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その十二

「獣なら食い散らかすんだが、虫じゃなあ。しかも蝉」


 ぶうん、と大介の腕が大きく振られた。その指先から伸びた爪が、蝉たちの身体を切り裂き地面に叩き落とす。地上で震えるその羽根をグシャリと踏み潰し、少々毛深くなった腕で大介は軽く顔を拭いた。


「腹がからっぽなんだよな。食いでがねえ」

「食うんですか」

「よっぽど腹減ってたら」


 思わず声に出して尋ねた辰馬に、さらっと答えを返す。それから、今の自分の腕を見てもあまり驚いた様子のない青年に目を見張った。


「怖くねえの?」

「大介さんですし」

「……あ、そ」


 逆にさらっと答えられて、大介は見もせずに背後から襲い掛かってきた蝉の頭を鷲掴みにしながら肩をすくめる。そのまま足元に叩きつけ、軽くひねってとどめを刺してやった。

 それから一応、辰馬には言葉を続けてみる。


「あ、獣は食うけど人は食わねえよ。これでも舌は肥えてんだ」

「人を食ってるなら、俺を助けちゃくれないでしょう」

「わあ」


 えらく信頼されてるのね、俺。

 心の中でそう呟いて、大介はまた別の蝉を叩き落とすために走り出した。


「……羨ましいねえ、大介」


 そんな二人の様子を伺いながら人型の『兄弟』をばさばさと斬り倒していたかずらは、小さくため息をついた。尻尾がぱたん、と不満を示すように揺れる。


「妖が人に懐かれる様が、羨ましゅうございますか。狐殿」

「お黙り」


 ぎん、と耳に痛い音がして、かずらの刀と男の腕がぶつかる。互いにぎりぎりと押し合い、動きが止まった。こっそりかずらの背後から近寄っていった蝉は、村井が別の蝉を斬るついでに縦半分にしている。


「姐さん、残りはそいつだけだぜ」

「早いわね」

「ぎっ!」


 最後の『兄弟』の頭を割って、村井は男の方に顎をしゃくった。それを聞いてかずらが、満足げに笑って思い切り刀を振る。その勢いで、男は辰馬がいるのとは反対側の建物の壁際まで弾き飛ばされた。

 だが、そこで皆の視線が男に集中した。無論、辰馬も。


「ふしゅうううううう」


 辰馬は壁にもたれていたのだが、そのすぐ横にぬうと立ち上がる影があった。がしゃ、と固いものが動く音とともに、はっと気づいた彼の首筋を目掛けて爪が走る。


「辰馬坊!」

『タツマサマ!』


 かずらの声とほぼ同時に、お化け提灯がふわっと浮かび上がった。御用の用の字を爪で割かれ、ぴいと鳥が上げるような悲鳴を上げる。ただ、さすがに妖であるからかは分からないが、影が一瞬怯んだ。

 ここで止まっていては、何をしに出てきたのか分からない。お化け提灯よりは、戦えるはずなのだから。


「てめえ、よくもっ!」

「っ!」


 こよりがついたままの刀であるから、鞘からは抜けない。だから辰馬は、そのまま振りかぶって影に叩きつける。影も爪を構え直し、応戦する。


「辰馬坊!」

「大丈夫、あんたらはそっちを!」


 大介が駆け寄ろうとするが、辰馬の声で足を止める。が、妖の目は気づいていた。

 解け始めた、こよりの封印に。

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