第7話「寝台列車での出会いと戦い」
ルシファー様の瞬間移動で、アクーラ駅に着いたわたしたち。
早速駅員さんに、停車したままの寝台列車について尋ねてみると……。
「ああ、まだ停車中だよ。なんでも、人間に化けた魔物がまだ見つからないんだと」
「その寝台列車は、何番に停車していますか?」
カイは、駅員さんに尋ねました。
「えーっと……確か一番ホームだったかな」
「ありがとうございます!」
わたしたちはお礼を言うと、一番ホームを目指して駆け出そうとしました。
しかし、駅員さんに止められます。
「ま…待て待て!君たちは寝台列車の切符を持っているのかね?」
え…?
「寝台列車に乗るには、切符が必要だよ?持っているなら、今すぐ見せてくれないかい?」
駅員さんに言われ、そこでわたしたちはようやく、切符を買っていないことに気づきました。
「その様子だと切符は無いみたいだね。残念だけど、寝台列車まで案内できないな。諦めな」
駅員さんはそう言うと、駅の奥へと去っていきました。
「マジかよ…」
落胆するハルク。
「すみません…もっと早くに気づくべきでした」
わたしも、みんなに謝りました。
「謝らないでください。まずは切符がまだあるか確認しましょうよ」
カイの言う通りです。
寝台列車の切符はまだ売っているはず…わたしたちは淡い期待を寄せつつ、窓口へ向かいました。
しかし…
「申し訳ございません。寝台列車の切符は全て売り切れてしまったんです」
窓口にいた女性が、申し訳なさそうに言いました。
「全部…ですか!?」
「ええ…。この寝台列車の切符は予約制でして、販売を開始して、わずか一時間で完売致しました。ちなみに…販売開始は三日前です」
そ…そんな。
切符が買えないんじゃ寝台列車にも乗れないし、女性にも会うことが出来ません。
「申し訳ないですが、またのご機会に…」
女性は、謝りながらお辞儀をします。
「キャンセルとかは無いんですか?」
諦めきれないのか、カオルが粘ります。
「今調べてみますね…」
女性はそう言うと、何やら機械を使って調べています。
一通り動作が終わると、女性が口を開きました。
「キャンセルも出ていませんね…」
そんな……。
完全に道が塞がれてしまいました。
これでは、先へ進めません。
カオルと同じく、諦めきれないわたしは…遂にあれを取り出すことにしました。
「すみません!わたし…こういう者なのですが…」
わたしはそう言いながら、女性にある物を差し出しました。
それは…ファレスティア王家の紋章が刻まれたネックレスです。
女性はネックレスに刻まれた紋章を見た途端に…
「え、えええええ!?」
驚きの声をあげました。
「お願いします!どうしても寝台列車に乗らなければならないのです!乗せてください!」
「し、しかしですね…もう満席なんです…!」
しばらくの間、こういうやり取りが続きました。
「フィーネ王女、もういいですよ」
見兼ねたのか、カイがそう言いました。
「で、ですが…!」
「考えてもみてください、切符が全て売り切れたというのに、引き下がらない方がダメです。女性をこれ以上困らせないためにも、ここは一度諦めましょうよ」
カイの言っていることが正しいです。
ここで懇願しても、ないものは無いのです。
「わかりました……」
わたしが渋々、諦めたその時でした。
「ハナさん…どうしたんですか?」
一人の女性が、窓口の女性に声をかけました。
「あ…!ティナさん!」
女性は、ティナと呼ばれた方を見て安心しています。
「何やら揉めていたようですけど…」
ティナと呼ばれた女性は、そう言いながら近づいてきました。
「それが…この方たちが、停車中の寝台列車に乗りたいと言っておりまして。切符が完売してしまった後だったので、後日来ていただこうかと」
ハナさんと呼ばれた方は、事情をティナさんに説明します。
「そうですか…そのような事が」
ティナさんはそう言うと、何やら考え込んでしまいました。
「ハナさん、わたしが泊まっている部屋が広すぎるので、この四人に使用許可を下さい」
まさかの発言に、わたしたちは驚きを隠せません。
「し、しかし…」
「わたしが泊まっている部屋は、確かスイートルームでしたよね?流石に一人では広すぎますから…」
ティナさんは、少し苦笑いしています。
「お、お待ちくださいね。駅長にお話ししますので…」
ハナさんはそう言うと、窓口から出ていってしまいました。
ここでわたしは、改めてティナさんを見つめてみました。
茶色のミディアムヘアーに、茶色い瞳……。
年齢は二十代後半でしょうか?
とにかく、わたしたちよりも年上の印象です。
それに…身なりが軽装ですが、騎士そのものです。
今まで出会った人たちが言っていた方で、どうやら間違いないようです。
それに、鞘にあるのは剣でしょうか?
とてもカッコイイ剣です。
わたしがティナさんを見つめていると、ハナさんが戻ってきました。
「ティナさん、駅長の特別許可が下りました。この四人の特別切符を発行いたしますので、お部屋にご案内してくださいね」
ハナさんはそう言うと、機械を操作して切符を発行していきます。
そして、それをティナさんに渡しました。
「はい。あなたたちの切符よ。駅員さんに必ず見せてね」
ティナさんはそう言いながら、わたしたちに切符を渡していきます。
「あ…ありがとう、ございます」
ティナさんから切符を受け取ったカイは、どこか緊張気味です。
「さあついておいで、部屋まで案内するわ」
こうしてわたしたちは、ティナさんの計らいで寝台列車に乗ることが出来ました。
ティナさんが部屋に案内するというので、ついていきます。
寝台列車の中は初めてで、わたしは思わず辺りを見渡してしまいました。
途中で出会った駅員さんに、特別切符を見せて、ティナさんが泊まっている部屋に入っていきます。
「うわあ……!!」
まるで、一流ホテルのような内装に、わたしは驚くどころか感激してしまいました。
「確かに広いですね」
「そうなのよ…。部屋が余りすぎても何かね…。でも、丁度よかったわ」
ティナさんは、カイとお話をしています。
「ところで…まだ自己紹介してなかったわね。はじめまして。私はティナ。理由あって放浪の騎士になっているの。あなた達は?」
「俺はハルクです。こっちが親友のカイで、カオル…一番端にいるのは、ファレスティア国の王女、フィーネ王女です」
ハルクは、ティナさんにわたしたちを紹介します。
「ファ…ファレスティアの王女様が、何でここに!?」
ティナさんは、わたしを見て驚いています。
それもそのはずです…町娘に扮してまで旅をしているのですから。
「実は…」
カイは、今までのいきさつをティナさんに説明しました。
一通り聞き終えたティナさんは、近くにあったソファーに腰掛けます。
「なるほどね…そういう事情があったの」
「はい…。俺たちは何としても、捕まってしまっている召喚騎士様たちを助けたいんです!」
カイは、真剣な眼差しで言いました。
「そうなの…。あ、みんな座ったら?遠慮することはないわ」
ティナさんの好意に、わたしたちは素直に応じました。
「ティナさんは?どうして放浪の旅を?」
カオルが、ティナさんに尋ねました。
実は言うと…わたしも気になっていたのです。ティナさんが、放浪の旅をしている理由が。
「わたしは…召喚戦争について調べているの。何故戦争が起きてしまったのか…理由を知りたくてね」
ティナさんはそう言うと、近くにあった机の引き出しから、たくさんの書類を出しました。
その書類には、考察や推理がびっしりと書かれていました。
「現在…私たちに伝わっているのは、魔王・マーラがフィラーバレーに現れ、破壊しまくっていたところへ、十人の召喚騎士が現れて終戦へと導いた……って事なんだけど、それだと…何故召喚戦争が起こったのか…全くわからないのよ」
ティナさんはそう言いながら、書類をわたしたちに見せてくれます。
「確かにそうだ…歴史書には必ず、戦争が起こった理由が書かれているのに、何故?」
ハルクは、ティナさんの書類を見ながら腕組みをしています。
「これはあくまでも私の憶測なんだけど…かつて召喚戦争に参戦した十人の召喚騎士様たちは、何かを隠したかったんじゃないかって思うの。じゃなければ、理由がわからないなんて事がないはずだから」
ティナさんの言うことはもっともです。
「でもね…いくら調べても理由が見つからないのよ。こうなったら、長老様たちに聞くしか…」
「長老様…?」
ティナさんが何気なく発した言葉に、カオルは小首を傾げます。
「ん?あぁ…長老様っていうのは、十人の召喚騎士様たちの故郷にいる、所謂村長とか町長とかの役割を担っている人の事よ。結構ご長寿なのよ」
「その人たちなら、召喚戦争が起こった理由を知っていると?」
ハルクが、ティナさんに尋ねました。
「そう思いたいんだけどね…召喚戦争について鮮明に覚えている長老様は、実はもういないのよ。現在いる長老様たちは、断片的にしか語れないの。でも、でもそれでもいいから、理由が知りたい」
そう言うティナさんの表情は、真剣そのものです。
わたしたちも、思わず聞き入ってしまいます。
「さてと……お腹空いてない?私はこれから、食堂車へ行こうと思うんだけど」
微笑んでそう言ったティナさんに、わたしたちは笑顔で頷きました。
食堂車はとても賑やかです。
とてもいい匂いがしています。
「お腹が空いたら、食べるが一番よ!」
ティナさんはそう言いながら、朝食を食べています。
ですが…量が多すぎませんか??
「ティナさんて…結構食べるんですか?」
ティナさんの食べっぷりに驚いたカイは、そう尋ねました。
「食べるわよ?騎士ってね、結構スタミナがいるんだから!」
ティナさんは、そう言うと再び食べ始めます。
「俺でもその量は無理だ…」
ハルクはというと、顔が引きつっています。
しばらくすると、微かな振動が伝わってきました。
どうやら、寝台列車が出発したようです。
「お!やっと出発したよ〜」
ティナさんは、今度はスープを飲み始めました。
「あ…ティナさん、その鞘には剣があるんですか?」
カイは、ティナさんが座っている椅子の近くにある、鞘を指さしながら言いました。
「そうだけど…」
「触ってもいいですか?」
ハルクがそう言って、鞘に手を伸ばそうとした時でした。
「アーサーに触らないで!」
ティナさんが、突然怒りました。
それより、アーサーとは??
「ご、ごめんなさい」
ティナさんの怒りに驚いたハルクは、驚きながらも謝りました。
「あ…私こそごめんなさいね?突然怒ったりして…」
ティナさんも、ハルクに謝りました。
「ティナさん…今アーサーと言いましたが、それって…」
「そう、この剣の名前よ」
ティナさんはカイに言われ、鞘から剣を引き抜きました。
色は黄色を基調としていて、装飾もあってとてもカッコイイです。
「持つ?」
ティナさんはそう言いながら、持つほうをカイに向けて差し出しました。
カイは何となく、アーサーという名の剣を握ってみました…すると…
「うわわわわ!!」
突然カイが、椅子から落ちてしまいました。
「カ…カイ!大丈夫か!?」
ハルクがそう言いながら椅子から降りて、カイを助けようとアーサーを持ちますが…。
「な、何だこれ!?重くて持てやしない!!」
「こ、こ、腰が抜けそう……」
どういうことでしょうか?
二人が、ティナさんの剣を持つことが出来ないなんて…。
「アーサー、腕試しはやめなさい」
ティナさんは、何故か呆れながら言いました。
しかし、ティナさんがそう言った途端に…
「あ、あれ?」
「急に軽くなった…」
さっきまで全く動かなかったカイとハルクが、アーサーを持ったまま立ち上がりました。
「ごめんね?私の剣・アーサーには意思があるのよ。だから、初めて会った人が触ろうとすると、すぐ自分で重さを変えてしまうの。だから触らないでって止めたんだけど、私を通じてでもダメだったか…」
意思を持つ剣…?
今まで聞いたことがありません。
「意思を持つ剣なんてあるんですか?」
カイは、ティナさんに尋ねました。
「あるわよ。現に私の剣・アーサーがそうなんだから。でも確か…十人の召喚騎士様たちが使用していた神器にも、意思があったって話ね」
え…?
神器??
「神器って何ですか?」
ハルクが、ティナさんに尋ねました。
「神器っていうのは、理想郷の名前が与えられた剣の事よ。かつての召喚騎士様たちが使っていた剣で、先祖代々受け継がれていくの。あ!先に言っておくけれど、私の剣・アーサーは神器じゃないからね?」
少し期待していたわたしは…すごく恥ずかしいです。
「へぇー…神器って、幾つあったんですか?」
「召喚騎士様たちと同じ数だけあったそうよ。あれ?確かその内のいくつかは……」
ティナさんが何か言いかけたところで、後ろの方から物凄い爆撃音が響き渡りました。
ガラスは飛び散り、食堂車の扉は衝撃のせいか無残にも破壊されてしまっています。
「何事だ!」
ハルクは、斧を手にして言いました。
「物凄い爆撃音だったな……」
カイも、臨戦態勢になっています。
するとティナさんが、無言のままカイからアーサーを受け取り、構え始めました。
「ティナさん?」
「フィーネ王女様、カイとハルクのうしろに隠れていてください!カオルもうしろに隠れて!絶対に動かないでね!」
ティナさんに言われ、わたしとカオルは素直に行動しました。
「いやーすげぇ破壊力だったなー…」
そう言いながら現れたのは……悪魔の王、サタンです。
「あれ?あれれ?何で誰も死んでいないんだ?計算ミスったかな~?」
な、何なんでしょうか?
とてつもなく軽い感じがします。
「エクスカリバー!!!」
突然ティナさんが、アーサーを持ったまま叫びました。
アーサーはティナさんの声に反応し、光線をサタンに向けて放ちました。
「うお!?」
しかしサタンは、あっさりと避けてしまいます。
「避けたか…」
ティナさんはそう言いながら、再びアーサーを持ち直して構えます。
「さっきの技…そうか、マーラ様の手下を瞬殺したのは貴様だったのか。召喚騎士でもないただの騎士の貴様が、何故俺に突っかかるんだ?」
サタンはそう言いながら、一瞬で消えてしまいました。
「なっ…消えただと!?」
この光景には、ハルクも驚きを隠せません。
「気をつけろ!どこから現れるかわからないぞ!」
カイも警戒しながら、召喚の準備をします。
「フィーネ王女!危ない!!」
ティナさんはそう叫びながら、わたしの前に立ち塞がりました。
「死ねい!!」
サタンは、わたしに向かって爪を振り下ろしましたが、前に立つティナさんに攻撃が当たりました。
「ティナさん!!」
至近距離からの攻撃なんて…重傷じゃ済まされません。
場合によっては、死に至ることだってあります。
しかし…サタンは高笑いすることが出来ませんでした。
何故なら…。
「どうしたの?お得意の高笑いはどこいったの?」
腕でサタンの爪を防御しながら、ティナさんは言いました。
「な、何だと!?貴様……何故平気でいられるのだ!!」
傷もなく血も流さないティナさんに、サタンは驚きを隠せません。
もちろん、その場にいるわたしたちでさえも、驚きを隠せませんでした。
「この程度?笑わせてくれる!」
ティナさんはそう言いながら、アーサーを振り下ろし、サタンを斬りつけます。
斬りつけられたサタンは、斬られた所を手で押さえながら後退していきます。
「貴様…只者ではないな?本当に騎士か?」
「私は放浪の騎士よ…お前たちが捜している人物ではない事は、確かなはずよ?」
サタンの言葉に、ティナさんはそう言いました。
「ふんっ!だが…この寝台列車に潜り込んでいるのは、俺だけではないぞ」
サタンは、不敵に笑いながら言いました。
「何ですって!?」
驚きの声を上げるティナさん。
「俺たちに刃を向けた報いを受けるがいい!はっはっはっはっはっはっ!!」
サタンは、高笑いしながら消えていきます。
「待て!サタン!!」
ティナさんが叫びますが、サタンは完全に消えてしまいました。
「くっ…あいつ、逃げ足だけは速いんだから!」
ティナさんはどこか悔しげにそう言うと、持っていたアーサーを鞘に入れます。
「みんな、手伝ってくれない?あの爆撃音があったのに寝台列車が停らないってことは、機関室や車両内に、サタンの手下たちがまだいるってことなの」
わたしたちに振り返りながら、ティナさんは言いました。
「もちろんです!お手伝いさせてください!」
「ふふふ。頼もしい王女様ですね」
気合を入れるわたしを見て、ティナさんはくすくすと笑っています。
「機関室の方は私に任せて!カイたちは一般車両の人たちの安全と、屯っているサタンの手下たちがいたら、討伐もお願い!」
ティナさんはそう言いながら、何故か窓を開けています。
「私は上から機関室を目指すから、カイたちは下からお願いね!」
ティナさんはそう言うと、窓から外へと身を乗り出し、寝台列車の上へと消えていきました。
「俺たちも行こう!」
カイの言葉にわたしたちは頷き、一般車両へ向かいます。
一般車両ではティナさんの読み通り、サタンの手下たちが屯していました。
わたしとカオルは泣き叫ぶ子どもたちを慰め、カイとハルクは、戦闘を始めていました。
車両内で戦うのは初めてなので、慣れない戦い方に苦戦している様子です。
しかも車両内は狭いので、カイは召喚が出来ません。
「ハードスラッシュ!!」
ハルクは、技を放ちながら叫びます。
「ぐわあああああ!!」
一体の手下が、崩れ落ちるようにして倒れます。
「ダメだ!埒が明かねえ!次から次へと湧いて出てきやがる!」
斧を振り下ろしながら、ハルクは叫びました。
「くそっ!数が多すぎるだろ!」
カイは、体術だけで手下たちを相手にしています。
このままではカイもハルクも、いずれ追い詰められてしまいます。
どうしたらいいのでしょうか?
何も出来ないわたしとカオルは、悔しさが込み上げてきました。
「兄ちゃん達!どけ!!」
すると…前から筋肉質な体をした男性たちがやって来ました。
「あ…あなたたちは?」
突然現れた援軍に、カイもハルクも驚いています。
「俺達は、機関室に近い車両にいた者だ。さっき窓から騎士が現れて俺達を解放してくれたのさ!それに…俺達は炭鉱で働く炭鉱マンだ!いい戦力になるぜ!」
男性はそう叫びながら、持っていたツルハシで攻撃を始めていきました。
この方に続けと言わんばかりに、次々と炭鉱で働く男性たちが加勢してくれました。
窓から現れた騎士……それはきっと、ティナさんに違いありません!
「ハルク!」
「ああ!形勢逆転だ!一気に攻めるぞ!!」
炭鉱で働く男性たちの加勢もあり、次々と手下たちを倒していくカイとハルク。
皆が息を切らす頃には、手下たちを倒すことが出来ました。
「よっしゃあああああ!!」
歓喜の叫びをあげる男性たち。
ハルクまでもが叫んでいるのは…言うまでもありませんね。
それより、ティナさんは大丈夫でしょうか?
たった一人で機関室の方へ向かったとはいえ、心配で仕方ありません。
「捕らえたぞ!もう逃げられないからな!」
男性たちが、縄でサタンの手下たちを縛りました。
「ティナさんは?」
辺りを見渡すカイ。
「まだですね…。待っていれば、きっと戻ってきますよ!」
そんなカイに、わたしは優しく声をかけました。
「そうですね……信じて待ちましょう」
わたしの言葉に、カイは頷きながら言いました。
しばらくして、ティナさんが戻ってきました。
わたしたちが無事だと知り、胸を撫で下ろしていました。
「機関室は無事に奪還出来たわ。ただ…この騒ぎがあった以上、ディープアクア駅ではなく、その一つ前のウル駅に停車しそうね」
ティナさんはそう言いながら鞘からアーサーを引き抜くと、縛られているサタンの手下たちに近づきます。
「何故この寝台列車を狙ったの?言いなさい!」
ティナさんは、アーサーの剣先を手下たちに近づけながら言います。
「ひっ……ひぃぃぃぃ!!い、言います!言いますから!!」
ティナさんの気迫に怖気づいたのか、手下の一人が暴れました。
そして、落ち着いたのか話し始めました。
「おいら達は…サタン様とミリア様に、この寝台列車に忍び込み、状況によっては暴れろと命令されていたのさ…。捕まった以上、もうおいらたちはおしまいだ…」
「ミリア……?どこかで聞いた事がある名だわ」
アーサーを鞘に入れながら、ティナさんが言いました。
「知っているんですか?」
カオルが、ティナさんに尋ねました。
「えぇ…マーラの手下の一人よ。サタンや、その娘・リリムやアザゼルと同じ幹部に位置しているの。私は会った事がないんだけれど…」
ティナさんはそう言うと、話してくれた手下の一人の前に屈み込みます。
「ねぇ、そのミリアって幹部は、どんな……」
ティナさんが言いかけたところで、寝台列車に突然無数のコウモリたちが現れました。
「コウモリ!?」
ハルクは驚き、再び斧を持ちます。
「捕まっちゃったの~?私の可愛い下僕たちよ」
どこからか女性の声がしたかと思っていたら、コウモリたちの中から、声の主が現れました。
「ミリア様!」
縛られている手下たちが、主を見て嬉しそうな声でそう言いました。
ミリア…この人がそうなんだ。
わたしは、悪魔を象徴する触角と尻尾、そして黒い翼を生やした金髪の女性を見つめます。
「まったく世話が焼ける子達ね~。迎えに来たわよ」
ミリアはそう言うと、縛られている手下たちに近づきます。
ですが、ティナさんの顔を見た途端に、にこやかに笑っていたミリアの表情が、突然鬼の形相に変わりました。
「貴様っ!まだあたしを狙っているのかい!?」
「は………??」
敵意むき出しのミリアと、何のことかさっぱりわからないティナさん。
「とぼけるな!!貴様には因縁があるのだ!この……この頬につけられた火傷の古傷がわからんか!!」
確かにミリアの左頬には、火傷と思われる古傷があります。
ですがティナさんはさっき、ミリアとは会っていないと言っていました。
これは、どういう事でしょうか…?
「何のことかさっぱりよ。火傷の古傷って何?それに…私とあなたは初対面のはずよ。人違いじゃなくて?」
勝手に敵意をむき出しにされたティナさんは、呆れています。
「な…に?あたしがわからんのかい!?」
ティナさんの言葉が信じられないのか、動揺するミリア。
「わからないもなにも…私はあなと会うのは初めてです。勝手に因縁つけないで」
ティナさんはそう言うと、再び鞘からアーサーを引き抜きました。
しかしミリアは、ティナさんのアーサーを見た途端にあのにこやかな表情に戻りました。
「悪かったね~。どうやらあたしの人違いだったようだね。謝るよ」
「わかったのならいいです」
ミリアの言葉に、ティナさんはアーサーを鞘に入れました。
「しかし…本当にそっくりだわ…あいつに。そっくりというか、瓜二つだわ」
ミリアはそう言いながら、まじまじとティナさんを見つめます。
「な、何よ?」
ミリアの顔があまりにも近いからか、ティナさんはたじろぎます。
「まぁいいわ。あたしはこの子達を迎えに来ただけだし、早急に退散させてもらうわ。寝台列車の件は失敗したと…マーラ様に報告しないといけないからね」
ミリアはそう言いながら、手下達を縛っている縄を持ちます。
「じゃあ~ね~!」
ミリアは手を振りながら、手下達と共に消えていきました。
「行っちまった…」
ハルクは、ミリアがいた所を見つめながら言いました。
「私のこの顔……一体いくつの因縁を作っているんだか」
ティナさんは、そう言って深いため息をつきました。
しばらくして、ティナさんが言っていた通り、寝台列車はディープアクア駅ではなく、一つ前のウル駅に停車しました。
あの様な出来事があった以上、運転の続行は不可能のようです。
寝台列車から降りたわたしたちは、ホームにあったベンチに座っています。
もちろん…ティナさんも一緒です。
「カイたちはこれからどうするの?私は、星見の渓谷へ向かおうと思うんだけど」
「俺たちは、別のルートでディープアクア駅まで行こうかと思っています。封印の刻を集めなければなりませんから」
「そう…」
ティナさんはカイの言葉にそう返事をすると、座っていたベンチから立ち上がりました。
「私が、カイたちが捜している人でなくてごめんなさいね。でも、何かあったら協力するわ!」
「本当ですか!?」
ティナさんの言葉に、ハルクは立ち上がりながら言いました。
「もちろんよ!」
ティナさんは、満面の笑みでそう言いました。
「やったー!!」
わたしはそう言いながら、カオルと抱き合います。
喜ぶわたしとカオルを見て、ティナさんはくすくすと笑っています。
しかし、何かに気付いて笑うのを止めてしまいました。
「カイ…ハルク、認証玉が光っているわよ?ジョブギルドには行った?」
ティナさんは、カイの胸元を指さしています。
「あれ…?本当だ!いつの間に!」
カイはそう言うと、胸元にあった綺麗な玉…認証玉を手に取ります。
「七色に光ってる…」
カオルは、珍しそうに認証玉を見つめています。
「七色に…という事は、新たな職業に就けるのね!ウルには大きなジョブギルドがあるから、案内するわ」
ティナさんはそう言うと、懐から地図を取り出します。
「今私たちがいるのは…ここ、ウル駅よ。そしてジョブギルドは…ここね!」
ティナさんはそう言いながら、指をさしてわたしたちに位置を教えてくれます。
「案外近いかもな」
地図を見ながら、ハルクが言いました。
「まずは改札を出ましょう!善は急げよ!」
そう言うティナさんのあとを、わたしたちは追っていきます。
ジョブギルド…ファレスティアにもありますが、そんなに大きくありません。
このウルにあるジョブギルドは、どれ位の広さなのでしょうか…??
わたしたちは、期待に胸をふくらませるのでした…。