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第10話(蒼風、強襲)-1944.06.19:early AM-

「そろそろだな?」

 ホーネットから発艦したドーントレス4号機のパイロット、マクベリー中尉は、眼下を見ながら言った。「ドーソン、上空にも注意しろ、哨戒戦闘機がいるかもしれん」

 母艦を飛び立って2時間あまり、当たりの捜索線を引いていれば敵を発見しても良さそうな頃だった。

「了解です、中尉」

 機体をやや左右に振りながら眼下を注視する。

 部隊は、昨日から今朝にかけて甚大な被害を受けていた。空母だけでも5隻も戦列から失ったのだ。戦艦部隊こそ被害がなかったが、空母部隊の外周を護衛していた駆逐艦の損害は特に甚大だった。ほぼ半減し、そのせいで洋上で部隊を再編成するという自体に陥った。

 本来なら、撤退も考慮されるべきだったろう。

 しかし、サイパンには既に陸上部隊が上陸していたし、敵の機動部隊と一戦もせずに撤退することはやはり難しかった。事態を受けて上陸部隊もいったん守勢に入った。輸送船に大きな被害が出たせいで弾薬や食料に不安が出たせいだった。

「?」

 マクベリー中尉は、目を凝らした。

 海上にウェーキを発見できたのだ。「10時方向、ウェーキ!」

 機体を緩降下させ、機首を巡らせる。

「中尉!ジャップの艦隊です!」

 双眼鏡を向けたドーソンが叫ぶ。「大型艦2隻以上、その他多数。空母はいません」

「打電しろ、ジャップの戦艦部隊だ!空母はいなとなると、きっとこの後方に…」

 次の瞬間、マクベリー中尉の機体を打撃音が襲い、呻きが聞こえた。一瞬遅れて右側を何かが高速で過ぎった。

「しまった…、ドーソン!ドーソン!」 

 しかし、後席から返事はなかった。

 更に、打撃が加わったと思った瞬間、マクベリー中尉の意識は、綺麗に消失した。

 日本軍新型艦上戦闘機『蒼風』の最初の戦果だった。


「敵機、撃墜!」

 上空に双眼鏡を向けていた見張り士官が喜色の声で知らせる。

 戦闘艦橋にいるものにもそれは十分確認できた。敵機は、爆発し、粉々になった。

「電波どうか?」

「電波の発信は確認しておりません」

「よろしい」

 それと相前後するように母艦部隊からの連絡が入った。

「長官、大鳳より入電『我、第一次攻撃隊発艦させつつあり』とのことです」

「うむ、Z旗掲揚、皇国の興廃、この一戦にあり!」

「Z旗掲揚せよ!」

 命令が下達されるのを聞きながら山本は自身が高揚していくの感じていた。


「戦艦部隊より入電『敵編隊補足、貴隊へ向いつつあり』です」

「戦艦部隊を無視してきました」

「まずは一番の脅威を排除するのは情動だよ」

 スプルアンスは状況ボードを眺めながら言った。「艦隊進路180、いったん距離を取る」

 味方の索敵機が次々に定時連絡を送ってこなくなる中、艦隊は、まずリーの戦艦部隊が日本軍索敵機に補足された。さらに、それに遅れること15分後には機動部隊も1群2群とも発見された。迎撃戦闘機を上げていたにもかかわらず、日本軍の索敵機を捕捉撃墜することはできず、艦隊進路や陣容も連絡されてしまったに違いない。

 敵を発見できていない以上、いったん進路を変更して少しでも迎撃戦闘機による敵の排除時間を増やしたほうが得策だった。

「戦いは始まったばかりだ、まずは敵を丸裸にしてやろう!戦闘機隊発進、ジャップを全て叩き落とすんだ!」

「アイ、サー!各艦に通達、戦闘機隊発艦始め!」


「多いな…」

 マッキャンベルは、敵の編隊を発見してひとりごちた。敵は、15機程度の梯団10個以上からなっていた。その梯団から数機の敵機が離脱していく。おそらく梯団を率いてきた先導機なのだろう。

「敵を発見した、同高度、100機以上いるぞ、ジャップ共を海水浴に招待してやれ!」

 マッキャンベルは、隊を鼓舞する命令を下しながら胸騒ぎを感じられずにはいられなかった。誘導では敵よりも優位な高度で接敵し一撃をかける予定だった。

 しかし、敵は同高度で接敵してきた。

 レーダーマンが高度を読み違えたのかもしれなかった。

 味方戦闘機部隊は集結しつつあるが、現時点では敵のほうが数が多かった。

(まあ、ジャップは味方を守るっていうハンディがあるからな)

「突撃っ!」

 マッキャンベルは、自身も愛機のヘルキャットをぐいっと加速させながら叫んだ。敵の編隊からどの程度の戦闘機が躍り出てくるか?と思った瞬間、敵の編隊も戦闘態勢に入った。全部。

「なんだって!」

 マッキャンベルは、思わず叫んでいた。

 敵の爆撃機や雷撃機は本来密集して防御を固めるべきなのだ。なのに、全部が散開して、しかも、こちらへ向かってきた。「全部、戦闘機だというのか!」

 敵は、ぐんぐん近づいてくる。

 やるしかなかった。劣勢とはいえ、こちらは時間が経つに連れ味方が増えていくのだ。ほんの少し時間稼ぎをすればいい。

 グーンと近づいてきた敵が発砲してくる。

(遠い)

 マッキャンベルは、思った。幾度とない交戦で敵の射程は知り尽くしていた。敵は、新米なのだろう。敵は多いが、新米なら撹乱してやれる。

 しかし、マッキャンベルの思考はそこまでだった。殺到してきた20mm機銃弾がエンジンカウリングを叩き、さらに何発かがキャノピー前面の防弾ガラスを叩き割ったついでにマッキャンベルの顔面を吹き飛ばしたからだ。エンジンに被弾し、パイロットを失ったヘルキャットは機首を下げるとあっという間に戦場から撤退していった。


 戦場は、いきなり大混乱となった。米軍にとって。

 編隊前面にばらまかれるように射撃された先制射撃で何機が撃墜され、劣勢な編隊はいきなり混乱に陥った。米軍は、いったん編隊をブレイクさせて体制を立て直そうとした。しかし、それはうまくいかなかった。

「畜生!敵が振り切れない!」

「降下しろ!」

「誰か、援護してくれ!」

「落ちる、落ちる!」

「トムがやられた!」

「くそっ、ついてくる振り切れない!」

「やられた、やられた!」

 戦場は、米軍パイロットの統制の取れない阿鼻叫喚の無線で溢れた。

 振り切れるはずの敵が振り切れず、急降下しても敵はピッタリついてきた。

「こいつは、ジークじゃないぞ!新型機だ!」

 ベテランパイロットの一人が気がついた時は米軍機の数は半減していた。


 艦隊の指揮によって米軍の増援部隊が戦場に到着しつつあったが、五月雨式であり、それに対して日本軍は冷静に対処し、かえって戦力の逐次投入という最悪の状況になっていた。

 これを可能にしたのは4式戦場指揮管制機『飛鳥』だった。飛鳥は彩雲を改良した機体で定員を1名減じたスペースに向こう側の技術を得て正式化された機載電探を搭載し、簡易的な空中指揮を取れるようにしたものだった。飛鳥は、戦場指揮を取れると同時に編隊を誘導するのにも経験や勘と言ったところを排除し電探で得られた情報によって誘導できた。

 また、飛鳥の採用と同時に正式化された4式空中電話装置によって、これまでゼロ戦ではほとんど用をなさなかった空中電話が明瞭に使用できるようになり、意思の疎通が格段に進歩していた。この空中電話によって飛鳥からの命令が確実に受け取れると同時に、編隊内での意思の疎通も確実にできるようになった。

 飛鳥によって米軍の新たな編隊は遠方から発見され、その通達を受けた戦闘機隊のうち、どの部隊が迎撃するかを明確にできた。


 蒼風はヘルキャットより優速であり、旋回性能も優れていた。それまで戦場を支えていたゼロ戦と比較すると航続距離と旋回性能でやや劣ったものの防弾性能は格段に進化し、新装備の20mm機関砲は初速が速い上に多数の装弾が可能になり交戦時間を倍以上取れた。弾丸自体もも徹甲弾に加えて薄殻榴弾を装弾していた。薄殻榴弾はドイツのマウザー砲とともに入ってきた技術であり従来の20mm弾の数倍の破壊力を秘めていた。向こう側の技術で量産化にこぎつけ、なんとかマリアナ沖海戦に間に合ったものだった。

 これに対し米軍は、いきなり戦場に現れたスーパーゼロ戦とも言うべき蒼風に圧倒された。

 もちろん、米軍も撃墜されっぱなしではなかったが、圧倒された上にマッキャンベルを始めとするベテランを多数墜とされるという実数以上の損害を被った。

 

「これは酷い…」

 ホーネット艦上整備員のエリック上等兵は、帰還してくるヘルキャットを見て呟いた。帰還してくるヘルキャットは、殆どの機体がひどく被弾しており、中には主翼の先端が欠けているものさえあった。ようやく着艦したと思ったらそのまま海へ滑り落ちる機体もあった。そして、何より帰還機が少なかった。「こいつは、大変なことになるぞ!」

 今までなかった事態にエリックは、声に出していった。

 そのエリックの心配を肯定するように飛行甲板上にスピーカーからの命令が聞こえてきた。

「敵艦載機接近中、対空戦闘用意!」

「ジャップが来るぞ!」

 誰かが大声で叫ぶ。

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