前世との繋がり
すぐに受付嬢が裏から出てきた。手には青色の冒険者になる為の登録用紙が握られていた。受付嬢がカウンターまで戻ってきて、口を開く。
「こちらに名前と職業【能力】を書いてください。終わったらお呼びください」
そう言って受付嬢は去ろうとするがトーワは声をかける。
「すまないが、代筆をお願いしたい。」
本来であれば登録用紙を渡す前に、字がかけるか確認をして、駄目なら代筆をするという流れがある。しかし、【無能】であるトーワに対しての嫌がらせなのだろうがトーワは一応受付嬢に訪ねた。その言葉を聞いた受付嬢は悪い笑みを浮かべて、こう言った。
「字が書けないのであれば、登録することは出来ません。字を覚えてからまた来てくださいね?」
と言われ、トーワはいい加減うざくなってきたため、名前と【能力】を書いて受付嬢に渡した。しかし渡された受付嬢は、ありえない。といった顔でトーワのことをみつめ、登録用紙の記入での間違いや不備が無いことを確認し、引き攣った笑みで裏に戻っていった。
裏に戻った受付嬢のケールは苛立ちが募っていた。そしてそれとは別に、何故トーワが字をかけるのかを疑問に思った。それもそのはずで、スラム街にいる者は誰も字なんて書くことはないし読むこともない。つまり、字というものを必要としない世界で生きているのだ。それにトーワは実際に誰かに教えてもらったことなどないのだ。しかしトーワは何故か知っていて、書けて読むことができていた。
トーワは少し冷静になり、ある事を思い出した。
(どうして俺は字が書けるんだ……?お母さんにも教えて貰ってないんだぞ……?いや、でもどこかで見た記憶はあるし、書いていた記憶もある……?何なんだよこれ。気持ち悪い。)
そう考えているうちに、裏から戻ってきたケールがギルドカードをトーワに渡した。トーワは考えていたことを一旦引っ込めて、無事にギルドカードを発行することが出来た喜びを噛み締めていた。
「ゴホン。それではトーワさん、ここの規則に則って、冒険者の説明をしたいと思います。その前に、ここでこれから活動するのでしたら私が全て担当しますので自己紹介から始めます。私の名前は【ケール】です、宜しくお願いします。」
極めて機械的な話し方であり、感情が一切含まれていないことを感じたトーワだが、ここまでしてくれたケールに対して文句を言うつもりはなかった。そして、ケールは間を置いて続けた。
「それではまず、冒険者のランク制度についてトーワはさんはどれほど知っていますか?」
急に聞かれたため驚いたが、頭を働かせて答える。
「まずはDランクからスタートして、功績とそれに見合った実力があり、次のランクにある、比較的難易度が低いクエストを、専用職員の同行と共に、危なげなくクリアすることが出来るかどうかで判断することで、ランクの昇格を認定していく、というものだったと思う。それとAからSに上がるためには、それに加えて更に試験を重ねることであがれるんだったかな?」
ケールはトーワがいったことを正しいかどうかを考えながら聞き、少し説明が足りないところを見つけた。
「確かに、今言った通りですが、ランクアップの際には飛び級というものが存在します。飛び級というのは、各国のギルドマスターの5人以上の推薦があった場合のみ可能となります。しかし、飛び級でもなれるのはAランクまでです。そこからはトーワさんが知ってるランクアップの仕方と一緒です。ただ、一言付け加えるならSからSSの試験も同様なものを行い、さらに上に行くためにも同じ流れで行います。」
トーワは今言われたことを脳内で反復させて、効率よく吸収していった。その後も諸注意を受けて1時間ほどで説明が終わった。
トーワはギルドを出て、継承の場に来ていた。今日の出来事を考え、次は何をするのか、さらには長い目で見てどうするのかを考える。まず最優先なのはお金の確保だ。これは冒険者になった事である程度なら可能になっただろう。クエストの中には魔物を倒すだけでなく、採集のクエストもあるのだ。しかし、ここは辺境地であるため、あまり常識が通用しないことも多々ある。実際にそのような話も聞いたし、さっき登録をする時には少し怪我をした冒険者が戻ってきていたが、採集のクエストだったと小耳を挟んだ。そのままトーワは考え続けて、優先順位を付けた。
1お金の確保
2魔物を倒すことができるように、装備を身につけ、技術を身につけること。
3ある程度お金を安定して集めることができるようになった場合に、どこに旅立つか。
この3つを重点的に考えて纏めた。そしてトーワは家に向かって歩き出し、スラム街に入ろうした瞬間に後ろから衝撃が走り、5mほど吹き飛んだ。
「よっしゃー!あれ、5mぐらい吹っ飛んだんじゃね?てか、無能だからもしかしたら死んじゃったり?ならいい仕事したな!ヒャーハハハハハハ!」
狂ったような笑い方をあげながら歩いてくる。その男はトーワが気絶したことによって邪魔をされたと思っているポンスだった。確かに5mほど吹き飛ばす力はなかなかのものだが、能力者と無能者で身体能力が違うということは基本的にない。たまに特別な能力で基本性能を常時向上させるものもあるのだが、ポンスの【奴隷化】では何も変わらない。
そんなことにも気づかずに、まるで自分は他の人間とは圧倒的に違う、格上の人間だと思い込んでいるかのようだった。実際に、能力というものに対しての基本的な知識を有していない時点で明らかに能力者の中でも格下なのは間違いなかった。
「痛てーな……、なんなんだよいったい」
そう言いながら、衝撃を感じた背後に顔を向け、原因を探った。振り返った瞬間にそれは分かったが、知らない人であったため、一瞬間を置いてしまった。すぐに何が目的なのかを聞こうとしたが、相手が俯いて顔上げた。その時には怒り狂ったかのような顔をしていたため、トーワは驚いて体を動かすことができなかった。さらにポンスはその場からトーワに向かって全力で駆け出し、トーワの顔面にパンチを繰り出した。
トーワは体を硬直させてしまい、避けなければと考えたが上手く体が動かすことができず、尻餅をついた。この時に奇跡的にパンチを交わすことができたが、次の行動を起こそうとした時には蹴りが目の前まで迫り、喰らってしまう。
「クソがっ!起き上がって来んじゃねーよ無能が。1発で沈んどけばいいんだよ。」
ポンスはそう言葉を吐いた。そのまま5分ほど経っても起き上がらないトーワをみてポンスは、清々した気分になり、その場を去っていった。
なかなか難しいですね。これからは1話1話を長くできるように挑戦していきたいと思います。これでも頑張った方…………