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剣闘士令嬢  作者: 春紫苑
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四話 もう一人の淑女①

 セクスティリア・カエソニアより、セクスティリア・シラナへ文をしたためます

 

 お手紙ありがとう。

 あの子の体調が思わしくないとのこと。

 貴女が気に病まなくて良いの。あの子はもう随分と生きたから、きっと寿命なのだと思います。

 私が子供の頃から一緒だった子だから、できればこちらに連れてきてあげたかった。

 だけどカエソニウス様は猫がお好きではなかったから、貴女に無理をお願いしてしまいました。

 もし食欲があるようなら、湯掻いた鶏肉をすり潰して与えてください。

 暑さは苦手だから、涼しいところに寝かせてあげて。

 そしてもし、あの子が天に召されたとしても、貴女は何も悪くないわ。

 

 心優しき妹セクスティリア・シラナへ、セクスティリアより

 

 

 お姉様からの手紙が届いたのは、秋も終わりという頃合いだった。

 私の手紙からふた月以上が経ち、空気は随分と冷たくなっていたわ。

 お姉様がカエソニウス家に嫁がれてから、そろそろ一年が過ぎようとしていた。


「珍しいな」


 耳元でそう声が聞こえ、慌てて手紙を胸元へ引き寄せ隠したら、ひょっこり黒髪が視界の前に落ちてきたものだから、さらに驚いてしまった。

 私の右後ろから覆いかぶさるようにして覗き込んでいたのはアラタ。

 びっくりして後方に倒れそうになった私の背を、左側からクルトが支えてくれなかったら、私は頭を木の幹にぶつけていたでしょうね。


「ご、ごめんなさいっ。二人に気づいていなかっただなんて……っ」


 私ったら、どれくらい手紙に見入っていたのかしら。

 慌てて謝罪したけれど。


「いや、そりゃ全然構わんっつか……なんかあったのか?」

「えっ⁉︎」

「サクラが何かに没頭しているって珍しいからね。

 それに、表情がとても深刻そうだったから」


 二人ともにそう言われて、それほど私は周りへの配慮を怠り、現実を失念していたのだと分かって、恥ずかしくなってしまったわ。

 なんてこと。お姉様に顔向けできない。私ってどうしてこう出来が悪いのかしら……っ。


「ごめんなさい……。

 私ごとで二人を煩わせてしまうだなんて……」


 三人でいる時は、三人でいることを大切にしなくちゃ。

 だから私の個人的なことは、この秘密基地に持ち込むべきではなかったのよ。

 そう思ったから謝ったのに。


「違うっつの」


 何故かアラタは不機嫌そうにそう吐き捨てたわ。


「心配だから、ここにまで持って来てんだろ?

 んで、どうあっても優先したいことだったから、今も悩んでたンじゃねぇのかよ?」


 イライラした様子でそんなふうに言うから、アラタの気分を害してしまったのだと思った。

 だから慌てて謝罪しようとしたのだけど、今度はそれをクルトが遮ったわ。


「アラタ、それでは彼女を責めているみたいだよ。

 サクラ、そうじゃなくてね。

 僕たちは君のそれが深刻なことなんじゃないかって、そのことを心配しているんだよ」


 ……私を、心配してくれていたの?

 女の、私を?


「君は僕らと立場が違うから、無理にとは言わないけれどね。

 でも話せることだったら、相談に乗るよ」


 優しく微笑み、安心させるように柔らかい声音で、クルトはそう言ってくれた。

 アラタも、少しバツが悪そうに視線を逸らしたものの、クルトの言葉を否定しなかった。


「私……そんなつもりじゃ……」


 二人に、そんなふうに気を遣わせるつもりじゃなかったの。

 だけどそう言ったら。


「あんなぁ!

 ダチの心配すんのは当たり前のことだろうが!」


 私、また間違えてしまっていたのだと、それでようやっと気がついたわ。

 二人は性別なんて気にしてなくて、私を気遣うことを、当たり前のことだと思ってくれているって、やっと理解したの。


「……ありがとう。えぇ、相談、したいわ」


 嬉しかった。そして、藁にもすがる思いだった。


「私のお姉様……昨年の冬に嫁いだ方のことが、心配だったの」


 そう切り出すと、クルトが不思議そうに首を傾げたわ。


「サクラ……君には弟二人しかいないよね?」


 そう言われ、クルトが私の家族構成を承知していることに息を呑み……納得したわ。

 知っていて当然よね……。友達とはいえ、私たちはそれぞれ家の責任を担う身だもの。

 私だって知ってる……お父様に聞かされたわ。クルトがアウレンティウス家の、たった一人きりのお子だって。

 けれどそれなら、姉のことは正直に言って良いのかしら? と、少し悩んだ。でも……。


「……()()()()()()()は、私がただ一人の娘よ。

 でもお父様には……()()()()だけじゃなく、ずっと前に離縁した妻が、先にもう一人いらっしゃるの。

 お姉様は、その方の娘」

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