第12話 ペアの順位、中間発表
「中間発表?」
私はランチのサンドイッチを頬張ったまま、間抜けな声を出した。
「デイジー。食べながら喋っちゃ行儀悪いよ。はい、お茶」
ミシェルは私に水筒を渡しながらそう言う。
私はサンドイッチをお茶で流し込んで、
「中間発表って何?」
と再度聞く。
「うん、明日私たちの学年のペアの順位が、発表されるんだって。最終発表はまだまだだから、中間的に発表してくれるらしいよ。さっき先生言ってたよね?」
ミシェルが私を呆れた目で見る。
「全然記憶にないわ。言ってた?」
本当に言ってたのだろうか。全然覚えてない。
「寝てたもんね」
ミシェルはさらに呆れた顔で見てくる。
そうだった。私はそういえばどうしても睡魔に抗えずに寝てたんだった。
起きたら休み時間に突入してて、セオドア様がなぜだか目の前にいて、爽やかなブルーのハンカチでヨダレ拭いてくれたんだった。
すっごくすっごく恥ずかしくて、セオドア様への思いに気付いてから逃げないと決めたにもかかわらず、私は久しぶりにセオドア様から逃げたのだ。
またあの空き教室まで逃げたのに、すぐに追いかけられてあっという間に捕まってまたキスされて、
「俺以外の誰にもデイジーのヨダレを拭かせたら許さないよ」
とか言ってきて、わけがわからなかった。
あの空き教室、いつもそこに逃げてしまうんだけど、自分ながらワンパターンすぎて落ち込んでしまう。
次逃げる時はあの空き教室は絶対選ばないようにしよう。
そんなことを考えていたら、
「……セオドア様のお陰で免れたのに、今度こそ補習になるよ」
とミシェルの声がして、慌てて、
「はい! 気をつけます!」
と言ってしまった。
補習にならないことも気をつけるが、あの空き教室に逃げ込まないことにもぜひ気をつけたいと思う。
お昼休みに、私とミシェルは学校の中庭の隅のベンチでランチを食べている。
私たちは大抵は教室だが、時々気温が良くていい天気の日は中庭で食べたりもする。
「あ、あの2人」
ちょうど中庭にふらっと現れた男女2人を見て、ミシェルが私に目配せした。
「2人?」
そこには、ハロルド・サイラスと、アメリア・カーターがいた。
お2人は特待生で、確か平民出でいらっしゃったと思う。
特待生だと学費が無料になるはずで、貧乏令嬢の私もやるだけはタダだと思って申請はしてみたけど無理だった。
それほど難しい試験だったのでそれをクリアできるのは素晴らしい。
確か、セオドア様も受けられて、1位で合格したにもかかわらず特待生枠を辞退するという謎の行為をしていた。
お金持ちは本当に何を考えてるのかわからない。
まぁセオドア様が辞退していただいても私は全く特待生枠にひっかからなかったんだけど。
両親は無理して学園に入れてくれたわけで、本当に感謝している。
それなのに貴重な授業で寝てしまって申し訳ないとは思っている。
「うん、あの2人ペアなんだけど、中間発表で1位になりそうって噂なんだよね」
「えっ1位になりそうとか凄すぎない? さすが特待生。私ここだけの話、特待生の試験受けたけど落ちたんだよね。受かってたら学費分を領地に還元できたというのに。ごめんね、我が領地の皆様」
「同じく落ちた組だわ。我が領地の皆様にも本当に申し訳ない気持ちよ……」
「えっミシェルもだったんだ。あの試験難しすぎだよね? 本当お互い資金管理には苦労するね」
昨日、本当はちょっと今月お金が厳しいぞと家族会議になって遅くまでみんなで電卓叩きあっていたのだ。
おかげでめっちゃ眠いんだけど、どうにか今月も乗り切れそうだとわかって一安心なのだった。
確か上位ペアは王宮に就職先を斡旋してもらえるらしくて、なかなかの高待遇らしくって、私も本当は1位に憧れている。
セオドア様だけなら1位もあり得るけど。
まぁ私とペアになりたがったのは、彼の方だから許してくれるだろう。
間違いなく知的で聡明な雰囲気を振りまいている2人をみながら、私はあの2人が1位なんだろうな、とそう思った。
※※※
次の日、私はドキドキしながら、学園の門をくぐる。
いつもより早く来てしまったせいで、やたら従者を伴った馬車が多い。
私はそこまで遠くないので徒歩で来ていて、しかも誰も伴わないスタイルを貫いている。
同じ貴族といえどここまで違うのかとは思うが、別に徒歩でも全く困ることもないし特に気にしていない。
別世界の話だと思えばなんてことはない。
発表の場は校舎の前の掲示板だそうだ。
ドキドキしながら向かうと、すでに沢山の人が集まっていて、全然見れない。
もう少し人が落ち着いてから行こうと少し遠巻きにしていると、セオドア様が、
「おはよう」
と声をかけてこられた。
「おはようございます、セオドア様。もう順位見られました? 人がいっぱいで見れなくて」
「俺が人がいっぱいのところ行くわけないだろう」
「あ、そうですか」
……人のヨダレは拭くのに、そうなんだ、と少し思う。
そんな会話を交わしていたらエイモスとポージー様がやってきた。
「おっセオドア君、おはよう! やっぱりすごいな1位だったぞ」
エイモスがそう言う。
「えっ? 誰が1位?」
わけがわからなくて聞きかえしてしまう。
「デイジーさんとセオドア様のペアがですわ。おめでとうございます。私だちは残念ながら3位でしたの。最終の順位は負けませんからそのつもりで」
ポージー様が余裕の笑顔で微笑んだ。
セオドア様を見ると、
当たり前だろ、っていう顔をしていたけど、私は信じられない気持ちだ。
人が落ち着いてから私も見に行ってみると、やはり1位だった。
信じられない。
3位は先ほど聞いた通りエイモスとポージー様で、2位は例の特待生ペアだった。
夢でも見てるのかな? セオドア様がすごいんだろうか。
本当に信じられない。
夢心地のまま、教室の席につくと、引き出しに手紙が入っていた。
「なんだろ?」
私は開けてみると。
『ペア決めのクジで、君たちが不正をしたのを知っている。バレたくなければ、放課後、空き教室の○ー○教室まで来い。決して誰にも言わないこと』
と書いてあって、私が読んだ後すぐに消えてしまった。
(どういうこと? セオドア様、あの花が1位だったから大丈夫だっておっしゃっていたけど、本当は不正になっちゃうの? どうしよう!)
というか、そもそもこの空き教室は何度も私がセオドア様から逃げては見つかってはそういうことになっている教室なのだ。
もしかしてあの時のそれを見られていてってことは、ないよね?
……私はどちらかというとそっちが不安になってしまい、放課後行くことを決めたのだった。




