第13話 全然私期待してなかったからね
「デイジー、今日一緒に帰らないか?」
西日に反射してセオドア様の髪色が青く光る。
光の加減で青みが強くなるこの髪色は、本当に綺麗で見惚れてしまう。
私のとても好きな色だ。
紫の目が優しくこっちを見て、ドキドキしてしまう。
つい、「よろこんで!」と言ってしまいそうになる自分を抑え込む。
やはりセオドア様の顔、好きだなぁ。
いや、私は行かねばならないのだ。
『ペア決めのクジで、君たちが不正をしたのを知っている。バレたくなければ、放課後、空き教室の○ー○教室まで来い。決して誰にも言わないこと』
そんな手紙が私の机に入っていたのだ。
すぐ消えてしまったが、慌てて覚えているうちに手紙の文字を一字一句メモったのでそのメモは私の手元にある。
普段はセオドア様に一緒に帰ろう、なんて言われることなんかないのに、こういう時に限ってそういうことが起こったりする。
人生とは不思議なものだ。
「今日予定あるんで、すみませんがまた今度誘ってください」
一緒に帰りたい気持ちをこらえて、お断りする。
それにどうやって馬車のセオドア様と徒歩の私が一緒に帰れるんだろう。
若干興味が沸くが、残念だ。
手紙に書いてあった、誰にも言わないこと、っていうのは、ペアであるセオドア様には言ってもいいんだろうか?
大丈夫な可能性も大いにありそうだが、ここは念のためダメだと仮定して動くべきだろう。
「残念だな。ではまた明日」
そういうと、いつものセオドア様らしくなくあっという間に帰宅される。
いやいつもみたいに、なんで一緒に帰れないんだ、とか食い下がってきて追いかけてきてくれるだろうなって思ってたわけ、じゃない。
私全然そんなの期待してたわけじゃないから。
本当に全然全然。
本当にそんなの全然期待してなかったからね!
まぁ、無事? セオドア様は撒けたので、私は例の待ち合わせ場所である空き教室に急いで向かう。
ドアを開けると、誰もいない。
普通にいつもの空き教室だ。
普段は大抵、ドアの影に隠れたりとか、しゃがんで隠れているので地べたに座りがちだが、今日はドアに一番近い席をお借りして座る。
隠れないでいい空き教室、嫌いじゃないな。
「……ハっ」
私はいつのまにか机に突っ伏して寝てしまったようだ。
私は今日はちゃんと自分のハンカチでヨダレを拭く。
あの時、恥ずかしかったなぁ。
好きな人に拭かれる身にもなってほしい。
昨日は早く寝たつもりなのだが、二日前の夜更かしの疲れが残ってるんだろう。
今朝両親も早く寝たはずなのにまだ眠そうだったし、夜更かしは本当にするべきではない。
だがあれは本当に危機一髪だったのだ。
家族総出で夜更かししてでも、乗り切れてよかったと心からほっとしている。
リーズナブルなのに防水で、しかもつけている者の魔力で動くという、私のお気に入りの腕時計を見るとそんなに時間は経ってないが、見回しても手紙の送り主は来ている様子がない。
放課後とは、一体何時までのことを指してるんだろう。
念のためメモをみようとスカートのポケットをゴソゴソしてみたが、なかった。
あら? 私あのメモどこにやっちゃったんだろう。
たしかにスカートのポケットに入れたと思ったんだけど、無意識に教室に置いてある鞄に入れてしまったのかも。
一旦教室に戻ってメモ見に行こうかなぁ、なんて思っていたその時、ドアが開いて、
「あ! マーガレットさん!」
と声がした。
手紙の出し主がようやくきたか、と思ってドアの方を見るとリタ様だった。
今日はジョシュア様は伴っておらず、単品である。
「あなたが手紙を?」
「手紙? なんのこと? あ、それよりお話よろしいかしら?」
彼女は、全くもって私の返事は待たずに隣の席に座る。
リタ様らしいというか、なんというか。
リタ様は私の顔をじっと見て、
「あ、あの。あの、あのですね。あのね。えっとそのあの。つまりあの。それであのね」
どうやらリタ様は私に何か伝えたいようだが、全くわからない。
「はい」
私はこないだのこともあって、つい適当にあしらってしまう。
「つまりそう、それであの、つまり……。ご、ごめんなさい!」
そう言いながら、リタ様が頭を下げた。
あの、リタ様が……。
私はあまりの衝撃についポカンとしてしまう。
頭が働かなさすぎて、リタ様の下げた後頭部を眺め続けて、ようやくハッとなって、
「リタ様! わ、私、気にしてません。頭上げてください!」
と慌てて言う。
私、リタ様の綺麗なつむじ、眺めまくっちゃった。
リタ様はようやく頭を上げて、
「ずっと言いたかったんだけど2人きりになれる時なかなかなくて。ようやく言えてよかったですわ」
心なしかほっとした顔で、にっこり微笑まれた。
リタ様はピンクがかったブラウンの髪色で目はキリッとしていて瞳は緑色だ。
キリッとした雰囲気なので、怒ってらっしゃる感じだったこないだはとても怖かったけど、こうやってニッコリとなさると雰囲気が一気に柔らかくなって、本当に可愛らしい。
「では! また明日!」
リタ様は嵐のように、言いたいことを言うと、さっさと帰るため空き教室のドアを開けられた。
「ん?」
何かリタ様が変な顔をなさっている。
「どうかなさったんですか?」
「ドア、開かないみたいなの」
リタ様が困った顔で言う。
私は立ち上がって、
「私も開けてみます」
と言ってドアを開けようとしてみたが、開かない。
「何ででしょう、あ、後ろのドアなら開くんじゃないですか?」
私はいつもの素早さですぐ後ろのドアを開けようとするも、開かなかった。
「私もやってみる」
リタ様も開けようとするも、開かない。
「「……」」
私はリタ様と顔を見合わせる。
リタ様は不安げな顔をなさっている。
きっと私もそんな顔をしているに違いない。
「あ、まだ! 窓があります!」
「そ、そうね! 窓がありますわね!」
2人でそういうと、片っ端から窓を開けようとしてみる。
が、びくともしなかった。
「全然開かない……なんで?」
「本当に、びくともしませんわ。どういうことなの?」
もしかしたら、手紙の送り主が私を閉じ込めたの?
そして私はもしかしたら、関係ないリタ様を巻き込んでしまったのかもしれない。
「そもそも、マーガレットさんは何故こちらにいらしたんですか?」
リタ様が怪訝な顔でこちらを見られる。
それは、たしかにもっともな疑問だ。
私、どうしよう、手紙の事は絶対言えない。
リタ様に、何て言おう。
「実は……」
どうにか私は口を開いた。
いつも読んでくださってありがとうございます(*´꒳`*)
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後書き久しぶりにかいてみましたm(_ _)m




