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第11話 キャパオーバー

 

 「おはよう。デイジー。週末セオドア様がいらっしゃったのよね? どうだった? 楽しみにしてた凄いスピードのやつやってもらった?」

 私が校庭の隅のベンチでボーッとしていると、登校してきたミシェルが私を見つけて話しかけてきた。


 「あー! 忘れてた。凄いスピードのやつ……」

 私は混乱のあまり、あの後の記憶がほとんどない。

 キャパオーバーだったようだ。


 「あ、それよりミシェル、何かセオドア様に言った? 私が仲良くならないと家呼ばないみたいな」

 

 「言った言った! なんかセオドア様に話しかけられたと思ったらデイジーのことでね。人見知りのデイジーとようやく打ち解けて仲良くなって、ようやくお宅に呼んでいただいた時すごく嬉しかったからそんな話したわ」


 「私そんな人見知り?」

 結構いろんな人と仲良くなっている気でいたけど。


 「気づいてないの? かなりの人見知りよ。仲良くなるまで凄い時間かかるし。それにすごく頑固。セオドア様もえらい面倒くさい子好きになっちゃったわね。でもデイジーってほんと可愛いもの、好きになるのわかる。セオドア様って結構見る目あるなって思ってたの」

 ミシェルはいつも可愛いって言ってくれるのだ。


 「ミシェルありがとう。ミシェルもいつも可愛いよ。……あのね、きいてもらえる? 私どうしたらいいのかもうわからなくて。私ね、セオドア様と婚約することになったの」 

 私は最後の部分は、ミシェルにひそひそ耳打ちする。


 あれからすぐモンゴメリー侯爵家より正式な婚約の要請が来た。

 両親もすぐ了承の連絡をしていて、私はもう逃げられないんだ、と思ったら怖くて仕方なかった。


 「えっそうなの! ようやくなのね、よかったね。おめでとう!」

 ミシェルがすごく喜んでくれる。


 「本当にセオドア様のこと好きだもんね、でもどうしてそんなに不安な顔しているの? ちょっと早いけどマリッジブルーみたいな?」

 母にも言われたようなことを言われる。


 「ねぇ、私母にも言われたんだけど、そんなにセオドア様が好きに見えるの?」

 みんなそう言ってくるのは何故なんだろう。


 「えっデイジー、気づいてないの? そんなに目で追ってて? セオドア様と話すとき、すごく緊張してるのにうっとりしてて? もう好きなのバレバレよ」

 ミシェルがびっくりしたように言う。


 「えっ私セオドア様のこと顔は好きだけど、それが恋愛の好きかどうかなんてわからないよ」


 「ふーん。あのね、私はね、デイジーの1番の仲良しだって自負してるから言うけど、デイジーはセオドア様が好きだって思ってるよ。でも、まず落ち着いてじっくり考えて、自分で答え出してみたら?」


 「ミシェル、私もあなたが1番の仲良しだって思ってる、ありがとう。ちゃんと、考えてみる……」

 ミシェルの優しさにウルウルくる。


 「わっデイジーどうしたの? 泣かないでよ」

 

 私はそのまま全然涙が止まらなくて、保健室送りになってしまったのだった。


 保健室のベッドで、泣きすぎた顔を冷たくしたタオルで冷やしていると、

 「失礼します」と声がし、

 保健室のドアが開くと、ポージー様がいた。


 「今先生出てらっしゃいます」

 「マーガレットさん、私は先生ではなくてあなたに用事だったの。今よろしいかしら?」


 「は、はい。大丈夫です」

 なんて言いながら、ポージー様の美しい顔に見惚れてしまう。


 どうしてセオドア様は美しい彼女を選ばず、私なのか、どう考えても不思議だ。


 でも……選んでくれたんだよね? 私がいいって言ってくれたんだよ、ね?

 なんだか胸が痛い気がする。


 そんなことを考えていたら、

 「あの……本当に、ごめんなさい!」

 急にポージー様に謝られた。


 「えっ? 私ポージー様に謝られるようなこと何もされてません。頭を上げてください」

 私は焦ってしまう。


 「いえ、リタ様とジョシュア様のことです。なにやら私のためにあなたに酷いことをしたみたいだから。謝りたかったの」

 ポージー様はすごく責任感のある方なのだろう。

 彼女は何もしてないのに、こうして保健室まで来てくださって、謝ってくださる。

 

 「いえ、ポージー様は責任を感じることありません。私がセオドア様と全然釣り合ってないから悪いんです」

 と言って私は笑った。


 ……私、セオドア様に全然釣り合って、ない。

 そうか、言いながら気づいたけど、私ずっとそう思ってて。


 「え? セオドア様とマーガレットさん、とてもお似合いですわ。お二人が一緒に居る時のマーガレットさんって本当にお可愛らしくて、私、焼き餅やいちゃいました」

 ポージー様がはにかんでそうおっしゃった。


 え、ポージー様が私に焼き餅?!


 「あ! ご心配なさらないで。昔のことですわ。今は私、エイモスと婚約いたしましたから」


 「えっエイモスと? おめでとうございます!」

 エイモス、いつのまに……。

 絶対エイモスには高嶺の花だと思っていたのに。


 「ありがとう。エイモス、素敵でしょ。どうか、あなたにはセオドア様がいらっしゃるのだから、私の大事なエイモスにあんまり気安くなさらないでね?」

 

 「えっ! エイモスは私のことなんて何も思ってないですよ! ポージー様でもそんな風に思うんですか?」

 こんなに美しい人なのに。


 「何おっしゃってますの? 当たり前でしょ、好きなんだから。私、エイモスに嫌われたらどうしようって不安で怖くてどうしようもないの。お恥ずかしいけど」

 ふふ、と笑ってそうおっしゃるポージー様は、恋する女の子って感じで、いつもよりさらに、可愛いかった。


 そのあとすぐにポージー様は保健室を出られた。


 私はポージー様の出られたドアを眺めながら、考えていた。


 もしかしたら、私はずっとわかってたのに、気づいてないふりしてたのかもしれない。


 セオドア様が好きなのに、全然釣り合わないから、好きなわけないからって不安で怖くて、気づかないふりしたんだ。

 

 だからずっと私は逃げたかった?

 セオドア様が本当は好きだから、彼に嫌われたくないから。


 私、セオドア様が好きだったのか。


 「失礼する」

 ガラっとドアが開く。


 突然開いたドアに少しびっくりしつつもそちらを見ると、セオドア様だった。


 「大丈夫か? デイジー」


 よく見ると、いつも余裕なセオドア様の息が少し上がっている。

 「授業に現れないから、ミシェル嬢に聞いたら、保健室に行ったと聞いた。すぐに行きたかったんだが、先生に少し用を頼まれてしまって最速で終わらせてようやく来れたんだ。体調が悪いのか?」

 少し息を切らせながらそう話してくれる。


 セオドア様、私のために、急いできてくれたんだ。

 そう思った瞬間、セオドア様のことを思いっきり意識してしまって顔がどんどん熱くなるのを感じる。


 私は急いで枕を取って、顔を隠す。

 「セオドア様、ダメ。今私のこと見ないで」


 「どうしてだ?」

 

 「あ、あの……。私、どうやら、セオドア様が好きみたいなんです。だから今顔が真っ赤なの。絶対見ないでください!」


 セオドア様は、私からいとも簡単に枕を奪ってしまう。

 

 私の顔はもう、耳まで真っ赤で。

 せっかく冷やしてマシになったのにまた涙がボロボロでて。

 今私、信じられないくらい、間抜けな顔だと思う。


 「……本当だ」

 セオドア様はハンカチで私の涙を拭きながら、

 「デイジーはようやく俺のこと好きになってくれたんだな」

 と言って、私にキスをした。

 

 ようやく、じゃなくて、本当はずっと好きだったんだよ。


 私、もう逃げない。

 怖いけど、気づかないふりなんてもうしない。

 釣り合わないなんて、もうそんなこと思わない。

 私は、覚悟を決めた。

 

ようやくデイジーは気持ちに気づいてくれました。

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