表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

4機目 チュートリアル【爆発魔法】【公転魔法】

 時は遡り、俺はクラスタール邸の中庭で魔法の講義をシディナから受けていた。

 

 「以前にも言いましたが、リトラさんには魔法をある程度覚えてもらいます」

 

 そう言いながらシディナは眼鏡をくいっと上げた。

 普段裸眼だから、多分先生として俺に物を教える時のための伊達メガネだ。

 ノリノリじゃねえか。

 そう言えば、この世界で初めて意識が覚醒した時に、一人前の騎士に育てると嬉々として宣言していた気がする。

 他人に何かを教えるのが好きなのかしれない。

 小学校の頃にいたなあ。

 普段大人しいけど、授業中にクラスの前で問題の解き方を聞かれた時だけめちゃくちゃ元気になる真面目君。

 

 にしてもわざわざ先生っぽくなるように伊達メガネをかけるとは……

 あれ、ツッコミ待ちとかじゃないよな??

 いきなり吹っ掛けてくるボケとしては高度すぎる。

 

 そんな俺のどうでもいい考えに当然構う事無く、シディナは二の句を告げる。


 「魔法を使えるようになるにあたり、まず、呪文の詠唱を覚える必要があります」

 

 「詠唱??」


 また中二病ワードが出てきた。

 

 「はい、詠唱です。 魔法の扱いが上達すれば、必要なくなりますが、初心者には必須です」


 「いずれ使わなくなるのか。 自転車の補助輪みたいな感じか??」


 「ちょっと何言ってるか分からないです」

 

 今、シディナのお笑い芸人としての才能が垣間見えた気がする。

 いや、そんな事よりうっかり元の世界の言葉を使ってしまった。

 もっと注意しないと、いちいち会話が途切れてしまう。


 「そうですね……例えるとしたら、覚え事をする際に、頭文字だけをつなげたものを覚える、みたいな感じです」


頭文字をつなげる……避難訓練の「おかし」とか「おはしも」とかみたいな感じか?

歴史の年号の語呂合わせみたいなものか。

本能寺の変が起きた年を覚えようとするのなら、無理やり数字を頭に叩き込む必要はない。

脳内で織田信長にイチゴパンツ(1582)を履かせる事によって容易に年号を暗記できる。

そして、最初はパンツ一丁の織田信長を思い浮かべながら解いてた年号の問題も、何度も解けば、頭の中の想像を介さずに1582という数字が直接出てくるだろう。


 「では、早速呪文を唱えてみましょう」

 

 「え、いいのか!?」


 「はい。 何事も実践が大事です」

 

 マジか。 

 ついに魔法を使う時がきてしまった。

 オタク、いや、男なら一度は想像したことがあるだろう。

 自分で魔法を使う。

 魔法でないにしても、必殺技的なものは、全ての男子の憧れだ。

 ヤバい、ドキドキする。


 「では、この紙に書いてある文章を読んでください。 初級魔法の呪文がひとつ書いてあります」


 そう言ってシディナは俺に小さな紙を一つ渡しーーすぐさま振り返って全力で走り去っていく。

 やがて、とまり、中庭の茂みのひとつのうしろに身を隠す。


 「それでは試しに撃ってみてください!! あっ、私と逆の方向を狙ってください!!」


 「……いや、遠くね!?」


 五十メートルぐらい離れてるじゃねえか。

 つーか、改めて広いな……この庭。

 いくら裕福な家でも、元の世界の日本でこんな広大な敷地を買うのは困難だ。

 この世界は人口密度が低いのだろうか……。

 そんな事はさておき、もはや、軽く叫ばないと聞こえない距離だ。

 俺の魔法の腕への信頼がゼロだな……使ったことないから当たり前だけど。


 まあ自分も間違えて魔法をシディナに当てるなんてしたくないし、とりあえず言われた通りに魔法を唱えてみよう。

 そう言えばどんな魔法の呪文が書いてあるか言っていなかったな……まあ初めての魔法だし、そんなに危ない物じゃないだろう。

 早速撃ってみよう。


 俺は紙に書いてあった文章を一時的に暗記すると五メートルほど先の地面に手を突き出す。

 なんとなく手を突き出してみたけど、こうした方が良いのかな。

 たしかアステルドが魔法を使った時は突き出していた。

 軽く手が震えている。

 緊張と興奮が原因だろう。

 はやる気持ちを抑えようとしながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 初級魔法だからなのか、呪文は思っていたより短かった。


 「膨張せよーー『マダイナ』」

 

 その瞬間、身体の中を熱のような感覚が駆け巡った。

 感じたことの無いくすぐったさが全身を覆う。

 これが、魔力。

 そう俺が理解すると、次に熱が手のひらへと集中するのを感じる。

 そして一気に、解き放たれるーー


 爆音と共に火花が散る。

 熱が身体から抜けるのは感じた次の時、手を突き出した先で小さな爆発が起きた。

 わずかな熱風を足元に感じる。

 周囲の風がそよぐ。

 小さくて、くだらない威力。

 しかし、それでも俺は自分の為した事に感銘を受けざるを得なかった。

  

 「うおおおおお、すげえええ!!」 

  

 これが、魔法。

 手を突き出して、言葉を発しただけで、爆発が起きる。

 元の世界においてはありえない現象が起きた。

 地球人からしたら奇跡の業とも呼べてしまうことを起こしてしまった。

 そのことへの感動は抑えきれなかった。


 「リトラさん、はしゃぎすぎです。 その程度で喜んでもらっては困ります。 初級魔法なんですから、成功して当然です」


 俺が喜んでいると、いつの間にか戻ってきたのか、シディナが存外冷たい態度でそういってきた。 

 こいつ、成功して当然とか言ってる割には身の安全のためにめちゃくちゃ離れてたよな……

 

 「てもやっぱり、出来て当然だとしても、魔法を使えるなんて嬉しいよ」


 「そうですか?……まあ、今後の訓練への意欲もありそうでよかったです。 後で躓いても弱音を吐かないでくださいね」


 俺の喜び方は大袈裟なのか、シディナが俺の様子を不思議がる。

 元の世界の感覚で言えば魔法を使えるというのは夢みたいだが、この世界の基準で考えると魔法というものは使えたからといって派手に喜ぶような物ではないのかもしれない。


 「そういえば、なんで魔法の内容を先に教えてくれなかったんだ?? 得たいの知れない魔法を使うのは勇気が必要だったぞ??」


 「そう思うのなら聞けばよかったじゃないですか……どうせ『まあ、初めての魔法だし、そんなに危ない物じゃないだろう』とか思って、説明を求めずに魔法を使ったのでしょう??」


ぬぬ。

 出会って間もない付き合いといえど、流石は自分の主といった所か、

 完全に思考を読まれてる。 


 「はあ、警戒心が薄すぎます。 その点で言えば、今回の練習は失格です。 ホムンクルスとして、その楽観的な所は減点です」


 ダメ出しを喰らってしまった。

 嘆息を挟みながらシディナは説明を続ける。


 「まあそれはさて置いてですね……今回魔法の内容を先に言わなかったのはリトラさんが爆発魔法に対して恐怖を抱いている可能性があったためです。 怖さのあまりに緊張してとんでもない所に魔法を当てたら困りますからね」


 なるほど。

 たしかに、爆発魔法への恐怖感が、初めて魔法を使った感動で上書きされている。

 今は爆発魔法に対しては不安より期待の方が圧倒的に強い。

 

 「初めての魔法で失敗でもしたら、ますます緊張して魔法の修練に時間がかかってしまいそうですから」


 そう言い放ちながら、シディナは伊達メガネをくいっと上げる。

 おお、風格が出てるっ……!!

 最初に教師用の伊達メガネをつけてるのを見た時は、正直ごっこ遊びみたいな印象を受けたが、今は完全に眼鏡をつけこなしてやがるっ……!!


 ……いや、冷静になってみるとやっぱりそうでもないな。

 ただでさえ数の少ない年齢である上、シディナはさらにその年齢より幼く見える容姿だった。

 どうしても子供っぽさが抜けない。


 「な、なんですかその微妙に冷ややかな視線は……」


 「え?? いや、えーっと……」


 しまった。  

 考えが顔に出てた。

 思っていた事をそのまま言うわけにはいかないし、他の話題を……そうだ。

 

 「し、シディナ先生はどんな魔法を使うんですか??」


 「せ、先生!?……えへへ」


 「……チョロいな」


 「え? 今何か言いました??」


 「いえ何も」


 なんとなく先生と呼んでみたが、分かりやすいなぁ……

 やはり、シディナは人に教えるのが好きな類であった。

 

 「私が得意とする魔法はガラキシア家が代々研鑽に努めている『公転魔法』です」


 「『公転魔法』?? 公転って、惑星が恒星の周りを回る、あの公転か??」


 「はい、その通りです」


 どういう事だろう。

 どんな魔法か全く想像できない。

 そもそも、この世界は科学があまり発達していないように思えていたが、太陽中心説が信じられているのか。

 いや、元の世界でコペルニクスが地動説を唱えたのはたしか15世紀とかそこらへんだった筈だし、科学が発達していなくても地球が太陽の周りを動いているという考えにたどり着くのはおかしくないか……

 それ以前に、この世界の宇宙も元の世界の宇宙と似た仕組みなのかが疑問でもあるが、考えても仕方ない事だろう。

 

 「まあ見てもらった方が速いです。 少し使ってみますね」


 俺が難しい顔をしていると、シディナがそう言いだした。

 シディナは地面から適当な小石を拾うと、それを宙に投げた。


 「『オビット』」


 魔法の名称らしき言葉が発せられる。

 呪文の詠唱にあたるような前置きがなかった。

 たしか、上達すれば魔法に呪文は不要だと、シディナは言っていた。

 つまり、シディナは既に魔法において詠唱を短縮できる程度の熟練度を誇っているということだろう。

 

 シディナの声が響き渡ると同時に、地面へ落ちる筈の小石が突然空中で静止した。

 そして、そのまま不思議な挙動を見せた。

 シディナの周りを回り始めたのだ。 

 まさしく公転。 

 元の世界で地球等の惑星が太陽の周りを回っていたように、小石はシディナを囲うように円の軌道を描く。


 「一見、物を回すだけの魔法ですが、その力は底知れません。このように早く回転させたりーー」


 小石の移動が急激に早まり、風を切る音を立てながら残像による線を描く。


 「--中心である私からの距離を調節することもできます」


 シディナの周りを走った円が縮小と拡大を変幻自在に行う。

 激しく移動する小石が自分に近づいた時は思わず目を瞑ってしまった。

 ただの小石とはいえ、こんなに勢いよく動く物がぶつかってきたらひとたまりもないな……


 「すごい……一体どんな理屈で成り立っているんだ」


 「これは質量による時空の歪みを魔力を用いて疑似的に再現していて……すみません、説明しても分からないと思います。 正直私もまだ完璧には把握しています」


 「……とりあえず、すごい魔法だという事は伝わったきたよ」


 たしかに、シディナの言う通りだ。 

 爆発魔法の初級魔法が使えたというだけで喜んでいる暇はない。

 この世界には想像を超えるとんでもない魔法がたくさんありそうだ。

 アステルドの魔法は威力が果てしなかった。

 今見せられた公転魔法というものも使い方次第でとんでもない運用ができそうだ。


 ……いつか、自分もあんな魔法を使ってみたい。

 俺は、魔法を会得しようという意思をより固く、強いものとして再認識した。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ