前世との繋がり
トーワが自分の前から逃げるように去っていった姿に、少しだけ寂しい思いをしたミルルは家に帰ってから、その事が頭から離れずにいた。そのせいもあって、家に帰ってきてからはどこか上の空のミルルであった。
ミミルはその姿を見て、何かあったというのは察したのだか、それ以外は何もわからない。この日はずっとミルルが上の空の状態であり、姉であるミミルと母のミーナは、ミルルのことを心配に思っていたが、整理する時間も必要だろうと思いその日は聞くことは無かった。
次の日の朝も、ミルルはずっと上の空であり、ミミルとミーナはもういいだろうと思って聞くことにした。
「ルルちゃん、ちょっとこっちへ来てくれないかしら〜?ミミちゃんとお母さんから話があるの」
2人の母であるミーナは2人のことを、ミミとルル、と呼んでいる。ミーナの隣には既にミミがいるため、ルルが席につくまで待った。その時の足取りも正確ではなく、どこか不安定だったが無事に席につくことが出来た。ミーナとミミは無言でルルのことを見つめ、喋り出すことを待っていた。
それを察したルルは口を開く。しかし2人にとってはその内容が想像を超えるものとなった。
「実は……実はね、私の友達が能力を持たない【無能】っていう存在だってことが昨日わかったの……。」
2人は暫く唖然としていた。だがそれもそうだろう、【無能】の存在なんてこの世にいることを2人は知らなかったし、ルルの友達がその【無能】であったことなどすぐには信じることができなかった。
ルルはまだ2人が話を理解できていないと思い、2人が落ち着くまで待っていた。
「それでルル、確かに友達がそういう存在だったということは衝撃なんだと思うんだけど、何をそこまで落ち込んでいるの?」
そうミミは妹に尋ねた。その疑問も最もな事で、確かに友達が無能という存在だったのはびっくりするだろう。ただ、それでもびっくりするだけだろう。なのにルルはどうしてそこまで落ち込んでいるのかが2人には分からなかった。そこでルルが口を開く。
「その人は、男の子で……唯一の友達で……、自分が【無能】っていう存在に気づいた時に、一緒にいる私まで被害が受けないように、私との距離を置こうとしてるの……。それが、悲しくて……寂しくて………………。」
次第にルルの声は震えていき、泣き始めた。ルルに取っては17年間生きてきた中で、唯一友達と呼べる存在のトーワが、自分の為なんかに距離を置こうとしている事実に、思った以上の衝撃を受けていた。その話を聞いていた2人はこんな状態になったルルの姿を今まで見たことがなかったため、重大な事だと思っていたが、重大では済まされない話だと気づいた。
「ルルちゃん……」
「ルル……」
2人はルルの名前を呼ぶことしかできなかった。かける言葉が見つからないのだ。そして、ルルは泣き疲れたのかその場で寝てしまった。
ミーナとミミは2人で、泣き疲れたルルのことをベットに運び、看病した。ルルが寝てしまったのは朝の10:00であり、現在は18:00を回っていた。それから10分くらいして、ルルが動き出し、目を開けた。
「ルル!ごめんね、辛い話をさせちゃって……。」
ミミは、起きたルルに向かってまず一番に謝った。それに続いてミーナも口を開く。
「私もごめんなさいね、ルルちゃん。私達も心配で心配で、仕方がなくて聞いたの。ごめんなさい。」
いきなり謝りだした姉と母の姿に驚き、どう返事をしていいか分からずにいた。その姿を見ていた2人には、ルルの様子が面白かったのか笑い始めた。
「って!なんで急に笑うのよ?!さっきまで謝ってたくせに!」
ルルは、笑い出した2人の姿に少しだけ怒りと恥ずかしさを覚え、なんて返事をしようかと悩んでいたことが無かったかのように、素で言葉を返していた。その事によって、ルルは自分を取り戻し、2人にかけるべき言葉をかけた。
「お姉ちゃん、お母さん。心配してくれてありがとう。でも今はもう大丈夫だから、心配しないで?」
そう言い出したルルに驚いた2人だが、ルルの表情を見て本当だと悟る。
自分のことを信じてくれた2人に感謝の気持ちを込めて、2人を抱きしめた。
長い抱擁を終え、夕食を食べ終えた3人はそれぞれ落ち着いていた。しかしそんな時、急にルルが2人のことを呼び始め、友達を探してくると言った。
現在の時刻は22:00を回っているため、外に出ているとは考えにくいが、ミーナとミミは探してくると言い出したルルの意見に従い、好きにさせることにした。ただし、24:00には帰ってくることを条件に。
許可が下りたことに一安心したルルは、すぐに着替えて外に出る。夜のスラム街は寒いため、春ではあるが厚着をして出かける。それでも若干の肌寒さを感じるルルだったが、すぐさまトーワを探しにスラム街を駆け回った。
30分くらいが経ち、残りはスラム街の入口付近だけとなったルルは、トーワに会えないのかと少し諦めていた。そのまま歩いていたが、歩くことに集中してないため少しのことでも躓きそうになっていた。そして案の定何かとぶつかってしまい、頭から転んだ。
「……痛いじゃない……」
そう言って、自分を転がした存在を見た。しかしそれは人の腕だった。ルルは怖くなりその場をすぐに離れたが、人の腕だけでなく全身ある事が分かった。さらにその場でうつ伏せになって寝ていることにも気づいた。
次第に近寄っていったルルはその人を仰向けにかえる。その時、ルルは心臓が止まる思いをした。なにせ、その場で倒れていた人間は……
「ト、トーワ……?」
ルルが探していた、トーワ張本人だった。
トーワはズキズキと痛む頭を起こしながら、見たことのない景色が広がった目の前の空間をまじまじと見つめていた。そして、昨日は何をしていたのかを考え始めた。
そして思い出したのは、自分が冒険者になったことである。それ以外に何かあったに違いないと、今の状況を見て考えた。考えるにあたって、どうしてこんなに頭が痛いのかをまず考え始める。最初は何かの勘違いで、勘違いじゃなくてもすぐに収まると思っていたトーワは、まだ続く頭痛に対して疑問を抱き、何かしら強い衝撃があったのだろうと結論づけた。しかしその時、自分がある男に殴られて、蹴られたことを思い出した。
顔つきなどは覚えてないが、顔の右頬に切り傷があったのだけは覚えている。その者の名前は「ポンス」という名前なのだが、今のトーワは知らない。しかし、これからトーワは嫌という程、ポンスと関わることになるのだが。
ある程度の記憶を戻し、次にここがどこなのかを把握するために起き上がろうとする。しかし、頭が痛むせいか思ったように歩けず、その場で倒れてしまう。瞬間に受け身を取ったため、対してダメージは無かったが、まだ本調子じゃないことを改めて自覚した。起き上がり、目の前の扉まで行こうと思い、足を出そうとしたが、人の気配が近づいてきた。そして扉を開けて、入ってきたのはトーワの友達ミルルこと、ルルだった。
ミルルとミミルの母が登場したため、2人のニックネームを、ミミとルルに変更します。元々読みにくいと思っていたので、この機会に2人の名前をいじることにしました。