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その十七

「紅山様」

「ん」


 名を呼ばれ、半蔵は辰馬をまっすぐに見据える。かずらたちも、彼に視線を集中させていた。


「俺でお役に立てるのであれば、化け同心に加わりたく思います」


 その中で辰馬は、ゆっくりと返事の言葉を紡いだ。彼らの誘いに応じ、その仲間となることを承諾する返事を。

 ただ、半蔵もそうだが化け同心たちも、驚いたような困ったような表情を浮かべている。やはり、辰馬を仲間に引き込むことにはためらいがあるのだろう。

 半蔵がおずおずと口にした問いが、それを物語っていた。


「誘っておいて何なのだが……良いのか?」

「はい。だから、そう答えました」


 対して辰馬は、もう決めたと言うようにはっきりと重ねて答える。いや、決めたが故にそもそもの答えを出したのだろうが。


「この刀はお仲間のようですし、俺は『かさね屋』の皆には、提灯たちも含めて世話になってます」

「……まあ、常連客じゃしの」


 一人で長屋に住んでいる辰馬は、あまり自分で食事を作ることがない。お角・お加奈親子を始めとした住人たちが作ってくれるときもあるが、それこそ「かさね屋」で食べることが多い。

 夕食を頂いたあとはお化け提灯に道を照らしてもらって帰るし、たまに大介と一緒になることもある。

 辰馬にとって「かさね屋」は既に生活の一部であり、その彼らへの助力となることは何の問題もないのだろう。


「それに多分、忘れられないと思います」

「そうか」


 意味のわかりにくいその言葉を、半蔵はゆったりと頷いて受け止めた。

 ここで辰馬の記憶を消しても、おそらくいずれは思い出す。そういうことなのだろう、と。

 そう考えて半蔵は、辰馬の横におとなしく控えている刀にも声をかけた。


「では、お前さんも良いんじゃな」


 このものがそういうておるんじゃったら、わしにいけんはないよ。

 ただぞんぶんにふるわれ、きってまもるだけじゃ。


「やれやれ」


 辰馬に振るわれることを良しとし、姿を変えることなくそこにある刀の言葉、というか思念に半蔵は苦笑を浮かべるしかなかった。

 何しろ、自分の部下たちがそれに対抗するように口を挟んできたのだから。


「刀に負ける気はないね。辰馬坊は、あたしが守る」

「姐さんがそう言うなら、俺も異存はありませんな」

「俺も刀だが、刀が負ける気はないな、かずら姐さん」

「何言ってるんですかあんたら」


 思わず辰馬自身が呆れて突っ込む程度には、化け同心たちは辰馬に対して少々ばかり贔屓が過ぎているようだ。もっとも、店の常連客だからだろうなという程度にしか辰馬は思っていないようだが。


「では、改めて」


 一度ごほんと咳払いをして場の空気を変え、半蔵は「相川辰馬」と青年の名を呼んだ。何はともあれ、己の配下となることが決まった者である。


「はい」

「これより、化け同心の一員として心を砕き、世と民のために戦ってもらいたい。良いな」

「はい。謹んでそのお役目、お受けいたします」

「正式な沙汰はまた後日、ということになるが。よろしく頼むぞ」

「は。よろしくお願いいたします、紅山様」


 深く頭を下げた辰馬には見えぬように、半蔵はわずかに目を細めた。まるで、我が子を見る父親のように。

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