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06 心攻と、電脳。 これが魔法。けったいで、せやけど素敵な可能性やん。

トモエちゃんのあらすじ

「ついに魔王と対峙したセンナナちゃんとウチ。せやけど、魔王の変な声に、センナナちゃんとのリンクが切れた。そして、ウチの身体にも異変が……って、身体ぁ!?」

 ()()()()()()。そして、ウチは()()()()()()()。どっちも、有り得へんことなんや。センナナちゃんとのリンクが切れてしもうたことよりも、ずっと、ずっと。何でか? それは、ウチが電脳やから。()()()()()()()()ウチに、そんな感覚が訪れることなんて、有り得へん。思いながら、ウチはほっぺの汗を拭う。


「んえ?」


 思わず、変な声が出てしもた。べっとりと汗のついた右手が、目についたんやもの。これは、何や? 頭ん中を疑問符でいっぱいにして、ウチは()()()()()()()()()()()


 ほっそりとしとるんは、病気になって出歩かんようになってもうたからやろね。あばらが浮いて、みっともないことになっとる。引っ込むとこが引っ込んどる。出っ張りは、せやから薄い。決して、無いわけやないんや、無いわけや……


「うきょええええええ!?」


 生まれたまんま、すっぽんぽんの恰好でウチは悲鳴を上げた。おかしい。ウチは、センナナちゃんの副脳で、灰色でメタリックなコンパクトボディやった筈やん。目ぇも耳も、髪の毛ぇも何もかも、ある筈があらへん。せやのに、今のウチには身体がある。触れば、感触もある……ちょい待って、何で触れるんや? いやいやそれ以前に……


 思考の迷路に、ずぶずぶとウチは嵌り込んでまう。真っ暗闇の中で、頭ん中がこんがらがってくる。


 センナナちゃんの中から、出てしもうたの? 否定。そもそも頭ん中から出たくらいで、身体は生えてけぇへん。


 プログラムのエラー? 否定。外部とのリンクは完全に断たれてもうとるけど、走査した結果エラーは見当たらへん。千回くらいやったから、間違いあらへん。


 魔王の、攻撃やろか? 保留。せやけど、ウチがこんなんなっとるんは、魔素による影響かも知れん。魔王の攻撃っちゅうには、リアクションが……


 センナナちゃんの体内で、魔素が暴走したんか? 否定。あれはエネルギー物質そのものであって、体内にあるもんはウチが全部掌握しとった……筈や。


 ほんなら……と、幾通りものパターンを思索する。外部とのリンクの復活を、試行してみる。そんなことに、気ぃ取られとったからやろか。ウチの視界で、ぎいっと音立てて闇の中に四角い光が現れたことに、気付くのんが、ちょい遅れてもうた。


「これが、神兵の精神世界か……ふむ、ごつい外見に似合わず、中々に可愛らしい人格ではないか」


 そんなことを言いながら、入って来た奴がおった。


「ふぇ? あ、あんた、魔王、テラス……さん?」


 入って来た(もん)に、驚きをもってウチは問いかける。にんまりと、満面えびすさん顔でテラスさんは胸を張ってうなずきよった。


「いかにも! この魔王テラスが、神兵に何の対策も無く挑むと思ったか! 精神魔法でコアに潜入し、お前を支配するために……」

「出てけぇ!! こんの、変態野郎(あほんだら)-っ!!」


 咄嗟に、ウチは両手を胸の前に持ってきて足を組んで防御を固めて叫ぶ。何でって、そら、今のウチの恰好っちゅうたら……アレやん? 一秒ほど硬直してもうてたお陰で、ばっちり見られてもうた。うう、乙女として一生の不覚やね。


「ククク、酷い言い草だが、そうそう簡単に出て行ってたまるものか! お前を支配すれば、あの強大にして凶悪な武力がっ、ぶげらっ!」


 高笑いするテラスさん、いや、変態野郎でええわ。変態野郎の顔面に、銃弾のシャワーが降り注ぐ。撃ったんは、ウチの叫びと同時に床から出て来た迎撃用の自動機銃、いわゆるタレットさんやね。


「このこのこのっ! 殺し()てもうたるっ! 細切れの豚肩ロースにしてっ! スーパーに並べたるわあああっ!」

「ぐっ! がはっ! や、やめっ! ぎゃあああっ!」


 ウチの意思に合わせて、床から次々とタレットさんが生えてくる。全身余すとこなく、銃弾を叩きこまれた変態野郎は苦痛にもがきながら四角い光の中へと逃げていく。


「逃がさへんよっ! 待たんかいっ! あ、服……」


 立ち上がり、追いかけようとしたウチの呟きに、身体がぴかっと光った。刹那の後に、ウチはセーラー服を身に着けとった。おし、これやったら追いかけられるね。


 脱兎の勢いで逃げてく変態野郎を追って、光の中へと飛び込む。頭ん中に、地図みたいなもんが浮かんだ。一本道の、あんまりややこしゅう無い通路がある。これが、ウチの精神世界なんやろか? 馬鹿にされた気ぃになって、ウチは怒りとともに両腕にショットガンをこさえて駆け出した。


 変態野郎を追いかけながら、分析してみる。どうやらこの現象は、魔素によるハッキングみたいやね。エネルギー源として、体内に魔素を仰山持っとったんが、仇になったんやろか? 変態野郎が自分の身体を魔素に変えて、センナナちゃんの魔素に接触。そっから、電子回路に潜入してきたんやね。今のウチの身体やら、真っすぐ単純なこの通路は……変態野郎が魔素にイメージを持たした結果やろね。うん。許さへんよ?


 電子回路に潜入してきた異物(ウイルス)を、抗体(ワクチン)となったウチが追う。原理が解れば、もうこっちのもんや。隔壁やタレット、可燃ガスなんかも使うてウチは変態野郎を追いつめた。場所は、通路の半分くらい。追いかけっこにしては、ちょい呆気ない気ぃがせえへんか、変態野郎?


「ま、待て! 待ってくれ!」

「問答無用や!」


 両手を上げて呼びかけてくる変態野郎の足に、ウチは両手のショットガンを撃ち込んだ。タレットさんでやってもええねんけど、やっぱ自分でやらんと気ぃが済まへんね、こういうのは。魔素で構成されとるからか、変態野郎の足は太股あたりからあっさりと千切れ飛んでしもた。軟弱(やわ)やねえ、ほんま。


「くっ、馬鹿な……魔王たるこの俺が、こうもあっさりとがっ!」


 倒れた変態野郎の背中を、遠慮なく踏みつけたる。痛そうな悲鳴上げとるし、千切れた足のあたりが魔素の粒子になって消えていっとるけど……乙女の世界にハッキングかまして来るような奴やから、問題あらへんね? うん。


他人(ヒト)の頭ん中に、ようも土足で踏み込むような真似してくれたね。お返し、してやらんとあかんね」

「な、何を……ぐあっ! や、やめろ!」


 じたばたと変態野郎が暴れるけど、魔素を固定しとるから逃げられへん。もがいて動く後頭部へ、ウチは手ぇをかける。同時に、手の平からナノマシン作成……出来るやろか? あ、出来たわ。そのまま、ナノマシンを変態野郎の頭の中へ。いわゆる、逆ハッキングっちゅうやつやね。


「お、俺の、俺の過去を覗くなああああっ!」

「あんたのしようとしとったことやろ? ハッキングしよるからには、される覚悟っちゅうのを、持っとかなあかんって、誰かが言っとったよ?」


 ちょい違うかも知れへんけど、どっかの名言引っ張ってきて言うた。必死に抵抗しとるようやけど、処理速度が全然遅いわ。文字通り、あっちゅう間にハッキングは終わってもうた。びくんって、変態野郎の身体が跳ねよった。


「あんたの記憶、見せてもらおか……」


 脳内フォルダに突っ込んだ記憶ファイルを、開いてみる。誕生から現在に至るまでの、この変態野郎の記憶がざっと流れていく。


「ふうん……変態やけど、あんたも苦労しとるんやね」


 見えたんは、結構えげつない映像やった。この変態野郎の人生の前半分は、魔法の実験体やね。赤ん坊として生れ落ちてから、二十年くらいは人道に外れるような実験をされとったみたい。その成果で、身体を魔素に変換出来るようになって、魔王を名乗ったと。実験しとった連中皆殺しにして、その場所にお城建てて住んどるんやね。壮絶やなあ。


「うぅ……全部、見たのか」

「うん、ばっちり見してもうたよ。ここに来るまでのこと、全部。マント着けて月に向こて高笑いするのんが趣味やとか、ちょい寂しすぎやない?」

「……放っておいてくれ。そこまで、見られたんだな。うぅ、もう、お婿に行けない」

「行かんでええんやないの? どのみち、あんたの身体やったら嫁さん貰う以前の問題な訳やし……まあ、あんたの処遇については、センナナちゃんと相談して決めるから、ちょい待っとき」


 足を離し、泣き崩れる変態野郎……もうええか。テラスを見下ろしつつウチはリンクを繋ぐ。


「センナナちゃん。聞こえるか?」

『あ! おねーたん!? きこえるよ! おねーたんのこえ! ねえ、ぼくのからだ、どうなっちゃったの? いきなりとまって、まっくらになって』

「あー、それな。うん。ちょい待って。データ送るから」


 復活したリンクに、テラスの使うた魔法の詳細を乗せる。ついでに、テラスの人生の画像も。


「どや? センナナちゃん」


 短い問いに、センナナちゃんはその意味を理解したようやった。主脳と副脳の関係やから、当然。ツーカーの仲っちゅうんかな。


『このおにーちゃん、やっつけないほうがいいかも……だめ?』

「ウチは、センナナちゃんの選択に、口を挟むつもりはあらへんよ。センナナちゃんがそれでええんやったら、ね」

『ありがと、おねーたん』

「どういたしまして。ほな、テラスを外に放り出して、ウチも元の場所に戻るわ」

『あーい!』


 戻ると言うても、今のウチは魔素で作ったボディを操っとるだけやねんけど……やっぱり、何かしっくり来んのよね。


「ちゅうわけで、テラス。あんたの処遇は決まったから、そろそろ出て行ってな」

「早っ! そんな簡単に決めていいのか? 俺は、魔王なんだぞ?」


 コンマ以下の時間で決まった処遇に、テラスが驚いた顔を向けてくる。どや。会心の笑みを浮かべつつ、ウチはうなずいてテラスを固定しとる魔素ごと回路の外へと放り出した。あー、とか叫びながら、テラスの身体がスピードに乗って流れてって、見えなくなる。


「ほな、ウチも……」


 意識を頭ん中に向けて、抗体プログラムを解除する。瞬間、ウチの身体は光の粒子になり、ふわりと散って消える。


『ただいま、センナナちゃん』

『おかえり、おねーたん』


 手ぇも足もあらへん、いつものウチに戻ったんは、一瞬後のことやった。やっぱり、ここが一番しっくり来るね。下がっとった処理速度も、元の通りや。せやけど、ちょっと新鮮やったね。身体があるっちゅうのんは。時々は、身体作ってみるのんも、ええかも知れん。こっそりと、そないなことをウチは考えた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

次回は、来週末くらいになります。

今回も、お楽しみいただけましたら幸いです。

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