魔法の授業で覚えたいこと
「わ、私……。もう、駄目なんです」
私は勇気を出してセオドア様に言った。
「何が駄目なんだ?」
セオドア様が不思議そうな顔をなさる。
私は深呼吸して、続ける。
「……どうしても駄目になっちゃったんです。私、引き返せなくなっちゃったんです。セオドア様のことが好きな気持ちがもう止められないんです」
私は本当に勇気を出して、言った。
私こんな自分、知らない。
私以外の誰かのところにいってしまうと思ったらとても怖い、嫌われたくない。
今の幸せがなくなってしまったらと思うと怖い。
「デイジー俺もだよ。デイジーのこと、誰にも渡したくないズルい気持ちでいつもいっぱいなんだ。また逃げれられたらと思うと、不安なんだ」
セオドア様が優しく髪を撫でてくれる。
「セオドア様が? こんなちんちくりんな私に、不安になんかなるんですか?」
つい、目をぱちくりして聞いてしまう。
「ちんちくりん? そんなことはないよ。デイジーはとても可愛いよ。それなのに君は何度俺から逃げてくれたか……」
呆れたような顔でため息をつかれる。
「私、たしかに結構逃げちゃってましたね」
「……そうだね」
セオドア様の呆れた顔をみていたら、さっきまで不安になっていたのに、おかしくなってきた。
「……ごめんね? テディ」
なんてついからかって言ってしまう。
すると、セオドア様が私を凝視されて、かなり怖い顔をなさる。
「ひぃ、ごめんなさい。ちょっとからかっちゃいました」
あまりの怖い顔に速攻で謝る。
私、調子に乗りすぎた。
セオドア様のプライドを傷つけしてしまったかも?
どうしようかと困っていると、急にセオドア様に抱きしめられた。
それから、背中に柔らかいものを感じる。
なんと、私は気がつけばセオドア様にベッドに押し倒されていた。
「……セオドア様?」
「デイジー。君は本当に可愛い。好きだよ。こんな可愛い君を誰にも見せたくない。このまま、この部屋に閉じ込めてしまいたい。……本当に君は、なんでそんなに煽ってくれるんだ。結婚するまで我慢しようと思っているのに」
セオドア様の紫の瞳が熱く揺れる。
どうしてこうなっているのかわからないけど、セオドア様に抱きしめられるのが、なんだかとても気持ちいい。
暖かくて、幸せな気持ちになる。
どんどんフワフワした気持ちになって、
「私セオドア様にデイジーって呼ばれるの好きです。だから、テディって呼ばせてもらえて、とても嬉しい、です……」
私はそこまで言ったことは覚えているが、今日1日の疲れからか、ふかふかベッドのせいなのか、セオドア様の腕の中だからなのか。
あまりの気持ちよさに、そのままつい寝てしまったのだった。
※※※
「おはようございます!」
私は元気な声に起こされる。
「ふぇここはどこ?」
私の部屋では無いところで寝ていて、一瞬訳がわからなくなる。
「モンゴメリー侯爵家ですよ!」
私はアイラの快活な声で起こしてもらったようだ。
「あ、そうでした。私お泊まりしてたんでした。おはようございます。アイラ」
ボーっとしてしまう。
ボーっとしていたら、アイラがどんどん支度を整えてくれる。
さすがモンゴメリー家の侍女だ。
ふかふかだが、柔らかすぎず適度な硬さがあるベッドはすごく寝心地が良く、昨日の疲れがすっかり取れていた。
今日は確か魔法の授業を受けるはずだ。
昨日の会食のためのバッチリメイクほどでは無いにしても、適度にメイクをしてくれて、いつもの3倍は可愛くなっている。
しかも、魔法の授業のためか、可愛いのに動きやすいようなワンピースにしてくれている。
すごい侍女さんだ。
「ではまず朝食になります。そこでミーシャさんからマナーの授業の時間のスケジュールの話があると思います」
そう言って、豪華だが、昨日の夕食会場よりは質素な部屋に案内された。
セオドア様がすでにいらっしゃって、
「おはようデイジー、昨日はまた君に逃げれられてしまったな」
なんておっしゃる。
……そうだった、昨日私セオドア様に抱きしめられて寝てしまったんだ。
「昨日お話の途中でなんか寝ちゃってすみません」
私は謝る。
「まぁいいよ。今度は逃げないでね」
「私逃げてませんけどね?」
……話がよく見えない。
もうご両親は早朝から仕事に行ってしまったらしく、お食事は2人で取るのでこの部屋らしい。
「そういえばいつもセオドア様ってお1人でお食事なさってるんですか?」
少し気になって私は聞く。
「そうだよ。両親がいる時は昨日の部屋だけど、1人の時は広すぎてこちらの部屋にしてもらってるんだ」
「そうなんですね。寂しかったらまた私のおうちにお食事にいらしてくださいね?」
セオドア様がきてくださったら両親も喜ぶに違いない。
「ありがとう。また行かせてもらえると嬉しい」
嬉しそうにセオドア様がおっしゃる。
モンゴメリー家のおかかえ料理人の方が作ってくださった、とても美味しいお食事を済ませると、
ミーシャがやってきて、
「本日は魔法の授業が2時間、その後マナーの授業を1時間、そのあと昼食、そして魔法の授業が3時間、そしてマナーの授業が1時間の予定を組んでおります」
「はい、わかりました」
普段の授業のようなスケジュールで、思ったより、いけそうかも?
なんて、私はそう思ったことを後悔することになるのだった。
セオドア様と私はローブを着て、別邸にある教室のような部屋で、先生と向かいあっている。
「私はジェームズ・ライトと申します。よろしくお願いします」
そう言ってご挨拶された。
なんだか優しそうな先生で安心する。
「マーガレット君は、まず何の魔法を覚えたいと思いますか?」
ジェームス先生が私にそうお聞きになる。
「そうですね、まず回復魔法でしょうか」
以前私が怪我をした時、セオドア様が治してくださった。
だけど、もしセオドア様が怪我をされたら私は治せないというのは辛い。
何よりも先に使えるようになりたい、そう思っていた。
セオドア様がびっくりされ、
「回復魔法? 飛行魔法って言うと思った」
確かにセオドア様に何度もしてもらったくらい楽しかったから、私もそれは是非覚えたいのだが、まずは回復魔法が覚えたいのだ。
「回復魔法も難しいですが、飛行魔法はさらに難しいですけど、覚えたいですか?」
そうジェームス先生が私に確認される。
「覚えれるのなら、どちらも覚えたいです!」
私でも覚えられるのなら、ぜひ覚えたい。
「では、かなり厳しくいかせてもらいます。まぁ、このままなら2年の1位には絶対勝てませんからね。ついてきてくださいね」
淡々とそう語る先生を見て、私は少しだけ覚えたいと言ってしまったことを後悔した。
読んでくださってありがとうございました(*´꒳`*)
 




