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第2話 綺麗なお花を咲かせたいけれど。

 セオドア様が、「ね、デイジー。君は俺のペアになるんだよ 」と言った。

 そのキラッキラな笑顔の裏の怖さに、私は、慄いていたわけなのだが。


 ほんの少しだけど、慄きつつも、つい彼に見惚れてしまった、のは内緒である。


 それは本当にしょうがないと思う。


 だって私の好み、どストライクなんだもん。

 やっぱり顔だけは、超好みだわ……。


 「デイジー?」つい見惚れていたセオドア様に、急に声をかけられ、「ヒィィィ!」と勝手に口からそんな声がでてくる。


 やはり、遠くからみたりする分にはいいのだが、セオドア様に話しかけられたりすると、すごくドキドキするし、こんなに震えるのか? と言うくらい震えるし、近くに来られると飛び上がってびっくりしてしまう。


 本当はクラスメイトなのだから、怖くても表面上では普通にしたいと思っているのだけど。


 思うに、セオドア様が、あの可憐でお美しいポージー様にひどい仕打ちをしたことが、今や完全に私のトラウマになっているのだろう。


 しかもあの時のことは、誰にも、ミシェルにすら話せておらず、心にしまっているのも怖さを倍増させている。


 ポージー様が絡んでしまっているため、誰にも言えないでいるのだった。


 なので、きっとこのトラウマは一生治らないと思う。


 「そんなに、怖がらないで欲しいんだけど……まぁいいよ。怖がっていたとしても、もうデイジーは俺のペアだしね」


 私は震えながらも、心の中で、たかだか一回こっきりだけのペアに何を言っているんだ、と突っ込む。


 そう、そうだ。

 とりあえず一回こっきりなだけだから、と頑張ることにした。


 それに逃げるわけにはいかない。

 実技は嫌だし休みたいけど、多分今日頑張らないと次は補修だと言われていたのだ。


 セオドア様は無理だけど、補修はもっと無理だ。


 私は覚悟を決める。


 あまりの私の実技の下手さに、この美しい顔に、君と俺はペアに相応しくないね、なんていわれても私は大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫。

 私は心の中で大丈夫を相当繰り返して、ようやく震える一歩を踏み出した。


※※※


 今回の実技は、花の種を、種の状態から、花にする、というものだ。


 これはなかなか難しく、中級程度の実技になる。


 魔力育成専用に作られた花の種を使うのだが、まずペアそれぞれの魔力を種に注いでから、その上で水魔法、土魔法と、お互いがドンドンかけて行く。

 さらにまたそれぞれの魔力を注ぐと花が咲くというもので、二人の力で咲いたその花の形状や色で、ペアの相性をはかる。


 戦闘や、仕事上でのペアを決める際にも重宝されているのだが、もっぱら相性占いとして恋人たちに人気だった。


 よりにもよって! と思わないでもないが、戦い系でなくてよかったと少しほっとする。

 戦い系ならば、完全に足をひっぱるのは確定である。


 種をペア毎に配られる。

 セオドア様がさっさと必要な道具や種を取って来て下さった。

 この人は顔も良いし、仕事も早いのだ。


 「始め!」


 拡張魔法で、スタートの号令がかかると、それぞれのペアたちが、課題に取り組んでいく。


 「デイジー、実技はどこまでできる?」

 セオドア様が優しい声で聞いてくださるにもかかわらず、

私は何か怖くて、

 「あ、えっと、ほとんどあんまりできないんです……」

少し噛んでしまう。

 でも頑張れたと思う。


 ペア毎に用意してもらった敷物の上に二人で座るや否や、

 「そうか。ちょっと触るよ」と言われ、セオドア様の大きくて、少しゴツゴツした手が、私の手を触った。

 手が温かい。


 決してポージー様のような細く長い指の綺麗な手ではなくて、私の手は子どもみたいな小さめの手で。


 残念でちんちくりんな、その小さめの手が。

 その大きな温かい手のひらに収められるような感じになってしまって、もう恐怖なのかドキドキなのか、わからなくなっていると、

 「手、ちっちゃいね」セオドア様の優しい紫の瞳が笑う。

 「セオドア様の手が大きいん……です!」また噛んでしまう。


 ……今は手の大きさはどうでもいいのに!


 「あまり魔力を感じないな。少し魔力を流してみようかな」

 そういうと、セオドア様は私の手に魔力を流される。

 静電気のようにピリピリする。


 「なんかピリピリします」

 ピリピリするのかドキドキするのか、それは最早わからない。


 きっとセオドア様は色々な形で魔力を流してくれているのだろう。

 ピリピリの他に、しゅわしゅわしたり、ゾワゾワしたり、

ボワボワしたりした。


 最後に、あ、今度はフワフワする感じだな、と思ったら、

私の体が急に熱くなって、何がが体の奥から出てきそうな感覚になる。

 「セオドア様……私、何か変です」


 「お、来たかな」

 セオドア様はわかったような感じなのだけど、いきなり変になってしまった私は、どんどん体の感覚がなくなっていって、恐怖を感じる。


 そのまま、倒れそうになっている私を、セオドア様が支えてくださる。

 体が動かなくて、私はセオドア様によりかかるような感じになってしまっている。

 とはいえ意識は鮮明なので、心の中は驚いているし怖いしドキドキしたりしてとっても大変なことになっていて。


 「もうすぐ落ち着くと思う」

 私はどうにか頷き、落ち着くのを待つ。

 どんどん体の感覚が戻ってきた。


 私は動けるや否や、セオドア様の腕の中からさっと飛び退いた。

 「ご迷惑をおかけしました」

 噛まずにいえて良かった。


 少し残念そうな顔をしつつも、

 「魔力が体で詰まってたみたい。これで大丈夫だと思う。やってみようか」

 とまた笑顔でそうおっしゃって、私たちは他のペアに随分と遅れを取りつつも、種に魔力を入れていく。


 まずはセオドア様。当たり前のようにうまく魔力を注いでいる。

 次は私、大丈夫なのだろうか?

 と思ったら自分でもびっくりだが、魔力をいとも簡単に注ぐことができた。


 「不思議だわ、今まで全然できなかったのに」

 私がつい独白すると、セオドア様が答えて下さった。

 「魔力の強い人はたまに体に詰まってなかなか発動しないことがあるみたいなんだ。ちょうど図書館でこないだ調べて知ったんだ」


 「そうだったんですね……ありがとうございます」

 私はセオドア様に、感謝した。

 でも、何かお金を取られるとか、何か大事なものをくれと言われるとか、そういうのは、ないよね?


 感謝しつつも怖がってしまうのは、いつも通りというべきか。


 そして、最後に私の魔力を注ぐと、種がどんどん花へと成長していく。


 その成長する様はあまりに綺麗で、私はついじっと見てしまう。


 育った花びらは、

 まるで虹色のようだった。

 キラキラと光を反射して、いろんな色に見える。

 茎も、葉もとてもみずみずしくて、私は大成功だ、と思った。


 「こんな素晴らしい花が咲いたのだから、補修は免れるかしら」


 今回ばかりは本当に助かったわ。


 これからは、セオドア様と実技のペアにさえならなければ、きっと前よりかはうまくできそうだ。


 「終了!」の掛け声で、ペア毎に咲いた花を確認してもらう。

 私たちはその場に座り、先生が数名で見回ってくださることになっていた。


 過去にあまりに大きい花を咲かせてしまい、運べなかったという方がいたとか? よっぽど相性がよかったのね。


 と思って見回すと何組かそのように大きな花のペアもいた。

 一位はきっとあのペアに違いないわね、とそう思う。


 そのあとすぐ先生方が相談し合ったかと思うと、すぐ結果発表になった。


 最初にペア毎に配られた準備物の中に、文字盤があり、それが光ると順位が発表される仕組みだ。


 なお、ペアの順位は、本人たちにしか知らされない。

 まぁ後で何位だったわ、とか話し合うのは禁止はされていないのでなんの意味があるかはわからないのだが。


 文字盤が光り、私たちの順位が出た。


 そこには1位、とかかれていて……。


 「俺たちの共同作業が実ったな。無理やり魔力を起こした甲斐があったというものだ。デイジー、知ってるかな? この先の魔法実技は常にペアで動くようになるんだが、

下位のペアは練り直しだが、今回の5位までのペアは、そのまま確定になるんだ。君がどれだけ逃げたくなっても、この先は逃げられないよ。末永くよろしく」


 私は、自分の好みどストライクなその笑顔をみて、本気で逃げたくなったのだった。

短編の予定がなかなかおわらなくなってしまいます。短編、難しいですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] すごく良いヤンデレですね!
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