第20話 セオドア様の愛称
セオドア様のご両親がやってこられた。
私はとても緊張してしまって、ぎこちない笑顔になってしまう。
お二人がスティーブンに案内されて、お席に座られるとセオドア様のお父様が私の方をみてにっこり微笑まれた。
「今日はマーガレットさんにようやくお会いできて嬉しいよ。お会いするのが遅くなって申し訳ない。忙しくてどうにか時間が取れたんだ。まず、ご挨拶させてもらおう。私はセオドアと言う。息子と同じ名前なんだ。そしてこちらが妻のオーロラだ。マーガレットさんが息子とペアになって、婚約してくれて、嬉しいよ。どうか私たちの愛する息子をよろしく頼むね」
セオドア様のお父様がご挨拶してくれる。
「主人の紹介の通り、私はオーロラと言います。どうぞよろしくね。我が家では主人のことはテッドと呼んでいて、息子はテディなの。ここではセオドアではややこしいので、息子のこと、テディって呼んでくださいね」
そうセオドア様のお母様がにっこりとおっしゃる。
テディも、テッドも、セオドアの愛称だ。
「テディ、様……」
「様はいいよ、2人きりの時はテディって呼んでほしいと思っていたんだ」
セオドア様がそうおっしゃる。
……でもセオドア様って、お父様と同じ名前だったんだ。
初めて知った。
「私はマーガレット・バインズと申します。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」
私も緊張しつつも、とびきりの笑顔で受け答えできたと、思う。
「バインズ子爵の御令嬢だね。ご婚約のお話の際にお会いしたがとてもお父上はとても素敵な方だね。またご両親によろしくと伝えてもらえるかな?」
お父様は、お優しくおっしゃってくれる。
「ありがとうございます。そうおっしゃっていただけて、恐縮です。父が喜びます!」
父まで褒めていただいて、本当にありがたい。
セオドア様の感じから、勝手な想像で厳しそうなご両親だと思っていたのに、とても優しいご両親で、びっくりしてしまう。
どちらかというと執事のスティーブンや、侍女のミーシャが厳しそうなので、セオドア様が厳しく躾られたのは、そちらなのかな?
「明日からまた私たちお仕事で留守にするの。だから今日お食事できて本当に嬉しいわ。実はね、私とテッドもペアだったのよ。テッドったら、私のこといつも可愛いって言ってくれたわね」
妖精と見間違えてしまいそうなほど可憐な笑顔でお母様が微笑まれる。
「君は今でも可愛くて美しいよ」
ダンディーなイケメンであるお父様も、お母様の前ではデレデレなさって可愛らしい。
お二人とも凄く素敵だ。
セオドア様はさもいつものこと、という感じで気にされてないようだ。
しかし、いつも余裕のセオドア様が、実はご両親にテディって呼ばれているのかと思うと、なんだかニマニマしてしまう。
とても可愛い。
今日は真っ赤なセオドア様も見れたし、普段となんだか違うセオドア様が見れて、もっと好きになってしまいそうだ。
ふと、これ以上すきになったらダメだ、と思う。
これ以上、好きになったら絶対後戻りができない。
こんな幸せになっていいの?
ペアや婚約を解消してほしい、と言われても大丈夫なように、いつでも逃げれるように、しておかなきゃ。
こんな素敵なことがいつまでも続くわけがない。
なんだか逃げないと決めたのに、何を考えているんだと思うのだけど、やめられなかった。
「……でね、テディったら! いないと思ったら魔法を使っていてね、空を飛んでいて、私たち本当にびっくりしたのよね」
お母様のお声に、ハッとする。
思考の沼にハマりかけていた。
「小さな頃から魔法がお上手なんですね。私さっき飛行魔法をしてもらってとても楽しかったんです」
どうにか、返事ができてほっとする。
テディってなんだかさすがにまだ言えない。
つい使わないようにしちゃう私が、いる。
せっかくのご両親とお会いできているのに、考えこんでしまうなんて。
気をつけよう。
セオドア様はご両親どちらにも似ていらっしゃる。
お母様は、妖精のように、美しくて可憐で、オーロラというと名前に負けないほどキラキラ輝いていらっしゃる気がする。
そしてお父様は、ダンディーなのにふと見せる可愛らしさが素敵で、セオドア様が大人になったらこうなるのかしら、と思わせる。
どうして私の何が良くて、セオドア様に好きになっていただけたんだろう。
あまりにもわからなくて、少し不安になってしまう。
そのあとも、尽きないセオドア様の幼少期のお話をお伺いしたり、食べたことない信じられないくらいおいしいお料理に舌鼓を打ったりして、私はなかなか楽しい時間を過ごせたのだった。
宴もたけなわとなって、
「では私たちはそろそろ退席させてもらうね、デイジーちゃん、どうかテディをよろしく頼むよ。我が家は昔からペア制度を特に重視している家系で、私はお陰でとてもよい妻を得たのだが、テディにもそれを押し付けていいものかと悩んでいたんだ」
そうセオドア様のお父様がおっしゃる。
私、この短時間でご両親とかなり打ち解けて仲良くなって、デイジーちゃんと呼んでいただけるまでになったのだ。
ご両親が素敵な人達で本当に良かった。
そしてお母様も、
「そうなの。私たちみたいに素敵なペアに恵まれなかったらどうする? なんてよく話し合ったわよね。でもデイジーちゃんのような可愛くて素敵な女の子がテディのペアになってくれて本当によかった。テディはベタ惚れみたいだしね。今日会えて、その理由がわかったわ。あなたがペアで、テディと婚約してくれて嬉しいわ! 息子をよろしくね」
そう続けてくれる。
何か、こんなに歓迎してもらえて、いいのだろうか?
不安になるくらい、とんとん拍子に進んでいるような気がする。
幸せすぎて怖いのかも。
セオドア様のご両親とご一緒にセオドア様も退席されたので、残った私は、我が家の感覚で、お片付けを手伝おうとする。
「私達の仕事をとらないでくださいませ」
と皆にやんわりと注意されて、残念なことに私はすごすごと部屋に戻ったのだった。
部屋に戻るとすぐさまアイラが湯浴みさせてくれ、寝巻きに着替えて、なんだか何もすることがなくてボーっとしていると、トントン、とドアがノックされる。
「俺だよ、デイジー」
セオドア様だった。
先程またお仕事で外出されるご両親と、別れの挨拶を交わしていたそうで、終わってすぐ来てくださったのだと言う。
しかし、例の扉を通れば早いだろうのに、通常の扉をきちんとノックして来てくださるなんて、やはり律儀だ。
「明日のスケジュールを伝えておこうと思って」
紫の瞳が優しく微笑まれて、私はやっぱりドキドキしてしまう。
セオドア様は格好いいのだ。
「明日はまだ学園がお休みだから、朝から魔法の特訓をするつもりなんだ。俺のお世話になっている家庭教師の魔導士に一緒に教えてもらう話はつけているから。マナー講座についてはミーシャから明日伝えると言っていたよ。俺たちなら絶対勝てるから一緒に頑張ろうな」
「はい。よろしくお願いします」
「あれ? デイジー、何か元気ない?」
さすがセオドア様だ。
私が少し不安になってること、気づかれてしまった?
「なぁ、また逃げそうな顔になってる。どうか、逃げないで。そして俺のことどうかテディって言ってくれないか」
セオドア様が少し悲しそうな顔で、言った。
「……テディ」
言いながら、セオドア様のプライベートな部分に入ってしまったような、特別感に包まれる。
「デイジー。俺がテディと言わせる女の子は君だけだよ。どうか俺から逃げないで。俺が君が好きなくらい、もっと、好きになって欲しい」
セオドア様が抱きしめてくれながら、私に耳元で囁いた。
嬉しい。
私も、自分の思いを伝えたい。
「わ、私……」
どうかうまく伝えられますように、そう祈りながら、私は口を開いた。
セオドア様も、まさかのお父様と同じ名前でした。縁がある人と意外な共通点がある、なんかそういうことって、ありますよね。
読んでくださって、ありがとうございます(^-^)




