったけど。
私、それだけは全否定させていただく。
私絶対真っ赤になってると、思う。
「デイジー、俺は知ってるんだ。こっそりペアを解消しようと先生にお願いしに行ったりしてたよな? 先に対策しておかなかったら、本当に解消されるところだったんだぞ」
「えっ何故それを……」
実は、私はすでに3回程、ペアを解消してほしいと先生に頼みに行っているのだがその全てを断られていたのだった。
「デイジーのことなら何でも知ってると思うよ。デイジー、君がどれだけ嫌がったとしても、俺から逃げたくなっても、絶対逃がさないよ。誰に何を言われようとペアを解消させるつもりなんてないけど、まさか君から嫌だ解消したくないと言ってくれたなんてね? しかもキスまで期待して……。可愛いね。もう俺のものでいいよね」
そして、セオドア様の顔が近づいてきて。
「待って、待ってセオドア様、何を……」
私は狼狽えてしまう。
「待たない」
セオドア様はそう言って、私はおでこに優しいキスをされる。
「デイジー、また期待しているようで悪いけど、実技をさっさと終わらせて続きをしようね」
不敵な笑みを浮かべてセオドア様がおっしゃる。
「私、期待してません! つ、続き……しません!」
私、めちゃくちゃ照れた。
セオドア様はリタ様とジョシュア様のリュックをゴソゴソすと、「あった」と、ホイッスルを出される。
先程のサンダーの魔法でピクピクなっているジョシュア様の口にホイッスルを無理やり入れると、彼の呼吸でヒューと弱々しく鳴る。
「これで先生が見つけてくれるだろう」
「お2人、大丈夫でしょうか?」
「手加減してるから大丈夫だろ」
……ジョシュア様より数倍強い威力だったと思うのだけど、あれで手加減なさったのだとしたら本当の威力はどれほどすさまじいのだろう?
私はセオドア様の潜在能力に、少し戦慄した。
「さぁ行こうか。時間を無駄にした」
「課題、終了時間までに間に合うでしょうか?」
私が鈍臭くて捕まってしまったのだから、間に合わなかったらセオドア様に申し訳ない。
「デイジー大丈夫だ。この俺を誰だと思ってるんだ?」
そう堂々と、おっしゃるセオドア様のお顔は、やっぱり私のどストライクな顔で。
つい、見惚れてしまった。
「あ、待って、セオドア様! 私、言ってません。大事なこと」
私は彼にそういえばあの言葉を、言ってなかった。
「何だ?」
セオドア様が振り向かれる。
私は彼に近づいて、
「助けに来てくださって、ありがとうございます」
と言った。
「本当はすごく怖かったから、セオドア様がきて、とっても嬉しかったです」
なんだか、かしこまってお礼を言うのもドキドキする。
セオドア様がすごく残念な顔をされて、
「……好きだっていってもらえるかと思ったのに」
とポツリとおっしゃった。
お礼を言ってそんな残念な顔をされるなんて、こっちもなんか残念だ。
急にセオドア様が真面目な顔をなさる。
「デイジーとゆったりデートみたいに楽しもうと思ってたけど、時間がもうあんまりないな。空中にもトラップがあるかもしれないが、とりあえず強行突破するぞ」
セオドア様が私の腰を抱いたと思ったら、私たちは空中に飛んだ。