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08 勇者と、聖剣。 ちょい待ち、聖剣!?

トモエちゃんのあらすじ

「魔王テラスの意外と重めの記憶と行動に感じ入り、力を貸すことを決めたセンナナちゃん。真っすぐな、ええ子ぉに育ったなあ……ウチが感動しとる間に、勇者が転移で侵入してきよった。一度行ったことのある村や町、お城に転移できるっちゅう魔法らしいけど、何ともチートな話やね」

 ばぁん、と大きな音立てて、謁見の間の扉が開かれる。転がり込むような動きで、謁見の間に侵入してきたのは、四人やった。

 まず先頭で前転かましながら入ってきたんが、たぶん戦士さん。ごっつい鎧と、フルフェイスの兜が特徴やね。でっかい斧には、魔物らしき生物の血ぃなんかがこびり付いとる。拭ったりせんで、錆びへんのやろか?

 続いて、勇者さん。青っちゅうか碧っぽく輝く剣を持って、戦士さんの後に続いて周囲を確認しながらの入室や。鎧は着とるけど、何でか兜は着けとらんみたい。頭、がら空きやね。

 そんで、後から僧侶っぽい服着たおっさんと、パジャマみたいな恰好の杖持ったお兄さんがやって来た。たぶん見たまんまで、僧侶と魔法使い。うん、バランスはええパーティやね。


 侵入してきた戦士さんが手ぇをついて、素早く起き上がる。その間に、ウチのセンサーは勇者さんの持っとる剣にくぎ付けになってしもうた。


 それは、綺麗な光やった。材質は、よう解らん。西洋の、ほんまもんの剣の刃が透けて、内側から眩い光が放たれとった。目を奪う、青碧の光。センサーのひとつに、()()()()、っちゅう壁を引っ掻いたような、耳障りな反応があった。


 あの光は、チェレンコフ……いや、違う(ちゃう)わ。あれは……


 勇者さんらを見下ろして、センナナちゃんが口を開こうとした刹那。ウチはリンクを開始する。


 全身の運動神経、リンク完了。


『え? おねーたん?』


 センナナちゃんの、戸惑ったようなメッセージ。


 姿勢制御システム、リンク完了。


 視覚、聴覚、触覚リンク完了。


 発声器官、リンク完了。オールコンプリート。


 瞬きひとつの間に、準備を整えたウチはセンナナちゃんの身体を勇者に向けて大きく踏み出させる。魔素と空気を切り裂いて、ウチらの身体は勇者の眼前に踏み込んでいく。


 発声音量、マックス。


 左胸に右手のひらを付けるように構えて、ウチは横なぎに勇者の顔に向けて振り抜いた。


「それは聖剣やなくて、臨界起こした核物質やないかーい!」


 右手の甲に、びしっと痺れるようなええ感触があった。会心のツッコミ。せやけど、残念ながら咄嗟のことやったから、思い切し日本語で叫んでもうた。まあ、ええか。

 どごん、と謁見の間の壁に吹っ飛んでいく勇者さんの手から、聖剣を取り上げておく。魔素を収束させて、剣の周囲に放射能をブロックできる物質を、即座に作成。鉛で、良かったんやったかいな?

 剣を包む半径一メートルほどの柱みたいなオブジェが、すぐに完成した。こないな物騒なもんは、封印するに限るやね、全く。


『あの、おねーたん』

『ん? ああ、ゴメンなセンナナちゃん。少ぉし、危ないもん見つけてしもたから……とりま、身体返すわ』

『う、うん。それより、ぶっちゃったひと、だいじょうぶ?』


 リンクを解除しつつ、センサーで勇者さんを調べてみる。


『命に別状はあらへんみたい。流石は勇者、頑丈やね』

『おねーたん、なにもかんがえないでぶつの、やめようね』

『う……あーい』


 心なしかじとっとしたセンナナちゃんのメッセージに、ウチは反省を込めて返答する。堪忍してぇな、これもウチに流れる関西人の血が為せる業やねん……って、今のウチには血も涙も無いんやったね。反省反省。


 そんなやり取りしとる間に、吹っ飛んだ勇者さんのとこに仲間の人らが駆け寄ってく。


「だ、大丈夫か、アルト!」

「あれは、伝承にある神兵!? ど、どうして神の使徒たる勇者殿を」

「そんな事より、聖剣が!」


 声の質からして、フルプレートの戦士さんの中身は若い女の人みたいやね。鎧も斧も重そうやけど、鍛えてはるんやろか? 僧侶さんの顔、よお見たら左半分が爛れたみたいにめくれ上がっとるけど、勇者さんの心配よりまずその傷、治したりできへんのやろか? 


『センナナちゃん、ナノマシン出してもええ?』

『どしたの?』

『魔法使いのお兄さんが、聖剣にちょっかいかけようとしとるんよ。魔素を取り込んで、魔法の邪魔をせなあかん』

『あーい』


 反省を活かして、センナナちゃんに事前に相談する。快い返事をもろたウチは、ナノマシンを射出して魔法使いさんの魔法を妨害する。その剣は、解き放ったらあかんもんや。間違いなく、ウチらと魔王(テラス)を残して勇者さんらが全滅するから。

 ふっと、テラスの様子が気になってナノマシンのカメラを向けてみる。玉座で、聖剣の埋まった柱を見てあわあわと震えとるね。何でやろ?


 そうこうしとるうちに、センナナちゃんが勇者さんらに向けて口を開く。


「我、汝らに敵対の意思無し。共に語らんと望む也」

「嘘つくな! 思いっきり攻撃してきたじゃねえか!」


 センナナちゃんの伸ばした対話の一手目は、女戦士さんによってばっさりと切り落とされた。そのまま両手斧を構える女戦士さんに、センナナちゃんは右手のプラズマハンドガンの銃口を向ける。閃光と、轟音が謁見の間に満ちる。


「く、ああっ! 血塗られし凶戦士の斧がっ!」


 そんな物騒な名前やったん、その斧。電子弾の六撃により、刃と柄を砕かれた凶戦士の斧とかいう物騒なもんは女戦士さんの手ぇから離れて壁の穴に吸い込まれ、落ちていく。下に誰もおらへんね……うん。


「我の望み、即ち対話也。武装は、不要也」


 そう言うて、センナナちゃんはプラズマハンドガンを分解、右腕に収納する。その気になれば、コンマ二秒もあれば発砲出来るけど……まあ、気分の問題やね。


「畜生、舐めやがって……! こうなったら、奥の手だ!」

「マリナ、奥の手って、まさか……」

「うるせえ! その名前で呼ぶんじゃねえ! 鎧よ、我が闘気に応えその力を解放しろっ!」


 魔法使いさんが蒼い顔して呼びかけたけど、女戦士さんは一喝する。可愛らしい名前やと思うけど、嫌いなんやろか?

 眺めとるうちに、女戦士さんの鎧のお腹の部分が変形していく。ウエスト部分が膨らみ、細長い棒状の突起が何個も出てくる。


「行くぜ! ハーラマイトアーマー!」


 勇ましい女戦士さんの掛け声とともに、鎧のお腹の突起が光り始めた。


『センナナちゃん、プラズマハンドガンに冷凍弾を装填。あの人のお腹に全力射撃や』

『うん? どして?』

『あの人が、ばーらばらになってまうから』

『あーい』


 センナナちゃんが答え、ウチはプラズマハンドガンを再構成、右腕に装着させて魔素由来の冷凍弾を装填する。この間、ジャストコンマ五秒。どや。


 冷凍弾は、ただ温度を下げるだけの弾やない。周囲の魔素を奪い、冷却のベクトルへ変化させるウチの特別仕様や。当然、女戦士さんのハーラマイトの鎧……腹マイトやね、アレは。ともかく魔素によって活性されたお腹のダイナマイトっぽい物質も、その対象になる。ウチのサポートを受けたセンナナちゃんの正確無比な射撃が終わってみれば、女戦士さんは全身氷漬けになっとった。


「馬鹿な、賢者の塔の智慧の真髄をもって作られた、ハーラマイトアーマーが!」

「仇は取るぞ! マリナ! 地獄の業火、消えぬ炎の魔道具で……」


 激昂しはった魔法使いさんが、銀色に輝くピンポン玉みたいなんを取り出して投げてくる。出したままのナノマシンで分析してみると……ナフサネート? よう燃える燃料やね。パーム油と合成した、ナパームっちゅう焼夷弾が有名なやつやった。


『センナナちゃん、アレも撃ち落として』

『あい』


 まあ、いくらナパームやいうても、絶対零度で凝固させてしまえば怖いもんやあらへん。空中で撃墜したピンポン玉が、ころんと床に落ちて周囲をちょっと凍らせた。


「け、賢者の塔の、最高の魔道兵器が……」

「なればもう、アレを使うしかありませんな」


 がっくりと崩れ落ちる魔法使いさんの横で、僧侶さんが何かを決意したような真顔で一歩前へ出てくる。


「や、やめろ! ノービス! それを使えば、今度こそお前は……!」

「神の御許へ召されるでしょうな。そうなれば、この神兵を止めていただくことも、出来るかも知れません」


 穏やかに言うて、僧侶さんがめくれあがった唇の端を歪ませる。何をするつもりなんやろ? 解らんけど、その顔にはどこか、安らぎのようなもんがあった。


「神の名において、清めに清められたこの聖水の力……邪悪なるものどもに思い知らせてくれましょう!」


 重々しく言うて、僧侶さんは首から提げた十字架を手に取って上の部分を右手で掴む。きゅっ、と十字架が、僧侶さんの手ぇの中で回転する。センサーに、危険物の反応があった。


 即効性の、致死性びらん毒液。分析結果は、やっぱりとんでもないもんやった。気体に触れた毒液の滴が、僧侶さんの顔の傷をさらに焼き、爛れさせていく。


『センナナちゃん、あの十字架や』

『あい!』


 投げる姿勢に入った僧侶さんの右手ごと、冷凍弾が凍り付かせた。


「あああっ! 手が、手があああ!」

「しっかりしろ! こうなれば……」


『センナナちゃん。プラズマハンドガンに、麻酔弾装填したから全員(みーんな)撃って』

『でも、おはなしできてないよ?』

『これ以上、自滅テロには付き合い切れんから。早う撃って?』

『ひっ……あい』


 ウチがやさしーく真心込めてお願いすると、センナナちゃんは素直に了承してくれた。決して、圧力なんかあらへんかった。ええね?


 たん、たん、と乾いた音がふたつ。それで、魔法使いさんと僧侶さんも眠りについた。女戦士さんは氷の中で意識レベルが低下しとったから、急いで氷を砕いて助ける。勇者さんは、ツッコミで気絶したまんまやね。


「ふ、はははは! やった! 圧倒的ではないか神兵は! よくやった、俺様の忠実なる僕どもよ!」


 玉座のほうで、懲りへん阿呆の声が聞こえた。


『センナナちゃん。そのピンポン玉、あいつの方に投げたり』

『あい』


「ぎゃああああ! 魔素が、魔素が燃える! 消えないいいいいい!? ああああ! 助けてー!」


 ナパームも、テラスにはよう効くみたいやった。ウチに身体があったら、間違いなく深ぁい息を吐いとるところやね、ほんまにもう。

ここまで読んでいいただき、ありがとうございます。

今回も、お楽しみいただけましたら幸いです。

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