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1話:頼りにならない四将軍

ネット作家デビュー作です。

ゆるっと楽しんでいただければ幸いです。

ヒロイン登場(第9話)まで辿り着いて頂けるとさらに嬉しいです。

「ああ、とうとう親父が死んじまった……。どうしよう、どうしよう」


 慌ただしい城内を、俺は不安に溺れながらさまよっていた。

 行き交う魔人たちが不審なものを見る目を向けてくるが、それを気にする余裕はない。


 何しろ、魔王になるのである。

 もちろんこれは昔から決まっていたことであり、心構えはしてきたのだが、やはりその時を迎えると慌ててしまう。


 しかも、心構えのみならず、代替わりの準備もできていない。

 魔王の一人息子である俺は、ずっと”魔王学”という授業を受けてきたのだが、教師がグラマラスなおねいさんだったせいで、授業の内容は全然覚えていない。

 まずは何をすればいいのか。

 それくらいは思い出したいのだが、浮かんでくるのは谷間だけ。


「マジでどうしよう……。とりあえず、ラファエルに相談してみるか」

 

 魔界四将軍の一人、魔界随一の切れ者として名を馳せるラファエルの執務室に向かう。


「ラファエ」

「私は忙しいんです。お帰りください」

 

 仮にも新魔王をバッサリだった。

 俺はそれ以上何も言わずに執務室のドアを閉める。

 普段はいい人間であるラファエルだが、仕事量が膨大なときには”魔王モード”に変化するのだ。

 きっと魔王の代替わりの手続きや、親父の国葬の準備などで忙しいのだろう。


「ラファエルはだめか……。じゃあサンドラ姉さんにしよう」

  

 魔王城内の四将軍たちの部屋は、それぞれ離れている。

 まとめてあれば楽なのだが、近いと揉め事が起こる可能性が高いのだ。


「サンドラね……」


 これまた魔界四将軍の一人、サンドラ姉さんの部屋。

 俺はその扉を開いて中を覗き込み、異様な気配に息を呑んだ。

 まるで、地獄の果てだ。

 そんな感想を持つほどのおどろおどろしい雰囲気のもとは、部屋の主である一人の、元、美女であった。

 

 もともと暗いほうだが、今は魔王という称号を譲り渡したいほど異様な雰囲気を放っている彼女に、俺は何も言うことなく扉を閉めた。


 そういえばサンドラ姉さんは、親父にベタ惚れしていた。

 親父に請われて、魔界四将軍になったほどだ。

 その親父は死んでしまったが、魔界四将軍はしばらく三将軍になるのだろうか。

 永久にそうならなければいいのだが。

 魔界の大将軍を一人減らした魔王、として歴史に名を残したくはない。

 

 俺は親父とあまり接点がなかったので、死んだと聞いてもそう悲しくないのだが、私的にも親しかった彼女は違うのだろう。

 満足いくまで泣いてくれればいい。

 あの魔王状態がずっと続くのは困るが。


「じゃあ、ヴァディス爺ちゃんにするか」

 

 魔界四将軍のもう一人。

 ヴァディスは年を食っているだけあって、いろいろな物事に詳しい。

 きっと、魔王が何をすればいいかくらい、知っているだろう。


 ただ、それなのに、四将軍の中で最初に訪れなかった理由は当然あるのだが──


「ヴァディス爺ちゃん?」

 

 そっと部屋を覗くと、その部屋は魔法により目一杯拡張されて、大勢で大宴会が催されていた。

 やっぱり。

 俺はただそう思う。

 

 ヴァディス爺ちゃんは、何かにあるにつけ、人を集めて酒を飲むのだ。

 今回は魔王の追悼とかが建前なのだろう。

 酒が好きなくせに酒癖は悪いから、酔っているときのヴァディス爺ちゃんには近寄らないことにしている。


 宴会に参加している魔人たちに見つからないうちに、そっと扉を閉める。


「困った。四将軍全滅か」

 

 もちろん四将軍以外にも、魔王城には人はたくさんいるのだが、俺が親しく、なおかつ魔王のしきたりなども知っていそうな魔人といえば、かなり限られている。


 頭を悩ませていると、

「全滅じゃないやい! アタイを忘れるな!」

 頭上から小柄な少女が飛び降りてきた。

 

「ミシェル……」

「ずっと見てたら、他の三人のところには行って、アタイを頼りにしないってのはどういうことだい!」


 俺はその少女、四将軍の最後の一人の名を呟いた。

 彼女は、他の三人とは違い普段から常軌を逸しているから、なるべく近寄らないようにしていた。


「いつから見てたんだ?」

「ソーンが朝ごはんを食べ終わったときからだから……三時間くらいかなあ」

 ほら。


「新米魔王が何をすればいいか、だろ? それくらいアタイにも分かるぜ。まず、冠だろ、で、自分の使い魔を召喚しなきゃ」


 戴冠の儀と、召喚の儀。

 そんなことを、たしかに魔王学でも習った気がする。

 俺は納得すると同時に、ミシェルからまともな意見が出てきたことに首を傾げた。

 

「その顔は、なんで知ってるの? って顔だな。ソーンこそ、知ってるか? アタイは前代魔王が戴冠したときすでに四将軍だったんだぜ?」


 そうだった。

 この見かけと行動の幼さに騙されるが、ミシェルは四桁になろうかという年齢である。

 もともと魔人は種族によって寿命が大きく違うのだが、ミシェルはその中でも長命なのだ。

 さすが魔界四将軍の一人と言ったところだろう。


「ところで、もう一個聞きたいことがあるんだ」

「何だい? アタイはたいていのことは知ってるよ?」

「朝から俺につきまとっててお前の仕事はどうしたんだ?」

「さぁて、アタイは昼食を食べに行こうかな!」


 さすがの俊敏さを発揮して、ミシェルは大食堂へ逃げていった。

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