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第13話(護衛始動)-〜1942.08-

 ミッドウェイ以降、米太平洋艦隊司令部は、潜水艦について2つの悩みを持つようになった。

 1つは、西海岸での日本軍の通商破壊戦が始まったことだった。これまで、海戦しているにも関わらず大西洋と太平洋ではその危険度があまりにも隔絶していた。しかし、その流れが変わりつつあった。独航船が、襲撃されて撃沈されるという事態が頻発するようになったのだ。

 もう1つは、潜水艦の未帰還率の急上昇だった。

 6月以降、分かっているだけでもアリューシャン方面で『フィンバック』『トライトン』が、東シナ海方面で『プランジャー』『グロウラー』『ハダック』が、日本近海で『ガードフィッシュ』『ハリバット』が、トラック方面では『グレイバック』『グレイリング』『ガジョン』などが、定時連絡を送ってこなくなった上に帰還予定日になっても戻ってこなかった。無線の故障という事態もあるため、完全亡失を認定するには少なくとも帰還予定日まで待つ必要があったがそれでも既に上記の10隻は、撃沈されたと考えなければならなかった。

 定時連絡を絶った潜水艦も考慮すると既に太平洋艦隊の潜水艦作戦に必要な数を大きく下回り始めていた。数以上に問題なのが、潜水艦勤務の水兵たちの厭戦気分だった。露骨に乗艦拒否をするものが増えたり、精神を病むものが増えてきた。また、出撃するにはするが明らかに消極的な行動しかしないものも増えているようだった。

 使用魚雷に問題があり、十分な戦果が得られないという自前の問題を解決しつつあるという時点においてこれは大問題だった。

 開戦以来、日本軍の対潜戦闘は稚拙であり、よほど運が悪くない限り発見され攻撃されることはなく、攻撃されても離脱は容易だと言われていた。しかし、それが一転して未帰還になる数のほうが増えたのだ。

 ただ、対策がないわけではなかった。

 敵を発見することができると同時に、被発見率を下げることが可能なレーダーの搭載の目処がついていたからだ。悪天候や夜間でも敵を発見できるこの新兵器は、潜水艦の未帰還率の改善に大いに貢献するはずだった。

 また、西海岸の日本軍潜水艦の跳梁についても護衛艦を投入することで解決するだろうと見込まれていた。


「気をつけろ、近頃潜水艦の未帰還が増えている海域だ」

 アメリカ軍潜水艦『スタージョン』艦長ライト少佐は、腕時計に目をやりもう一度現地時間ですっかり日が沈んでいる時間帯なのを確かめた。

 司令塔の上に出るハッチのハンドルをくるくる回す副長に声をかける。副長がぐいっと力を入れると海水が若干こぼれ落ちると同時に新鮮な空域が流れ込んできた。辺りはすっかり暗闇に包まれている様子だった。

「アイサー!」

 身のこなしも軽く副長が外へと出る。続いてライト少佐もあたりを伺いながら司令塔の上に出た。月も見えず、辺りは真っ暗闇だった。

「周囲警戒!」

 後部甲板のハッチも開きそちらからも乗員が出てくる気配が感じられた。

「アイサー!」

 とは言ったものの夜の帳が下りてあたりはほんの少し先も見えない。「しかし、少佐、ジャップの野郎たちは夜でも数十キロ先まで見えるというのは本当なんでしょうか?」

 さっそく周囲を見回しながら副長は聞いた。

 夜間に正確な攻撃によって損害を受けたという報告の中に日本人の驚異的な夜間見張員の存在が示唆されていたからだ。近頃の潜水艦の未帰還もそれに関係している気がしたからだ。

「まあ、ジャップは人間より猿に近いって言うからさもありなんだが…」

 ライト少佐は、空気を吸い込みながら微かなディーゼルオイルの匂いを嗅いだ。「臭うな」

「はい、少佐、私の曲がった鼻でも感じられます。風は北西です」

 副長は、風の向きを報告した。

 微かではあるが、これは付近に艦船が航行している証拠だった。

「周辺警戒、厳にしろ、明かりが漏れていないか探せ!声を落とせ!」

 昼間なら直ちに急速潜航を命じるところだが、今は夜間だ。敵に発見されるにせよ攻撃される危険は少なかった。それに、しっかりと充電したい。

 声について命じたのは、何も遮るものがない海上では意外と声が届くからだ。

「見えませんね、厳重に灯火管制しているのかも?機械音もしませんね?」

 風上の方に双眼鏡を向けながら副長は言った。

「かもしれんな」

 そう言いながらもライト少佐も風上を中心に周囲にゆっくりと双眼鏡を巡らせる。

 ソナーによっても周囲には敵は存在しないはずなのだ。だから、浮上を命じた。

 離れた海面で、ピカッと何かが光ったのはその時だった。それが発砲炎だと分かり、それに照らし出されて敵がいるのが分かった。小型の哨戒艇のように見えた。

「敵襲っ!急速潜航急げ!」

 ライト少佐は、敵から目をそらさず大声で怒鳴った。小型といっても水上艦との戦闘は分が悪い。更に発砲が続く。その間隔は、機関砲並みに見えた。だが、距離はかなり離れている。2000ヤード以上あるだろう。しかも、敵の船首はこっちを向いてはいない。躱せるだろうと思った瞬間、それは第一弾から命中してきた。

 ズシンという衝撃とともに艦尾に閃光が走り、艦が大きく動揺した。艦内に入ろうとしていた副長が大きく揺さぶられ悲鳴を上げる。

「畜生、まぐれ当たりしやがった…」

 しかし、まぐれ当たりではなかったことを証明するように2発目3発目が艦尾、船体中央と続けざまに命中する。「総員脱出!」

 もうこの艦『スタージョン』は潜水できないと悟ったライト少佐は、ハッチの中に向かって叫んだ。次の瞬間、轟音とともに強い衝撃を受けたライト少佐は、くるくると宙に舞い上げられた。なんの感覚もなく真っ暗な空中からライト少佐は、一方的に砲撃され被弾する自分の乗艦を見た。しかし、海面に叩きつけられたことを感じることはなかった。その頃には、ライト少佐の意識は消失してしまっていた。


「撃ち方やめ!」

 橋立少佐は、敵潜が火を吹き2つに折れたところで射撃停止を命じた。最初の発砲から1分とかかってはいない。あたりを真昼のように断続的に照らしていた発砲はすぐに停止された。

「敵潜撃沈!」

 見張員が、報告してくる。

 炎上していた潜水艦は、海中に引き込まれるとともに急速に消火され、あっという間にまたもとの暗闇があたりを支配した。沈没までにかかった時間は3分となかった。もともと予備浮力の少ない潜水艦が短時間のうちに20発近くも12.7cm砲弾を被弾したのだから無理もない。

「周囲警戒!」

「全周囲異常なし!敵電波感ゼロ、異常なし!」

「よろしい!」

 電探によって敵を発見してから接近し、攻撃に移るまで多少時間を要したもの攻撃開始から撃沈までは、先に述べたように3分も要さなかった。圧倒的な攻撃力だった。いや、攻撃力もさながらこの艦の電探の威力に舌を巻かずにはいられなかった。

 今の敵は、たまたま近くに浮上してきたのだが、この艦の電探は潜水艦のような小型の目標ですら20海里以上先から発見できた。水中探信儀の能力もそうだ。敵の位置を正確に掴む。そして、それを的確に攻撃する手段を持っていた。それは対潜水艦専用の魚雷だった。

 初めて、潜航中の敵潜水艦を魚雷で攻撃すると聞いた時には鼻で笑ったものだが、既に2隻をその攻撃方法で撃沈していた。

 そして、この砲撃である。速射が効く上に正確無比だった。よく分からなかったが、夜間砲撃にも関わらず潜水艦のような小さな目標に初弾命中したように見えた。

「溺者救助!」

 短時間に多数の命中弾を受けた上に轟沈に近い形で沈んでしまった潜水艦に生存者がいるとも思えなかったが、橋立少佐は、命じた。


 アメリカ軍潜水艦『スタージョン』を発砲から3分以内に撃沈したのは、駆潜艇3号だった。既に18隻が完成し、15隻が就役していた。当初は、完成しても横須賀に留め置かれているだけだったがミッドウェイ以降、海上護衛隊の主兵力として本格的な運用が始まっていた。

 駆潜艇と名付けられ番号が振られた対潜護衛艦は、哨戒任務は単艦で、船団護衛は2隻を1組として運用が始まった。

 こちらの技術を用いた最新型の護衛艦改め駆潜艇は、船団護衛の被害率を殆どゼロに抑え込むと同時に、遭遇した潜水艦をほとんど撃沈していった。

 捜索電探で補足するとあとはたとえ潜航されたとしても別に装備した水中探信儀によって容易に探知し、それを攻撃できた。何しろ、潜航している潜水艦の方位までわかるのだ。うかつに反撃を受ける気遣いも殆どないと言ってよかった。何しろ、砲撃の命中精度が信じられないほど高い上に、発射速度も早く、潜航している潜水艦を攻撃できる魚雷を装備しているのだ。

 今は、重要な船団や戦略的に重要な場所にしか配備できていなかったが、既にこの1ヶ月あまりの運用実績から多数の増産が決定していた。増産が進めば船団の安全性は飛躍的に高まっていくに違いなかった。

お盆休みに入って頑張っています

次回は、流星が頑張ります

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