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棺屋はいつも冒険者の後ろに  作者: 紺野千昭
第一章 葬列と少女
9/42

落下

――――……

――……


 朝焼けの淡い光の中に、強烈な閃光がほとばしった。

 鬱蒼うっそうと茂る森の中をアンヘルは一人でひた走っている。その足取りは疲労と不眠でひどく覚束おぼつかない。そんな少女の背後、木々の狭間に見え隠れするのは、自律機構兵の真っ赤な瞳。それも一つだけではない。三つの禍々しい機械の目玉が彼女の背中を追いかけていた。


 襲撃を受けたのは三十分ほど前。夜明け間際の森で遭遇した自律機構兵は、八機で一組の編隊を組んでいた。その数を前にして迎撃などできるはずもない。アンヘルは即座に逃亡を図ったが、自律機構兵の追撃は執拗しつようにして苛烈かれつだった。


 否応なく繰り広げられる混戦。その最中、気づけばアンヘルは棺屋たちとはぐれていた。故に今、彼女は本当の意味で一人きりなのだ。無論、背後に迫る三機の自律機構兵を除けば、の話だが。


「《シャル・アヴ()シャーツェン()》!」


 光の弾幕をばらまきながら、アンヘルは焦燥感に顔を歪めた。


 三機のうち二機は既に遠距離武装を破壊してある。だが、いつまでも追いかけっこを続けていれば、先に力尽きるのはこちらの方。どこかで勝負を決めなければ。


 そんなことを考えていた矢先、前方の岩陰から別の自律機構兵が現れた。単独で徘徊はいかいしていた個体に出くわしてしまったらしい。さらに不運なことに、新たな自律機構兵に搭載されていたのは、今まで見たことがない大口径の砲門。


(まずい……!)


 思わぬ伏兵を前にして、アンヘルは咄嗟に飛び退く。その直後、砲門から放たれた榴弾りゅうだんが炸裂した。


 熱波を含んだ強烈な爆風。吹き飛ばされたアンヘルは、背中から大木の幹に叩きつけられる。かろうじて意識はつなぎとめたものの、立ち上がった時にはもう、四機の自律機構兵が間近に迫っていた。


 ――もはや手段を選んでいる暇はない。


「《コンツェルト(収斂)》――」


 アンヘルの号令に応じて無数の光球が一箇所に集い、巨大な一つに光球を形作る。そしてアンヘルは、膨大な熱量を孕むその光球に命じた。


「――《シャル・シュ()ツルメント()》!!!」


 自律機構兵たちの丁度中央に向けて落下する光球。地面に触れたその瞬間、高密度のエネルギー塊と化していた光球が炸裂し、内に蓄えていた莫大な熱量を余さず放出した。


 術者本人ですら眼を開けていられないほどの光の奔流。たとえ装甲を破壊するには至らなくても、脚部に損傷を与えることは可能なはず。そんなアンヘルの決死の判断は、思わぬ結果をもたらした。――圧倒的破壊力の爆発は、自律機構兵ではなく、その足元の地面一帯を打ち砕いたのだ。


(なんで――?!)


 突然の無重力感。地面の崩落に巻き込まれたアンヘルは、地下に広がっていた虚ろな空洞へと投げ出される。まさしく天地が反転したような状況の中、唯一彼女にできたのは、手足を丸めて衝撃から身を守ることだけ。


 時間にしてわずか十数秒。すべてが静まりかえった後、動くものは何一つなかった。


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