第17話 セオドア様の大邸宅へ
「セオドア様! これ楽しいですー!」
「デイジー、もっとちゃんと捕まって!」
「あ、ハイ!」
私はセオドア様に言われるがままにぴったり引っ付いた。
彼とぴったりこしているのは、とてもドキドキする。
スピード感にドキドキしているのか、彼にドキドキしているのか、もはやわからないけど。
なんせ飛行魔法はすごく楽しい。
なんと私は今、約束していたのに全然してもらえてなかった、すごいスピードの飛行魔法を、今ようやくしていただいてるのだ。
やはり想像してた通り、これはとてつもなく、楽しい!
私が「もう一回してください」を何回もしてしまって、ずっと付き合ってくださってたさすがのセオドア様もハアハアし出して、
「もうやめようね」
と言われて流石に諦めた。
しかし、セオドア様がハアハアしてるの、なんか色気凄いんですけど。
自分がさせておいてなんなんだけど、これは女子に見せたらみんなイチコロなやつだから見せたくないと少し思ってしまった。
「お茶を用意させたからあちらで休憩しよう」
ここは、セオドア様の邸宅である。
侯爵家を舐めていたわけではないが、ここまで広いとは。
すごいスピードのやつ、多分我が家に来てもらってもできなかったと思う。
セオドア様のお宅のような広大な土地がないと無理だ。
我が家があまりにもこじんまりしすぎて泣けてくる。
だが我が家の場合、家族同然の使用人のみんなと共に、自分たちで屋敷や敷地の掃除や管理などをしなくてはならないので、あの広さで十分なんだけど。
こんな広大な土地どうやって管理してるんだろう。
我が家なら持っていたとしても管理しきれず、荒れ放題になりそうだ。
とりあえずすごく広い以外に説明しようがないテラスで、我が家の客間に置いているものよりさらに豪華な椅子とテーブルに案内され、すごくおいしい紅茶をいただく。
「マスカットティーですね。美味しい……」
私マスカットティー大好きなのだ。
しかし今まで飲んでいたのより完全に美味しいやつである。
何が違うのか。
「ああ、デイジーのお母様から君が好きだと聞いて用意したんだ。喜んでもらえてよかった」
そうセオドア様笑顔でおっしゃる。
「わざわざ私のために? 嬉しいです」
セオドア様が用意してくれたの、とても嬉しい。
私は彼の婚約者だからそりゃそうだとは思うのだが、モンゴメリー侯爵家の使用人の皆さんが私にすごく良くしてくれるのが、すごく居た堪れない。
ずっと私のそばにいてくださって色々してくださっている侍女さんはおそらく私より身分が高いと思う。
こんな美味しいお茶淹れられないが、椅子に座っていただき自分が給仕したい気分に駆られるし、彼女の着ているお仕着せすらも、今日着ている自分の一張羅よりいい布地を使ってそうな気さえする。
侯爵家などの邸宅では、貴族の御令嬢が花嫁修行も兼ねて使用人で働かせてもらったりするらしい。
どこそこの侯爵家で侍女をしてた、などと言うと、ぜひ結婚相手に、と箔がつくのだそう。
私はセオドア様に使えるようにしてもらうまで魔法が使えなかったのもあって、魔力を使って王宮で働くことは考えていなかった。
なので、実は卒業後は結婚相手が見つかるまで、学園に斡旋してもらってこういう邸宅で侍女をするつもりだったのだ。
でも今は少し、王宮で働いてみたいなーと思ったりもしているけど。
しかし、侍女をするつもりだったのが恥ずかしくなるくらい、ここの皆さんを見る限り私が簡単に出来そうなほど甘くはないお仕事のようだと思う。
カーテシーは母に叩き込まれたけども。
おかげで先程お会いしたセオドア様のご両親ときちん挨拶できたと思う。
母に感謝である。
セオドア様のお父様は信じられないくらいダンディーで色気があって、お母様は妖精かと見紛うほど可憐だった。
そりゃこの顔が生まれるよな、と無駄にイケメンな顔を眺める。
しかしこの侍女さんはこんなイケメンのセオドア様といつも一緒にいるのに大丈夫なのだろうか? 好きになっちゃったりしないのだろうか?
そう思っていると、侍女さんが急にウルウルとなさって、
「オムツを替えさせていたあのセオドアぼっちゃまが……こんな可愛い子を連れてくるなんて。ミーシャは泣いてしまいます……」
と泣き出した。
「ぼっちゃまはもう辞めてくれないかミーシャ」
セオドア様が恥ずかしがっている。
「オムツ?」
私の勘違いかしら? 私と歳があまり変わらなさそうなこの美しいミーシャ様が、セオドア様のオムツ?
私はつい聞き返してしまう。
「ええ、ぼっちゃまは私がこちらにお世話になった頃にお産まれになって、小さい頃からずっと存じているのです。今までこんなに格好いいのに誰も女の子を連れてこないし、ペア制度も嫌だ嫌だと言っていたのですよ。とても可愛らしいマーガレット様が来てくださって、ぼっちゃまがなんか格好つけていらして、ミーシャはとても感慨深いです」
そう言われながらミーシャ様はハンカチで涙を拭う。
「ちょっと待ってください。私とあまり歳変わらないです、よね?」
つい聞いてしまう。20歳そこそこに見えるけど。
「ミーシャはもう35歳だ。お子さんも2人いる。10代と変わらないというのは言い過ぎだぞ。デイジー」
「マーガレット様、なんて嬉しいことを言ってくださるの! 年若い侍女ではぼっちゃまの事を好きになってしまうので仕事にならないのですわ。私にはぼっちゃまは赤ちゃんにしか見えませんからご安心くださいませ」
ミーシャ様は笑っておっしゃる。
35歳はまだ若い上に、彼女は綺麗すぎて安心はできないが20歳そこそこにしか見えないミーシャに驚きを隠せない。
その美貌を保つ方法を教えてもらいたいものである。
「そんなことより話があるんだ。ここに来てもらったのは他でもない。例の文化祭での学年対抗での対戦についてなんだが」
セオドア様がそうおっしゃるので私は頷く。
そのことは考えれば考えるほど心が重くなる。
なので、考えてないようにしていた。
「実はこの間ベンジャミン様と会う機会があってね。彼に少し喧嘩を売った」
結構すごいことをサラっと話される。
「……セオドア様が喧嘩を?」
あまりに彼に喧嘩を売るイメージがなさすぎて、つい聞いてしまう。
「デイジーに怪我をさせたんだから喧嘩を売るくらいするだろう?」
セオドア様はさも当たり前のようにおっしゃった。
「いや、治してもらいましたし、セオドア様がそんなことされることなかったですよ?」
本当にセオドア様が綺麗に治して下さったお陰で今もピンピンしている。
「デイジー、治ったからいいが、顔や体に傷でもできたらどうしてくれるんだ?」
彼は怖い顔でおっしゃったけど、私のために怒って下さるとわかってきて、少し嬉しくなってしまう。
「ありがとうございます。もし傷が残ってしまっても、セオドア様は私を貰ってくださいますか?」
つい、嬉しすぎて調子乗ってすごいことを言ってしまったかも、と思ったが後の祭りだった。
セオドア様がビックリしたようにこちらをじっと見る。
私はいたたまれなくなって、
「や、今のなしで! 調子乗りすぎましたごめんなさい!」
と誤魔化す。
すると、何も言わずにどんどんとセオドア様が私に近づいてきた。
ほのぼの回にしてみました。
読んでくださって、ありがとうございます(^-^)




