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2機目 チュートリアル【残機】

 気が付いたころには、部屋は灼熱の炎で埋め尽くされていた。


 (--えっ)


 一体なにがどうなったらこうなる。

 ついさっき、俺は食事をとっていた筈。

 そして次の瞬間にはこの状況。

 

 華美な装飾品が見る影もなく焼け、黒ずんだ灰になっていく。

 一週間背中を預けていたベットも、隙間なく眩い熱に埋め尽くされている。

 黒煙が空気中を立ち昇る。


 --爆弾。

 そんな単語が頭をよぎる。

 存在するのか?? この世界に。

 魔法が存在するからといって科学技術が発達していないとは限らない。 

 いや、でもたしか以前夜に目を覚ました時は蝋燭の火がついていた。

 電灯が無い世界で爆弾があるというのもおかしな話だ。

 

 --そういえば、シディナがこんな事を言っていた。

 魔法の効果は様々。

 火や雷を扱う魔法、傷を癒す魔法、身体を強化する魔法等々。

 ーーそして細かい分類では爆発魔法なども存在する、と。

 

 そして、ようやく状況に追いついた脳は、思考のために無視していた危険信号に気づく。

 危険信号、つまり、文字通り焼けるような痛みに。

 熱い。

 熱い熱い熱い。

 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。


 ただひたすらに「熱い」という感覚が脳を支配する。

 思わず床をのたうち回る。

 そして体を打ち付けた先の床の絨毯へと炎が燃え移る。

 自らの体から。

 そう、視界を埋め尽くす炎は、自分から燃え盛っているものだった。

 

 太陽の元へ引っ張り出された吸血鬼のように、全身が炎に包まれる。

 生まれ変わってからの人生を過ごしてきた部屋が、火葬場となって命を蝕む。

 

 ーー何で。

 まだ何もしていない。

 生まれ変わってからまだ何もしていない。

 なのに何で、もう死ななきゃならないんだ。

 せっかく、二度目のチャンスを手に入れたのに。

 なぜ、こんな理不尽な事ばかり起きる??


 普通に歩いていただけなのにトラックに撥ねられて。

 異世界転生を果たしたと思ったら何の前触れもなく爆発が起きて。

 これじゃあまるで、もう一度死ぬために生まれかわったみたいじゃないか。

 

 「あ゛あ゛っーーだ、ずげ、--で」


 助けを求めるも、まともな声は上がらなかった。

 煙を吸った影響か、喉が枯れていた。

 それどごらが、もはや体をのたうち回らせることすら出来なくなっていた。

  

 --意識が遠のく。

 

 「い゛、嫌だ…………まだ、死にたく、なーーー」


 言葉を紡ぎきる事すら叶わず、俺は呆気なく二度目の死を迎えた。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


   ≪残機 残り 2機≫


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 目が覚めるとそこはーーー灼熱に依然変わりなく焦がされる自室だった。


 (------え)


 何が起きたのかが分からないまま、再び全身の皮膚が痛みを訴える。

 熱い熱い熱い熱い熱い熱い。

 熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。

 

 (なんで?)


 俺はさっき確かに死んだ。 

 はっきり「死んだ」という実感が確かにある。

 なのに何故、今生きている??

 さっきの警告じみたものは何だ??

 残機って、一体どういう事だ??

 

 しかし、考察は皮膚が焼かれる感覚にかき消され、無駄に終わる。

 ピクリとも動かなくなっていた体はいつの間にか再び踊るように部屋の中で荒ぶっていた。

  

 (!!ーーー身体が動く!!)


 その事に気が付くと、俺は炎の痛みを歯を食いしばってなんとか耐えながら生き残るための算段を立てる。

 脱出。

 この部屋の中にいては、とにかく死は免れない。

 ドアに向かって走り出す。

 死の恐怖は時に人間の能力を底上げする。

 前世、いや、前々世を含めて今までの人生で最速のスピードで脚を動かす。

 ドアノブを手に取る。 

 熱の上がった金属部分に触れた手から激痛が脳を刺激する。

 

 しかし、構わずにそのまま手を捻る。

 初めて部屋を出るのがこのような形になるとは思いもしなかったがとにかくこれで生き延びれ--

 

 そう思いながら扉を開けると、背後から覚えのある衝撃を受けた。

 空気が破裂するという、体験したばかりの衝撃。

 それが再び襲ってきた理由は、すぐに気がついた。

 バックドラフト。 

 不完全燃焼が起きていた部屋の中へ新鮮な酸素が送り込まれ、一気に炎が発生する。

 そのような現象の存在は知っていた。

 火事場で熱を帯びたドアノブを回してはならないとも。

 しかし、全身を侵す痛覚の訴えに、冷静な判断能力を奪われていた。

 噴き出す劫火に体が吹き飛ばされる。


 そして俺は生まれ変わってからわずか10秒で、再び命を落とした。


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   ≪残機 残り 1機≫


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 意識が戻る。

 体を包む光はーー消えている。

 一体どういう事なのか、度重なる爆撃を受けた筈の体を覆う服は燃えているどころか、綺麗に元通りとなっている。


 しかし、熱さは、まだ感じる。

 その正体を確かめるべく、反射的に倒れていた体を起こし、顔を熱の感じる方へと向ける。


 目の前に、一片の隙間も無く火色に塗りたくられた部屋があった。

 つい先ほど、自分がいた場所だ。

 バックドラフトによる爆発に運ばれ、俺の体は火の海から掬われていた。

 火の手は目前に迫っており、安全圏からは程遠い。

 しかし、俺は無事に死の淵からの脱出を果たしたらしい。


 --まだ、生きている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 

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