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クラブ紹介短編集

問答

作者: いあいあ

放課後の夜、夕暮れ時の空を背景にして、彼女が告白をする。

「あなたには、その……こんな事をしてくれる人もいないだろうから……その……私が付き合ってあげても良いわよ!!」

挿絵(By みてみん)

彼女がフェンスを後ろにして、俺に向かって告白する。

頬を染めたその顔は少し艶っぽく、こちらも緊張を感じる。

そして俺は、彼女の告白を……

「ふざけんな。」

盛大にぶち壊した。彼女が頭を抱えて、溜息を吐き、表情を崩して、呆れたように言葉を紡ぐ。

「乙女が告白してきた答えがそれかい?さすがにダメだろう。」

俺も思わないこともないが、それはコイツ以外の女性相手の場合に限る。

普通の女性の場合、あんな投げやりな答えを返した場合、嫌われるのは間違いない。

だが、この女だけは別だ。

仮にコイツが清楚を装って近づいて告白してきたら俺は間違いなく中指を立てるか、大声で叫んで逃げ出す。

立てば水仙、座れば樒、歩く姿は夾竹桃。

どこまでも毒々しくて、気を許せない女が彼女なのだ。

「全て毒持ちの花じゃないか。でも、まぁ女の子を花で例えたのは良い例じゃないかな?私としては褒めてもいいくらいだ。」

彼女は何がおかしいのか、こちらを見ながらクスクスと笑っている。

ああ、最悪だ。気味が悪くて、気分が悪くて、たまらない。

「わかったらもういいだろう。お前の趣味に付き合う気はない。」

この毒婦と睨みつけてやると、肩をすくめる。

「そんなに嫌いかい?私の事が。ああ、怖いのかな?」

「お前の愛に付き合ってやる道理はないって事だよ。」

俺が吐き捨てて、屋上から去ろうと扉を開ける為にドアノブを回すが開かない。

「ああ、私が満足するまで扉は開けないよ?」と、屋上の鍵をプラプラとちらつかせる。

「もっとも、君がここから飛び降りるっていうのなら止めないけどね。」と冗談めかして言う彼女に、頭に血が昇っていく。

彼女を満足させるか、彼女が飽きない限り、俺はここから出してもらえることはない。

「それで、今日は何の用事だよ。付き合ってくれ以外なら聞いてやる。」

「付き合って。」「ふざけんな。くたばれ。」

言うなって言ったのに、無視して言ってきやがる。

「いいか、俺はお前の愛のために存在している装飾品じゃない。悪いが、いや、悪いと思ってないが、俺じゃないどこかのだれかでやってくれ。」

「そうじゃない。私は君を装飾品として見たからじゃない。本当だ。君が欲しい。君が良い。こんな気持ちははじめてだよ。」

顔をしかめて、彼女の発言に対して冗談じゃないと吐き捨てる。

「だとしたら余計にお前に嫌われたくなったよ。」

「この愛の化身が」と付け足すと、彼女は笑ってから、私に問いかけた。

「そもそも、誰かを愛するという行為自体、自分を満足させるための行為じゃないかな?無論、それだけじゃないのは認めようとも、でも愛の根底には自分がという自己への欲がある。自分が愛したい。自分が愛されたい。とか色々ね。」

長々と煩わしい。俺はお前の問答なんぞどうでもいい。

「生憎、どっちでもいいし、どうでもいい。そんなもん人によりけりだろう。長々と鬱陶しいぞ。用件を言え、用件を。」

彼女はしばらく考えて、俺に用件を言う。

「君はどうして私を嫌うのかな?私は君に恋をしているというのに。」

「お前は俺に恋をしてなんかいない。愛しているのは自分だけだ。お前が俺に抱く愛も結局はその手の類だ。君が良い?君が欲しい?気味が悪い。お前は俺を装飾品としてしか見ていない。聞こえのいい言葉を使うな。」

彼女は悪びれずに堂々と己を肯定する。

「別に良いじゃないか。他者は己を華美に彩る装飾品。綺麗なお題目や、鬱陶しい倫理や道徳なんか必要ないし、知ったことじゃない。私は自分を偽らない。何度も言うが、私は君が好きだ。例え君が私の事を嫌いであってもね。君には私を無理矢理にでも好きになってもらう。」

そう言って、彼女は一息ついて、ウインクをしてこう言った。

「知っているかい?愛する者に正気はないらしいよ。」

俺は心底呆れ果て、溜息をついて、空を見上げた。

いつの間にか、夜になっていたらしく、空に満月が浮かんでいた。

「ああ、そうかいそうかい好きにしろ。絶対に好きにはならないから無駄だと思うが。」

満月の夜を背にして、フェンスにもたれかかる。

「今は無駄かもしれないけどね。」と、彼女は笑うと、こちらに接近して……

「でも、いつか好きにさせてみせるよ。」と、口にキスを落とした。

いきなりの事で、思考を停止して、呆けてしまう。

「それじゃあ、また明日ね。」と、手を振って屋上の鍵を開けて帰っていった。

ふざけんなと小さく言葉を零して口を拭おうと手を動かすと、学生カバンに何かが挟まっているのが見えた。

取り出してみると、手紙だったので、破り捨てようとしたが、さすがに失礼かと考えて封を開けて中身を見てみる。

「月が綺麗ですね。」と、一言だけ書いてあり、それを見て、何故だか、不思議な気分になる。

「……こういうのは男から言うべきものだろう。」

時代錯誤と馬鹿にされるかもしれないが、こういうのは自分から言いたかったなとは思う。

用は男の意地という奴だ。あんなに罵倒した後もこういうのを渡してくるとは思わなかった。

考えを改める必要があると感じ、手紙をカバンにしまい、屋上の扉を開けて、帰ることにした。


絵・ときわ

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