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0機目 ゲームオーバー

 大した事の無い普通の人生を送ってきた。

 日本という平和な国で生まれ、充実した社会福祉の元で普通に学校にも行った。

 勉強や部活で人並みに苦労もしてきたけど、特に深い挫折を味わったり、何かの才能に大きく秀でたりする事も無く過ごしてきた。

 人生における山場は定期テストと受験、学校行事や部活の大会。

 俺個人の主観で見れば結構盛り上がりのある人生でも、客観的に見れば何の変哲もない普通な人生。

 高校に入れば何かが変わるかもしれないと思ったりもしたけれど、結局平々凡々な毎日を送るだけ。

 でも、世界には命を繋ぎ止めるためにいつも必死な生活を送っている人達もいる。

 そんな人達もいる中でこの「普通な生活」に不満を持つのも欲深い事だ。

 そう思い、今の何気ない高校生としての日々にそれなりに満足しながら生きてきた。

  

 そんな普通な俺の趣味の一つはゲーム。

 これまた日本国民の間ではメジャーで典型的な趣味だ。

 以前から発売を待ちわびていたゲームの発売日。

 若干出不精な俺も今日という日は外に出るのを躊躇わない。

 早速ゲーム屋でゲームを購入した俺は冷房の効いた店内の空気を惜しみつつ、家に向かって帰る。

 

 (ヤバイ、信号すら待ち遠しいっ……!)


 速く家に帰ってゲームがしたい。

 赤信号の前で足ふみを始めてしまうほどに。

 ゲームを買ってから遊までのこのワクワク感がまたたまらない。

 

 しかも今回は特別期待のしていたゲームだ。

 ブレイズエムブレム。 

 味方キャラを育てながら相手と戦わせるRPGゲームだが、その特徴は死んだ味方は二度と生き返らないこと。

 当たり前の事を言うようだが、ゲームとしては珍しい。

 多くのゲームでは、体力がゼロとなった味方キャラは死亡するのではなく、気絶したり、戦闘不能になるだけで、回復させればまた戦わせることができある。 

 しかし、ブレイズエムブレムでは、手塩をかけて育てたキャラも、体力がゼロになれば、二度と登場しなくなる。

 そのスリルが面白さの秘訣なのだ。


 (おっ、信号が青になった)


 かれこれ考えていた内に信号の光が切り替わる。

 意気揚々と俺はゲームを始めるために家にむかーーーーーーー


 その瞬間、横から未だかつて味わった事の無い強烈の無い衝撃が来た。


 「ガ八ッ……!」

 

 それが暴走したトラックだと気が付いた時にはすでに体は吹き飛んでいた。

 為す術もなく体が宙を舞う。


 (---------------え?)


 突然。 

 あまりにも突然に「普通な人生」に終止符が打たれた。

 

 握り締めたペットボトルのように肺の中の空気が外へ溢れ出す。

 呼吸が苦しい。

 次にやって来るのは全身の痛み。 

 想像を絶する感覚が脳へ危険信号を送る。

 コンクリートの道路に打ち付けられる。


 死を直面すると人間の思考は速くなる。 

 漫画とかではよくある展開だ。

 僅か数舜の間、激痛の感覚を味わう一方で頭は生き残るために状況をいち早く把握した。

 

 (--逃げなきゃ)

 

 体が打ち付けられた先はコンクリートの道路。

 つまり、暴走したトラックによる二度目の衝突が直にやってくる。

 いや、衝突どころじゃない。

 地面に倒れ伏しているこの状態を鑑みれば、トラックと道路の間に潰されて死ぬ。 

 確実な死を迎える。


 脚に力を入れる。

 速く道路の外へ脱出しなければ死ぬ。

 そう思い、立とうとした。

 しかし、その瞬間灼けるような痛みが筋肉に襲いかかる。

 

 「あ゛あ゛っ……!」


 呻き声が上がる。

 どうやら立つ事すら叶わぬほどの重傷だったらしい。

 立ち上がろうとした体は滑るようにバランスを崩し、再び地面に叩きつけられる。

 

 エンジンの音が聴覚を埋め尽くす。

 死はもう目前に迫ってきている。

 体はもう動かなくても、眼球だけはその活動を続けていた。

 その視界に一つの文字が飛び込んできた。

 「残機ゼロで、戦い抜け」

 何度もその文を読んできた俺は、死の淵にありながらもその正体に気が付いた。

 キャラクターが蘇ることの無い「ブレイズエムブレム」のキャッチコピーだ。

 

 (おいおい、…………ゲームの中でぐらい生き返らせてくれよ……)


 俺、志奈津明人の頭を最後によぎったのはそんな諦観の混じった願望じみた皮肉だった。

 次の瞬間、俺の頭は迫りくるトラックと道路の間に挟まれ、呆気ない死を迎えた。


 

 

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