第24話 コントロールって難しい
少しの休憩を挟むと、今度は魔法のコントロールを学ぶ。
先生がおっしゃるには、私は他の人に比べると壊滅的にコントロールが悪いらしい。
なので、セオドア様がついていてくれることになった。
セオドア様もやりたいことがあるはずなので申し訳ないが、いてくださると思うと少しホッとした気分だ。
セオドア様の大邸宅の広大な敷地は、綺麗な黄緑色が広がっており、空は真っ青でところどころある白い雲とのコントラストが美しい。
「とりあえず手を繋ごう」
セオドア様が言う。
「えっ! 手を?」
そういえば手を繋いだことは初めてかもしれない。
私は手のひらを確かめると、割と汗をかいていた。
先程アイラにもらったタオルで念のため、手のひらをしっかり拭く。
そういえば、アイラは大丈夫だろうか?
私はセオドア様に助けてもらって元気だし、コントロールの悪いのは私のせいだし、しかもアイラのおかげで、一応空は飛べるようになったし気にしないで欲しい。
「あの……セオドア様。私、それはさすがにドキドキして集中できないかもしれません。他の案はないですか?」
なんでもいい。
ほら、お散歩のワンちゃんを繋ぐリード的なものとか。
そんなもので繋ぐのはいかがだろうか?
「いや、あれほど飛行魔法で俺に掴まっていたじゃないか?」
セオドア様が呆れたようにおっしゃるが、それとこれとは別だ。
いや、違わなくはないけど、手を繋ぐって結構特別な気がする。
まさに恋人同士って感じでドキドキする。
「じゃあまた掴まります……」
「いや、できれば繋ぐ程度でいきたいんだ。飛行力はデイジーの力を使ってもらいたい。掴まるまでいくとどっちの魔力で飛んでるかわからないだろ?」
セオドア様はまともなことを言う。
「そ、そうですよねぇ。わかりました……」
私はおそるおそる手を差し出す。
「よろしい」
セオドア様はそうおっしゃると私の手を取って、浮遊した。
もちろん私も慌てて浮遊する。
今度はすごいスピードではなく、普通のスピードで飛行することを想像して飛んでみるとちょうどいいスピードで飛べることがわかる。
だがしかし今度は、何故だか別邸の屋根の方に向かってしまう。
「なんでそっちに……」
とセオドア様がおっしゃって。
「向かいたい方に飛んでるイメージをして。前に進もう」
別邸の方に行こうとする私をさっと方向転換させてくれる。
「前に進む、前に進む」
ブツブツ言いながら飛ぶが、まさかの後ろに向かってしまう。
「これは……前途多難だな」
セオドア様が頭を困った顔をしている。
おそらく、いや十中八九これは2年に勝てないかもしれないと思っているに違いない。
……私もかなり不安だ。
「頑張ります……」
そのあと終了までみっちりコントロールを学んだが、全くもってうまく進めなかった。
「セオドア君、マーガレット君がかなり大変だろうけど、確実に勝たせるように努力しよう」
ジェームズ先生は完全に私ではなくセオドア様の強化に走ろうとされているのがなんとなくわかる。
でもとりあえずまだまだ魔法については新人だし、みんなだってこんなもんだよ、ね?
大丈夫大丈夫、大丈夫、かな?
そのあとはクタクタで、ほとんど眠りこけながら食事をいだだいて、立ち直ったアイラに連れてもらいながら、どうにか湯浴みをし、ベッドまで行って目を閉じたら、もうそこから記憶がない。
そして次に目を開けたら、朝だった。
「おはようございます!」
アイラの快活な声が朝にとても気持ちがいい。
「おはよう……まだ眠い……」
「今日は学園の日ですよ! 登園の準備しましょう」
と言いながら私の身繕いをしてくれる。
私は疲労感で、すごく寝たはずなのに、まだまだ寝れそうだ。
朝食に向かうと、
「おはよう。授業が終わったらまたジェームズ先生がきてくれる予定だから頑張ろう。俺はデイジーならできると思っているよ」
とセオドア様がすぐに言った。
今日もなのかと少しげんなりする。
「ありがとうございます……」
今日は実技魔法の授業はないので、学園中の方がゆっくりできそう、かも?
朝食を終えて、私はセオドア様の素晴らしい馬車で一緒に向かう。
馬車の中は2人きりで、やっぱりドキドキしちゃう。
今日も格好いい。
「デイジー、帰ったらコントロールの練習したいから、早めに帰りたいんだけど今日は何も予定はないかな?」
「運営係がなければ大丈夫かと……」
「運営係か……そういえば俺はポージー嬢と同じ飼育係なのだが、エイモスと変われるように話をつけよう」
飼育係とは、いわゆる、学園で飼育している聖獣の世話である。
人間たちを襲うのが魔獣、守り人間と共存するのが聖獣、となっているが私にはよくはわからない。
2年生になると授業で触れ合うみたいだが、1年生で触れ合うことができるのは飼育係のみだ。
しかもこの周辺はは魔力で守られていて、出ることはないので、魔獣も見たことはない。
ちなみに野良の聖獣は、野獣と呼ばれ、人に慣らすまでは聖獣とは呼ばない、らしい。
というのが私の学園で習った知識なのだが、要はセオドア様とポージー様がなられている飼育係とは、学園では花形と呼ばれる係なのだ。
「え? 運営係ってただの雑用ですよ?」
「聖獣なら我が家にもいるから気にするな。先生に頼まれる仕事は立派な仕事だと思うが」
「いやだいぶ普通に雑用ですよ」
セオドア様もやってみたらガッカリするだろうから絶対替わらない方がいいと思う。
ポージー様とご一緒なのはなんだかひっかかるけどね。
でも、セオドア様のお宅、聖獣まで飼ってるんだ。
もちろん我が家にはいない。
広大すぎてわからなかったが、すごい。
※※※
私たちが学園の馬車の停車場から出てくると、みんながザワザワする。
ザワザワしてとても見られている感じ。
一応私たち普通にペアで1年生の1位なんだし、しかも婚約者でもあるんだから、(何故だかあっという間に知れ渡った)そんなザワザワしないでほしいけど、でもわかる気する。
私がセオドア様の横にいるのって、たしかに不思議だよね。
セオドア様の方を見ると、
「頼むから他の男と話しないで」
と、訳の分からないことを言った。
「善処します」
セオドア様は私を買い被りすぎだ。
セオドア様の方が他の女子生徒と話さないでほしいのだけど。
でもよく考えたら、そんなに女生徒と話しているところは見たことがないかも。
案外セオドア様って硬派なのかも。
私たちはザワザワと注目を浴びながら、教室に向かった。
読んでくださってありがとうございます(^_^)




