表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が攻めてきたので戦ってきます  作者: 星空 棗
第一章「召喚騎士を捜して」
9/10

第8話「ジョブギルドでのジョブチェンジは必須です」

ウルにあるというジョブギルドに、わたしたちは今来ています。

ティナさんが言った通り、かなり規模が大きいです。

窓口がいくつもあり、女性や男性がジョブに就いている人たちの対応をしています。


「あ!ティナさん!」


真ん中の窓口で、笑顔で手を振る女性。


「ミルク!久しぶり!」


ティナさんも、笑顔で挨拶します。


ミルクと呼ばれた女性は、ティナさんと同じく茶髪に茶色い瞳。

とても愛嬌がある方です。

年齢は…二十代前半くらいでしょうか。


「受け取りに来たんですね!ここに……」


「わー!!ミルク!違う!違うから!!」


ミルクさんが何かを取ろうとしたとき、何故だかティナさんは慌てて止めに入りました。


「え…?違うんですか?」


「今日は違うの!今はまだいいから!」


“今はまだ”?

ティナさんは、何に焦っているのでしょうか?


「そうですか…」


ミルクさんはそう言うと、伸ばし掛けた手を引っ込めました。


「改めて…こんにちは!ジョブギルド本部へようこそ!」


ミルクさんは、満面の笑みでそう言いました。


「ここでは、ジョブの紹介や変更…ジョブの解放だけでなく、様々な任務を取り扱っています。今回は、どのようなご要件でしょうか?」


「ミルク、この二人の認証玉が七色に光ったの。ジョブチェンジの案内をしてくれないかしら?」


ティナさんはそう言いながら、カイとハルクをミルクさんに紹介します。


「かしこまりました。では、お二方の認証玉をお預かりいたしますので、私の手のひらに置いていただけませんか?」


ミルクさんはそう言いながら、二人に両手を差し出しました。


カイとハルクは、素直に認証玉をミルクさんに預けました。


「お預かりしました。では、確認いたしますね!」


ミルクさんはそう言いながら、何やら機械を操作しています。


「まずは…ハルクさん!おめでとうございます!今までの功績が認められ、エースへの昇格が可能となりました。今すぐに昇格しますか?」


「はい!お願いします!」


ハルクは、ミルクさんに笑顔で言いました。


「わかりました!では、こちらに認証玉を置いてください。」


ミルクさんから再び認証玉を受け取ったハルクは、設置場所に認証玉を置きます。


「ハルクさん、モニターをご覧ください!」


ミルクさんに言われ、大きなモニターを見るハルク。

そこにはハルクの顔と名前、ジョブの名前が映し出されています。


「今日からハルクさんは、ウォーリアのルーキーランクから、エースランクへ昇格しました。レジェンドまで先は長いですが、頑張ってくださいね!」


「はい!ありがとうございました!」


ハルクはミルクさんにお礼を言うと、認証玉を胸元につけました。


「次はカイさんですね…。あ!カイさんは見習い期間を終了していますね!では、ジョブの案内に移ります!」


ミルクさんはそう言うと、再び機械を操作します。


「カイさん、小型のモニターを見てください」


ミルクさんは、窓口に置かれていたモニターをカイに向けました。

彼は素直にモニターを見ています。


「カイさんは三つの見習い期間を終えているので…召喚士、ウィザード、騎士になれます。いかがなさいますか?」


ミルクさんに問われ、カイは腕組みをして考え込みます。


「ミルクさん、どれが早く極められるんですか?」


カオルが、ミルクさんに尋ねました。


「そうですね……職業(ジョブ)の中で一番上達度が上がりやすいのは、やはりウィザードですかね。召喚士は結構時間が掛かります」


「わかりました、ウィザードになります!」


「では、認証玉をこちらに置いてください。」


ミルクさんにそう促され、カイも認証玉を設置場所に置きました。


「はい!カイさんは今日からウィザードになりました!装備や武器が変わりますので、一度武器屋と防具屋へ行くことをお勧めします。」


笑顔で、ミルクさんはそう言いました。


「ミルクありがとう。助かったわ」


ティナさんは、ミルクさんにお礼を言いました。


「これが私の仕事ですから。またいらしてくださいね!」


ミルクさんは、笑顔でそう言いました。




ミルクさんに見送られたわたしたちは、武器屋と防具屋さんに来ています。

カイの装備一式が変わったので、新たに装備品を買うためです。

ですが…かなり種類があるようで、これでは決めることができません。


「すげぇ……種類がありすぎて、迷っちまうよ…」


ハルクは、新品の斧を見て瞬きをしています。


「杖にも種類があるんだな…どれにしようかな?」


カイが見ているのは、杖のようです。


「おや?お兄さんウィザードかい?」


武器屋の店主が、カイに話しかけてきました。


「ジョブチェンジで、今日からウィザードになったんですよ」


「そうかそうか!だったら…このマジカルステッキがオススメだ!初心者でも扱い易いからな」


武器屋の店主はそう言うと、二つの棒をカイに渡しました。


「マジカルステッキ!二本あって力を発揮する、特殊型の杖ですね!」


剣を見ていたティナさんが、会話に加わりました。


「お姉さん!目利きがいい……えぇ!?ティ、ティナさんじゃないか!」


「久しぶりです!繁盛してますか?」


「勿論だ!」


この方はティナさんとお知り合いなのでしょうか…?

と、武器屋の店主は、ティナさんの剣を見つめています。

ティナさんもそれに気付いていたのか、何故か隠すような仕草をしました。


「な、なぁティナさんよ、その剣…」


「アーサーは売りませんよ!」


ティナさんは、武器屋の店主の言葉を遮って睨みつけます。


「違う違う!アーサーじゃなくてそっちの剣だ!」


武器屋の店主は、ティナさんがさっき隠した所を指さしています。


「確かその剣は……」


武器屋の店主はそう言いながら、何やら分厚い本を捲り始めました。


「あった!神器・黄泉!間違いない!」


武器屋の店主がそう言ったからか、どこからとも無く野次馬が現れてしまいました。


「何!?神器・黄泉だと!?」


「見たい見たい!!」


野次馬の数があまりにも多く、わたしたちはいつの間にか追いやられてしまいました。

野次馬に囲まれたティナさんは無事でしょうか…?


「ま、待って!押さないで!!騒がないで!!騒いだら…“彼”が起きてしまう!!!」


ティナさんは叫びますが、野次馬たちは一向に去る気配がありません。

それより…“彼”とは??


ふと野次馬の一人が、神器・黄泉に触れようとしています。

その光景は、わたしたちにも見えました。


やばい雰囲気を察したわたしたちは、野次馬たちを止めに入りました。


「止めてあげてください!!」


「ティナさんが嫌がっているじゃないですか!!」


カイとハルクは、ティナさんから野次馬を引き離そうとしますが、びくともしません。


「やめて!!」


カオルも、野次馬たちを止めようとしています。

もう埒が明かない…誰もがそう思った、その時でした。


『うるさい!(やつがれ)の眠りを妨げる者は誰だ!!』


ティナさんが守ろうとした剣から、男性の声が聞こえてきました。

剣が言葉を発したことで、野次馬たちは距離を置きます。


『僕は眠いのだ!静かにしてくれないか!!』


「しまった…起きちゃった…」


剣が怒鳴り散らしている脇で、ティナさんはしまったという表情です。


剣の怒鳴り声に恐怖を感じたのか、あの野次馬たちは一目散に駆けていきました。


『武器屋の主人よ…僕を見て興奮するのはありがたいのだが、どうも苛立ちが治まらなくてな。そちらの若造に杖を渡し、どうかもう騒ぐのは止めてくれないか?』


落ち着いた口調に、武器屋の店主は何度も頷いています。

言われた通りにマジカルステッキをカイに渡し、彼から代金を受け取りました。


「後は私が見繕って買ったから、場所を移動して装備品の確認をしましょ!」


ティナさんはそう言いながら、武器や防具が入った袋を持ちました。

あの騒ぎがあった以上、周りの方に迷惑をかけてはなりませんからね。


わたしたちは、ティナさんのあとをついていって、その場を後にしました。




ウルから少し離れた草原に移動したわたしたちは、ティナさんが購入した装備品の確認を始めました。

カイはウィザードにジョブチェンジした為、それに見合った装備を身につけていきます。


「マジカルステッキ…意外と軽いんですね」


二本のステッキ状の杖を握ったカイは、驚きを隠せない様子です。


「武器屋の店主も言っていたでしょ?マジカルステッキは初心者向けだって。いきなり魔力が高い杖を扱うのは無理だから、少しずつ強い装備にしていくのが無難よ」


ティナさんはそう言いながら、今度はローブをカイに手渡します。


「それは魔道士のローブよ。早速羽織ってみたら?」


「はい!」


ティナさんに促され、カイはローブを羽織ります。


「おお!外見がウィザードらしくなってきたぜ!」


カイの新しい装備品を見ていたハルクは、興奮気味に言いました。


「ミルクが言っていたと思うけど、ウィザードは上達度が一番早く上がるの。認証玉の確認は怠らないでね」


ティナさんはそう言いながら、今度は大きな斧を袋から取り出しました。


「これはバトルアックスよ!ハルクのジョブランクが上がったから、装備可能よ!」


「ありがとうございます!」


ハルクはそう言いながら、ティナさんからバトルアックスを受け取ります。


「お…重い…」


ハルクには少し重かったのか、持ち上げるのにも苦労しています。


「まずはそのバトルアックスを担いだまま、大の字に寝られる練習をした方がいいわね。最初はつらいと思うけれど、次第に慣れてくるわ」


ティナさんは、そう言いながら袋を閉じました。


『ティナや…この若造たちは?』


お店の前で怒鳴り散らしたあの声が、また聞こえてきました。


「黄泉…寝たんじゃなかったの?」


ティナさんはそう言いながら、今度は地図を広げています。


『あの者たちがうるさかったせいでな、完全に目が冴えてしまった。バルハル全域に結界を張り巡らせていたから、回復したかったのに…』


あれ…?

確かバルハルは、コウキ様の出身地でありましたよね?


「バルハル…コウキ様の出身地ですよね?」


わたしは思い切って、剣に…神器・黄泉に話しかけてみました。


「フィーネ王女、黄泉と会話が出来るのは私だけです。貴女の声や言葉は、黄泉には聞こえないんです」


「えっ!?」


ティナさんの言葉に、わたしは驚きを隠せません。


「神器・黄泉に触れられるのは、今の時点では誰もいないんです。触れる人がいれば、その人を仲介して会話が成立するのですが…」


ティナさんはそう言うと、肩を落としてしまいました。


「いえ…そうとは知らずに話しかけてしまい、申し訳ありませんでした」


わたしは、ティナさんに謝りました。


「お、王女様!顔を上げてください!」


ティナさんは慌ててそう言うと、話を続けました。


「フィーネ王女様の言う通り、バルハルはコウキという召喚騎士の出身地です。彼とは古くからの付き合いでして、この神器・黄泉も、私の独断で預かっているのです」


「そうでしたか…」


わたしと会話をした後、ティナさんは再び黄泉に向き直りました。


「黄泉、この方はファレスティア国の王女様よ」


『なに!?王女様だと?!』


ティナさんの言う通りです…。

会話が成立していると感じるのに、黄泉の声が一切聞こえません。

さっきまでは聞こえていたのに、何故でしょうか?


「あの時もさっきも、黄泉は力を出した状態だったので声が聞こえたんだと思います。普段は力など出していませんからね」


わたしが不思議そうにしていると、ティナさんがそう説明してくれました。



カイたちはというと、先ほどティナさんが広げた地図を見ながら会議しています。

わたしも会話に参加しなければ!


「カイたちが目指してる深海の神殿だけど…このウル駅から水色の路線で、各駅停車のディープアクア行きの列車に乗れば、神殿に向かえるはずよ」


ティナさんは、地図に描かれた道を指さしながら説明してくれました。


「ありがとうございます!しかし、ティナさんはこのあとどうするんですか?」


カイは、ティナさんに尋ねました。


「私はそうね…星見の渓谷に一度戻ろうかと思っているの。まだ探していない書物もあると思うし、調べ直さないと」


星見の渓谷…フレア様と同行した星見の一族・ヨシュア様の故郷の名前です。

確かそこは、フレア様の故郷である幻の集落から程近い場所にあったはずです。


「そうですか…では、俺たちとは別行動になる訳ですね」


ハルクは、少し寂しそうです。


「もう少し…ティナさんと勉強出来るかと思ったんですが…」


ハルクと同じく、カオルも寂しそうです。


「ごめんなさいね。そうだ!もし、もし私に助けを求めたい時は、これを使ってね!」


ティナさんはそう言うと、カイにある物を渡しました。


「これは…?」


「それは投げると光を放つ玉よ。一発投げれば助けを求める意味、二発投げれば待機の意味、三発投げれば撤退の意味を表しているの。十個渡すから、本当に助けてもらいたい時にだけ使ってね!」


「わかりました!ありがとうございます!」


カイはそう言うと、ティナさんから貰った不思議な玉を袋に入れました。


「さてと…私は馬車を使って一旦ハーカルアに向かうわ。途中で厄介な濃霧の森が待ち構えているし、大きく迂回しながら星見の渓谷まで行かないと…」


「また、会えますか?」


わたしは不安になり、ティナさんに思わずそう聞いてしまいました。


「大丈夫よ!きっとまた会えるわ!」


ティナさんは、笑顔でそう言ってくれました。


「フィーネ王女、ティナさんを信じましょう。俺もまた会えるって思ってますから」


ハルクの言葉に、私は大きく頷きました。




ウルの中心に戻ってきた私たちは、馬車を使うというティナさんと一度別れました。

彼女が乗った馬車が見えなくなるまで、私たちは大きく手を振りました。


その後、ティナさんから教わった通りに列車に乗り、ディープアクア駅を目指して出発しました。


「アクーラ…深海の神殿…」


カオルは、地図を広げながら呟いています。

カイはというと、何やら紙切れをずっと見ています。


「カイ…お前さっきから何見てるんだ?」


ハルクは気になったのか、カイに尋ねました。


「ん?あぁ…ティナさんが見せてくれた地図に不思議な文字があってさ。それをメモしたんだよね。でも…俺では読めないから…カオル!読めるか?」


カイはそう言うと、メモをカオルに渡しました。


「えーっと…“全海(ぜんかい)の神、海を汚す不届き者に成敗を下す。その地、死の地域として恐れられる場所となる”……って書かれてる」


カオルはそう言うと、メモをカイに渡しました。


「死の地域…だと?」


ハルクは、小首を傾げています。


「死海…?」


「フィーネ王女、それは違いますから」


もしかしたら、この不思議な文字はこれだけではないのかもしれません。


私たちは、新たな謎に頭を悩ませながら、次の目的地を目指しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ