ひとときの至福(ショートショート46)
その昔。
権作という貧しい男がいた。
ある日、みすぼらしい旅の者が権作の家を訪れる。
「一晩、ここへ泊めていただけぬか」
旅人は白いひげのある老人であった。
「ああ、泊まっていくがいい。貧乏なもんで、こんなものしか食わせてやれんがな」
権作はこころよく旅人を招き入れ、粗食ではあるが雑炊を食べさせてやった。
旅人が言う。
「実は、ワシは福の神なのじゃよ。礼として、なんなりと願いを叶えてつかわそうぞ」
「そんでは毎日、おらあー、腹いっぱい飯を食ってみてえだ」
「よかろう」
福の神がコクリとうなずく。
するとなんとしたことか、釜が白い米であふれんばかりになったではないか。
「いくら食べても減ることはないからな」
「それはなんともありがてえことで」
「ほかに願いごとはないかな?」
「おら、嫁っ子がほしい。ずっと食うや食わずで、この年まで嫁をもらえなかったんで」
「よかろう」
福の神がコクリとうなずく。
「うひゃあー」
目の前に美しい娘が現れ、権作は飛び上らんばかりに喜んだ。
「ほかに願いごとはないかな?」
「飯が腹いっぱい食えて、こげなべっぴんが嫁っ子になるなんち。おらあー、もう死んでもいいべえ」
「よかろう」
福の神がコクリとうなずいた。