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夏休み

作者: おとのみ

 大学の夏休みというものが、私はいつも嫌いだった。夏休みになると、彼は文字通り毎日のようにバイトに行っていた。彼は派遣のバイトをしていて、派遣先が決まっては県内のあちこちに行っていた。県外に出ることもあった。私は夏休みになると、なかなか彼に会えなくなる。夏休みでなければ大学で会えるし、授業終わりに二人で遊びに行くこともできた。だけど夏休みになると、わざわざ会う約束をしないといけない。私にはそれがすごく難しかった。彼はシングルファザーに育てられた。彼の父親も派遣の仕事をしているが、生活していく上で最低限の収入しかなかった。その上で値の張る市立大学に通うには、彼自身がある程度稼がなければいけなかった。奨学金なんてあてにならない。だから私は、彼にバイトをやめてほしいと言えなかった。


 彼がバイトをしている間、私は一人で本を読んでいるか、あるいは一人で映画を見ていた。私の両親は毎月十万円の仕送りを送ってくれた。部屋には文庫本と映画のDVDがたまっていった。ちょっとした量だ。友達が家に来ると、私の事を読書家だとか勉強家だとか言って帰って行く。だけど、ただ単に時間があるだけなのだ。時間があれば物はたまる。私が何かに優れているわけじゃない。そう言っても誰も納得してくれなかったけれど、本当にそうなのだ。


 私の卒業論文は、その年の最優秀論文に選ばれた。ありったけの暇をつぎ込んで書いた、長ったらしい文章。私が彼に会えない時間を使って書いた文章。それのおかげで就職先は簡単に見つかった。かなり大手のコンサルティング企業。彼はバイトをしていた派遣会社の社員になった。父親と同じだ。きっとこれからも。


 どうしたら幸せになれるのだろうと、ふと思う事がある。人生に空虚さ以外の何があるのだろう。楽しかった思い出。彼との思い出。だけど私は知らないうちに、そんな思い出と引き換えにたくさんの物を手に入れてしまった。これからどうしたら良いのだろう。どうしたら幸せになれるだろう。


 彼は今でも、派遣の仕事をしているのだろうか。

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