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あれは夏の暑い夜のことでした。
遅くまで残業をして家に帰る途中で、事故現場に出くわしたのです。
郊外の脇道。
この時間はあまり車が通らない道です。
片側一車線の道の対向車線側がパトカーと救急車でふさがれていました。
そして警官の誘導でパトカーの横を徐行で通り過ぎようとしたとき、パトカーと救急車の間に事故車両の軽自動車を見ました。
何にぶつかったのかはわかりませんが、前方が完全に押しつぶされています。
運転席もこれ以上はないくらいにつぶれていました。
――あちゃーーっ。
あれでは運転席にいた人間はひとたまりもないでしょう。
とても生きているとは思えません。
私が見たときには運転席に人はいなかったので、もう引きずり出された後なのでしょう。
そして救急車の後ろにそれはいました。
黒い影。
そうとしか言いようのないものです。
警官でも救急隊員でもありません。
人型で全身真っ黒のぼんやりとしたものが、そこに立っていたのです。
――!!
それが私を見ているような気がしました。
顔にあたる部分は真っ黒で、目など見当たらなかったというのに。