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棺屋はいつも冒険者の後ろに  作者: 紺野千昭
第一章 葬列と少女
12/42

未知との遭遇

――――……

――……


「ええーっ!? アンヘル、一緒に行かないの!?」


 翌朝、地下通路に響いた第一声は、コムギの驚愕の声だった。


「う、うん……足もだいぶ良くなったから……」

「それとこれとは話が別でしょ? 旅は道連れって言うじゃない」

「でも……見ず知らずの私なんて……」


 アンヘルは微かに目を伏せる。


 彼女はコムギが目覚めた後、お礼のあいさつだけ済ませて別れようとしていた。一晩だけというナギの言葉に甘えてしまったが、二人を巻き込みたくない思いは変わらなかったのだ。それを今、コムギがいつものおせっかいで引き止めているのである。


「人は誰しもはじめましてなものよ。第一、同じ鍋の飯を食べた仲じゃない! 水臭いわよ~?」

「だけど……」


 アンヘルは助けを求めるかのように、ちらりと傍らのナギを見た。ナギならば刺客の危険性も知っているし、何より一晩だけと言った張本人。きっとコムギを説き伏せてくれるはず……


 けれど、ナギは説得するどころか、肩をすくめてコムギに加勢するのだった。


「僕も、コムギの面倒を見てくれる人がいると嬉しい」

「あっ! こら、ナギ! 逆でしょ、逆! 私があんたの面倒を見てんのよ!」


「なら自分で起きれるようになってよ……」

「本気を出せばできるわよ、それぐらい!」


「あ、あの……私の話は……」

「いいからいいから、もうさっさと行くわよ! 幽霊が私たちを待ってるんだから!」


 と、既に見つからないオーパーツから幽霊話の方に興味が移っている様子のコムギ。どうやら、なし崩し的にアンヘルの同行は決まってしまったらしい。


 一晩だけ、と言って引き止めておきながら、ナギにはこうなることがわかっていたのだ。


「ほら、アンヘル! はーやーくー!」


 アンヘルの目的は島の中央にあると言われる『イヴの心臓』のみ。他のオーパーツ探索はもちろんのこと、幽霊探しなど脇道もいいところ。それでなくとも、自律機構兵が蠢く超科学のこの島で幽霊だなんて、砂漠に雪だるまを求めるようなもの。全くもって馬鹿げている。


 だというのに、意気揚々と進む二人の背中を、アンヘルはいつの間にか追いかけていた。

 目的地のない脇道に逸れてみるのも、たまにはいいかも知れない。――アンヘルはそう思ったのだ。


 しかし出発から僅か十数分後、アンヘルのそんな感慨は見事に裏切られることとなる。……ただそれは、ひどく予想外の方向で、であった。



「……ねえ、ナギ」


 朝から元気に先頭を進んでいたコムギが、角を曲がった途端急に立ち止まった。


「……幽霊ってさ、どんな風に見えるんだっけ?」

「どうしたの、急に……?」


 怪訝な表情を浮かべるナギ。

 コムギは頭をかきかき、通路の向こうを指差した。


「いやー……なんていうかさ……マジで出ちゃったみたい、幽霊」


 角を曲がった先、不穏に明滅を繰り返す照明の下に佇んでいたのは、白衣を纏った若い女。

 ただ、明らかに尋常な様子ではない。風もないのにゆらゆら揺れているし、時折全身にノイズのような粗が走る。極めつけは、両足が数センチほど地面から浮いていること。


 ――その姿はまさしく、『幽霊』としか形容しようのない‘何か’だった。


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