第15話 セオドア様の足を引っ張っているのかもしれない
「クジの不正をしたのは私です。セオドア様に憧れていて、ついやっちゃいました。セオドア様は関係ありませんから」
私がそう言うと、皆がこちらを見た。
「よし、認めた……な」
「ちょっとハロルド、セオドア様が認めないと意味ないんじゃない?」
「どちらかが認めればいいんじゃないのか?」
「まぁたしかにそうか。って、いいのかな?」
2人がブツブツ言っているが、私はまた痛みが押し寄せてきてそれどころじゃなかった。
「ちょっと! 早く誰か回復魔法!」
リタ様が痛がる私に痺れを切らして怒鳴ってくれて、ようやくハッとしたセオドア様が私の方に来た。
特にひどい足首に手をかざし、
「ヒール」
と回復魔法をかけてくれる。
フワフワした温かいものが私の体を包んで、足首の方からドンドン治っていく。
痛みがひいていく感じがフワフワ変な感じがする。
「あ、痛く、ない!」
私は立ち上がると、早速ピョンピョンする。
痛くない。
セオドア様がほっとした顔で見てくれる。
なんだかやっぱり、セオドア様のこういう優しい顔好きだなぁと思ってしまう。
「デ……」
セオドア様が私に何か言いかけたところで、
「治りたてにすぐそんなことしないの!」
リタ様が、セオドア様が何か言いかけたのを無視して、その声に思いっきり被せて、私に怒ってくる。
「あ、はい」
私はピョンピョンをすぐやめる。
そんな私を見てリタ様はほっとして、
「でもよかったわ。私のためにこんなことしなくていいのよ。受け身くらい取れるから」
とおっしゃった。
「でも私が巻き込んだんですし」
「まぁそうね、それならお互い様ってことにしましょうか」
「そうですね」
リタ様がどんどん気さくな口調に変わってきたのが、なんだか嬉しい。
被せたご本人であるリタ様は全然気にしていないようだが、私はセオドア様がどうしても気になって、
「あ、あのセオドア様……」
と話しかけたところで、
「リターーーー!」
遠くからジョシュア様の声が聞こえて、すごい勢いで教室のドアが開いた。
「よ、よかったリタ、探したんだそ! 急にいなくなるから」
「ジョシュア、何慌ててるの。子どもじゃないんだから、大丈夫よ」
ハァーとため息をついて、ジョシュア様がリタ様の髪の毛を撫でられた。
リタ様、そうは言ってもなんだか嬉しそうだ。
この2人、結局すごく仲良しだよなぁ。
でもさっきから私たちこの2人に邪魔されて全然話できない。
「デイジー、今のはなんだ?」
セオドア様がまた話しかけてくれた。
「セオドア様、さっき私に話しかけてくれませんでした?」
「デイジーさっき、不正がどうとかって」
「ああ、えっとそれは……」
流石にみんながいる場所では言えなくて、口籠る。
あぁそうだった。
私たち、やっぱりもうペア解消なんだろうか。
……ペア解消したら、婚約も、解消だよね。
そう思ったら、どうしても悲しくなってきて、涙が勝手に出てきてしまう。
私の涙を見たセオドア様は、
「デイジー、泣かないでくれ……」
とオロオロしている。
あのセオドア様が、まさかオロオロしているのに少しびっくりするが、涙が止まってくれない。
セオドア様が私のヨダレを拭いてくれたのとはまた違う綺麗なグリーンのチェック柄のハンカチを出してくれて、涙を拭いてくれながら、
「君がそんなこと言わなくてよいんだよ。それは俺がやったんだから」
「……セオドア様、ダメです! 私がやったんです!」
それを言ってしまったらセオドア様が、きっと大変なことになってしまう。
私が泣いてしまったから、言わせてしまったの?
「よし、セオドア様の言質も取れたぞ!」
「これで私たちもう大丈夫よね?」
ハロルドさんとアメリアさんが、何やらほっとした感じで話している。
しかし、彼らは一体どうしてそんな私たちが不正をしていると認めさせたいんだろう?
ふと疑問が沸く。
「……ちょっと! 皆さん!」
ジョシュア様とイチャイチャされてたリタ様が、急に大声を出される。
皆リタ様の方を見る。
「あの、ペアのクジの不正って何?」
リタ様がそうおっしゃる。
「この2人はクジで不正をなさって、ペアになったようです! 1位のペアが不正、これは大変なことです」
ハロルドさんがリタ様に言う。
リタ様が考え込むように少し黙って。
……口を開かれた。
「あの、ペアのクジってそもそもなりたいもの同士でなれるようにしてもいいわよね?」
「「「……え?」」」
ハロルドさんとアメリアさんと、私の声が被る。
私は涙が引っ込んだ。
「クジのシステムを理解することも勉強でしょ。ペアになりたい者同士が、ペアになれるようにするのも含めてそのシステムは成り立ってると理解してたわ。そもそもジョシュアと私もしたわよ。セオドア様はご存知でいらっしゃると思うけど」
リタ様がスラスラとおっしゃる。
「え? セオドア様? それ本当ですか?」
私は隣に立ってくださってるセオドア様を見上げて、聞く。
「ああ、そうだ。そのことはあまり公にはなってはいないが、ペアになりたいものとなれるように何か細工したりすることは認められている。どうしても君を誰にも奪われたくなくて結構張り切ったんだ」
そうなんだ、そう言おうと私が口を開こうとすると、
「そ、そうだったの……?!」
アメリアさんが先にお話になって泣き出される。
ハロルドさんもすごくホッとされているようだ。
「……君たちのことを調べたが、そのようだな。君達も知らずに、お互いペアになるように細工したんだろう。たしかに特待生だとそのことを誰にも聞くことはないかもしれない。特待生で2位になるのは前代未聞だそうだよ。なぁ、教えてくれるかな? 誰が君達を騙して脅したんだ? 俺のデイジーにこんな酷いことをしようとしたやつを、ぜひ教えてもらってもいいかな」
セオドア様がそうおっしゃる。
その顔はすごく怖かった。
そもそも、私のメモを発見してから今までにそのことを調べ上げるなんてすごすぎる。
どんな情報網を持っているんだろう。
しかし、端っこの方とはいえ、同じ貴族なのにその話を知らない私はどうしたらいいのだ。
きっと私がそういうことに疎いことは承知の上で、私が狙われたんだ。
私が、セオドア様の足を引っ張っているのかもしれない。
ハロルドさんは、セオドア様の迫力にビビりながらも、覚悟をきめたようにその人物の名前を口にした。
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