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第一話 狂戦士

 鎧、鎧、鎧。

 鎧が草原を埋め尽くしていた。角笛の音が響く。

 角笛の音に合わせて軽装の歩兵が木の盾の中に隠れ弓をやり過ごし、その後ろをのっしのっしと重装甲の鎧が隊列を組んで歩く。

 鎧の軍団を矢が襲い、いくつかの鎧が倒れる。

 脱落者が出ても鎧の軍団は歩みを止めず、ただひたすら歩く。その歩みは人類のため。

 脱落者の屍を越えてでも負けるわけにはいかない。

 マルガ王国は戦争の真っ只中にあった。

 相手は魔族。邪神を崇拝し人類を絶滅せんと企む闇の勢力。

 対するは人、エルフ、ドワーフなどが手を組んだ光の同盟。

 その戦いは100年続いた。

 だが今、光の勢力は敵の重要拠点を落とす局面にあったのだ。

 その光の勢力でもひときわ武功を立てたのが『暁の団』。

 元は地方で孤児が作った傭兵団だったが、闇の勢力との戦いで次々と武功をあげた。

 今では1万を超える光の勢力でも屈指の武力を持つ勢力である。

 団長は男爵に叙任され、その武功は伝説となるほどである。

 そして『暁の団』最強の戦士が戦場に現れた。

 空に天馬、ペガサスが現れた。

 羽が生えているからペガサスと認識したが、その色は漆黒。

 そしてペガサスにしてはあまりにも大きく、凶悪な顔をしていた。


「ブルルルルルゥッ!」


 恐怖。圧倒的な恐怖。

 味方すら跪かせるほどの恐怖。

 その声は誰をも畏怖させ、死を連想させるものだった。

 膝は震え、腰は力を失う。

 死神を運ぶ天馬に違いない。誰もがそう思った。


 ドンッ!

 天馬から死神が地に降り立つ。

 土煙が舞うなか現れたのは赤い鎧。

 背中に巨大な戦斧を刺し、禍々しい装飾が施され、兜は骸骨を模している。

 戦場では武将はかぶくもの。だがこれはいささかやり過ぎだった。

 だが真紅の鎧が戦場に降り立った瞬間、恐怖に震えていたはずの兵士たちから歓喜の声が上がった。


「暁! 暁! 暁! 暁! 暁! 暁!」


 鎧の戦士は斧を構え闇の軍勢に突っ込んでいく。

 無謀。明らかに死に向かう行為。

 だが兵士たちはなぜか勝利を確信していた。


「グガアアアアアアアアアアッ!」


 角の生えた巨人、オーガが雄叫びを上げながら巨木を振りまわす。

 がしり。

 戦士は棍棒をつかんだ。

 人間としては大きな体格の戦士であるが、巨人のとの体格差は歴然。

 アリとゾウほどの体格の違い。

 それはありえない光景だった。

 だが棍棒はピクリともしない。

 戦士は片手だというのに。


「ぎゃ?」


 戦士はもう片方の手で持っていた斧を薙ぐ。

 切断、爆発、いや、どれも違う。

 巨人は飛んでいった。遠く遠く、見えなくなるまで。

 それほどまでに斧の一撃は重かった。

 オーガの体重の何倍もの衝撃が発生し、オーガは直撃すらできず、地に舞う塵芥のように飛んでいった。

 その速度はドラゴンを越え、オーガは回転しながら空を飛んだ。

 そして戦場からなんとか見える位置にあった闇の軍勢の城へぶち当たった。

 土煙が上がり、城が土煙を上げズズズズと音を立てながら沈んでいく。

 吹っ飛ばしたオーガで城を破壊したのだ。

 その冗談みたいな光景を光と闇、その両軍は戦いを止め、ただ見つめていた。

 だが紅の鎧の戦士だけは動いた。

 斧を振りかぶり、他のオーガも飛ばしていく。

 オーガミサイルは次々と城のあった場所に飛んでいき、城は跡形もなく壊滅。駐留していた闇の軍勢の兵士たちもまた城と命運を共にした。

 害虫の如き死。

 戦場にいた両軍とも「この死に方はしたくない」と強く思った。

 戦士は、ターゲットを変える。


「ストーンアタック!」


 魔法ではない。

 ただ単に見つけた岩に斧を突き刺し、岩をぶん投げただけだ。

 あまりに単純な攻撃。その単純な攻撃に魔法使いたちは詠唱もできずに蹴散らされる。

 だが闇の軍勢もすぐに立て直す。

 戦士を巨大な弓が襲う。巨大な弩、バリスタだ。

 ……だが、戦士は飛んできた巨大な矢を片手でつかむ。


「ちょ、やめ!」


 次の展開を予想できたダークエルフが叫んだ。

 ぶんッ!

 お約束通り、戦士は矢をバリスタに向けて投げ返す。

 それも数倍の速さで。

 衝撃波がダークエルフたちを襲う。

 バリスタは粉々に砕け、ダークエルフたちはチリのように跳ね上げられ地に落ちた。

 次にドラゴン、ワイバーンの部隊が立ちはだかる。

 だがワイバーンたちは、戦士を見た瞬間お腹を見せて降参する。

 生物として格上だった。絶対に勝てなかった。無理だったのだ。


「ぐ、役に立たぬやつらよ!」


 今度は司令官と思われる炎を身に纏った魔人が立ちはだかる。

 威勢こそ良かったが、少し腰が引けている。

 魔神は裏返った声で叫ぶ。


「我が炎を喰ら」


 ぐちゃり。

 最後まで言わせてもらえなかった。

 魔人は戦士の振り下ろした斧の一撃で地面に埋まったからだ。

 炎など全く役に立たない単純かつ圧倒的な暴力。

 すでに動いているものはいなかった。

 降伏すらさせない。完全な勝利だった。

 戦士は斧を掲げる。

 まさにその姿は狂戦士。

 戦いのために生まれたとしか思えない姿だった。

 魔神が倒れ勝利が決まる。

 人類側は敵の重要拠点を落としたのである。

 だが戦いは100年続く大戦。

 終わりはまだ見えない。

 それでも束の間の平和が訪れる。

 それはみんな感じていた。


「暁! 暁! 暁! 暁! 暁!」


 光の軍勢の仲間たちは勝利を確信し、暁の団の名を叫び続ける。

 闇の軍勢は瞬く間に鎮圧されていく。

 この真紅の鎧の戦士こそ暁の団の副団長。

 千の強者を束ねるカリスマ。勇者を凌ぐ力を持つ戦士、英雄の中の英雄。

 人類最強の兵。それが暁の団副団長なのだ!


 そして世間には知られていないが……鎧の中身は15歳の女の子だった。

 名をライアという。

 ライアは今、光と闇の戦いに砦の奪取という楔を打ち込んだ。

 だが戦争は終わりが見えない。

 しばらくはこのまま気楽な傭兵家業を続けるに違いない。

 ライアはそう信じていた。

 ……だがライアはこの戦いのあと自分の人生がとんでもない方向へ転がることを知らなかったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 漸く手を付けることが出来ました。初っぱなからぶっ飛んでますね。 これからこれからなんですが、ちょっと止っているようですしゆっくりと楽しみたいです。 何故か一話読了後、うる星やつらが読みたく…
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