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魔王が攻めてきたので戦ってきます  作者: 星空 棗
第一章「召喚騎士を捜して」
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第4話「敵か味方かわかりません」

「あれは…あなた達がここへ訪れる前のことだったわ」


ラファエル様はそう言うと、語り始めました。



〜前日の月夜の丘・頂上〜


『ツクヨミ様…誰かがこちらへ向かってきています』


あの時、誰かが頂上へ向かってくる気配を、確かに感じ取った。


『ホタルの子孫の気配にしては…随分とあやふやな気配ね…一体誰かしら?』


ツクヨミ様も、警戒心を強めていたのを覚えているわ。


暫くして…気配の持ち主が現れたわ。


『ツクヨミ様!良かった…会えた!』


ですが、丁度その時雲が濃くかかってしまい、顔や表情までは…最初は確認できなかったの。

唯一確認できたことは、軽装だけど身なりは騎士そのものだったこと、髪は茶髪ぐらいかしら。


『貴女は一体何者なのかしら…?わたくしに会えるのは、召喚騎士と星見の一族のみのはずですわ』


ここまで警戒心が強いツクヨミ様を見たのは、正直初めてだったと思う。

それに…自分も警戒していたからね。


『あ…今は話せません。言ったら大変なことになってしまうので』


『……?』


女性の言葉の意味は、全くわからなかった。


『素性も知れない女性に、話すことなどないわ。帰ってちょうだい』


ツクヨミ様が不機嫌だったことは覚えている。

その時女性は、信じがたい言葉を発したの。


『かつて貴女と共に戦ったミヤビ様…そのミヤビ様の子孫であるノゾミがマーラに捕まったと言ったら、貴女は驚きますか?』


『!?』


女性の発した言葉に、ツクヨミ様は驚いて女性を見つめた。

女性は凛とした表情で続ける。


『ツクヨミ様の今の表情……召喚騎士や星見の一族、

メインとサブ召喚しか知らない情報を、なぜ貴女が知っているの?……って感じですかね』


女性に図星を言われたのか、ツクヨミ様は押し黙ってしまったわ。


『さっきも言いましたが、わたしの正体については今は何も話せないのです。ですが、わたしがこの情報を言えば、わたしが何者かわかってくれると思い話しました』


わたしはその時、この女性がツクヨミ様をからかっているようにしか見えなかったの。

だから…くってかかったわ。


『貴女ね!さっきからツクヨミ様に対して失礼ではないの!?謝りなさいよ!』


『おやめなさいラファエル…。見っとも無いですわ』


しかしツクヨミ様は、怒ったわたしを制したの。


『ツクヨミ様!?しかし!』


『女性よ…貴女の正体は勘づきました。そういうことであれば、良いでしょう。わたくしの“封印の刻”を、貴女に預けます』


『ツクヨミ様!』


わたしは懸命にツクヨミ様を説得しようとしますが、ツクヨミ様はその度にわたしを制したの。


『ラファエル…わたくしが見る限り、この女性は敵ではありません。正体を明かせないのは…何やら理由があるようです』


ツクヨミ様はそう言うと、“封印の刻”を女性に渡した。


『ありがとうございます!これで…4つになりました』


4つ……ということは、不動明王たちには会った、という事よね。


『不動明王にはお会いしたのですね?』


ツクヨミ様が、女性に尋ねます。


『はい…。やはりツクヨミ様と同じく、かなり警戒されてしまいましたが』


女性はそう言うと、苦笑いした。


『彼は、煩悩(ぼんのう)にまみれた人間を嫌っていますからね』


ツクヨミ様も苦笑いしています。



月の光がより一層強まった頃、ツクヨミ様は何を思ったのか、物思いに更け始めました。

光り輝く月を見上げるツクヨミ様は…あの時はとても美しいものでした。


『月も貴女を歓迎していますね…。月が人間を歓迎することは、とても珍しいのですよ』


『ありがたいことです』


女性がそう言うと同時に、今まで空を覆っていた厚い雲が流れていきました。

次第に、表情がわからなかった女性の素顔が、わたしやツクヨミ様にも見えるようになった。


『え!?』


『まさか……こんなことが…!!』


わたしとツクヨミ様は、女性の顔を見て驚いてしまった。


『フレア……?』


『え?』


ツクヨミ様は、思わずフレア様の名を口にします。

しかし、女性は不思議そうにわたしたちを見つめる。


『あ、ごめんなさいね。あまりにも似ていたので、つい……』


ツクヨミ様は、苦笑いしながら女性に謝った。


『謝らないでください…いつもの事なので』


そう言う女性も、苦笑いしていたわ。


『似ているというか……フレア様に瓜二つだわ。まさか…この様な事が』


髪の色と瞳の色を除けば、外見はフレア様そのものだったの。

わたしもツクヨミ様も…フレア様のことはよく知っているから、より驚いてしまったのかも。


『さて…貴女はこれからどうするのですか?』


話題を変えるためか、ツクヨミ様が女性に尋ねます。


『そうですね…マーラの部下を退きつつ、ポセイドンに会いに行こうと思っています』


女性は、そう言いながら支度を始めた。


『一人で全ての“封印の刻”を集める気ですか?あまりにも酷では…?』


女性を心配して、わたしは声をかけます。


『それなら大丈夫です。わたしとは別に…“封印の刻”を集めている人たちがいます』


女性はそう言うどう、何故だか微笑みました。


『貴女とは別に……?』


『そうです。いずれはその人たちと、会ってみたいですね』


女性はそう言うと、荷物を持ちました。


『そうだ!ツクヨミ様!』


突然、女性は思い出したかの様に、ツクヨミ様に声をかけました。


『何でしょう?』


『近く…この光景を夢で見た、その別の人たちがここへやって来ると思いますので…その時は、わたしの話しをしてくださいね』


『わかりました』


女性の言葉に、頷くツクヨミ様。


『それから…わたしの顔を見たら、マーラは驚きますか?』


『驚くどころか、きっと怯えますわね』


ツクヨミ様が、苦笑いしながら言った。


『そうだと思いました』


女性はそう言うと、月夜の丘をあとにした…。





〜月夜の丘・現在〜


「わたしから話せることは以上よ。何か質問あるかしら?」


ラファエル様は、わたしたちに尋ねます。


「俺思ったんですけど…その女性はどうやってカイとフィーネ王女に、自分とツクヨミ様が会っている光景を見せていたんですか?」


ハルクの言うことはごもっともです。

普通の人間では、全く出来ない事なのですから。


「召喚騎士のランク、レジェンドには…自分が見ている光景を相手に見せる技、“リンク”というものがあります。おそらくその女性は、その“リンク”という技を使ったのでしょう」


ラファエル様は、真剣な眼差しで言いました。



そのような事が出来るとは…召喚騎士には驚かされます。

そして、あまりの力の差に言葉が出ません。


「現時点でわかっていることは、先にここを訪れたのは女性で、その女性はポセイドンに会いに行った…ってとこかしら。ただし、ポセイドンがいる深海の神殿は、その名の通り深海にありますので、常人では辿り着けません」


ラファエル様は、そう説明してくれました。


となれば一刻も早く、その女性を追いかけなければなりません。

そして、何故わたしたちと同じく“封印の刻”を集めているのか…理由を聞かなくてはなりません。


「もしその女性を追うというのではあれば、まずはルズウェルへ向かうといいでしょう。ポセイドンがいる深海の神殿はかなり距離があります。ルズウェルには列車が出ていますので、列車を乗り継いで神殿を目指してください」


ツクヨミ様は、わたしたちに次の行き先を提案してくれました。


「ツクヨミ様…ありがとうございます」


「わたくしは、当たり前の事をしたまでです。女性に会えるといいですね」


わたしがお礼を言うと、ツクヨミ様は微笑みながらそう言ってくれました。


「ラファエル、もう夜も遅いですし…宿まで送ってあげなさい」


「わかりました」


ツクヨミ様に言われ、ラファエル様がわたしたちの前に近づいてきました。


「皆さん、瞼を閉じてくださいね。一瞬で宿に着きますから」


わたしたちはラファエル様に言われるがまま、瞼を閉じました。


「我が力よ、その真なる光を解放せよ…!」


ラファエル様がそう言うと同時に、辺りを眩い光が照らした。



光が止んだと同時に瞼を開いてみると、わたしたちが泊まっていた部屋にいました。

ラファエル様は、転送魔法を使ったんだと思います。


「流石はツクヨミ様のそばにいるだけの事はありますね…」


わたしが辺りを見渡しながら言っていると、ハルクが近くのベッドに腰掛けます。


「ツクヨミ様の“封印の刻”を預かる事は出来なかったけれど…収穫はあったな」


「そうだな、俺たちと同じく“封印の刻”を集める謎の女性…その人の正体を突き止めないと」


ハルクとカイの言葉に、わたしとカオルは頷きました。


「もう寝ようか、明日はロベルト様の故郷であるルズウェルに向かうからな」


カイの言葉に賛同したわたしたちは、ベッドに潜り込んで寝てしまいました。



フレア様に瓜二つな女性…貴女は一体何者なんですか?

何故、わたしたちと同じく“封印の刻”を集めているのですか?

そして…正体を明かせないとはどういう事なのですか??


わたしは、届かない女性への質問を繰り返しながら、深い眠りについていきました。





その頃、一足先にルズウェルに着いていたあの謎の女性は、駅員と何やら話していた。


「え!?列車が…出ない!?どういう事よ!」


「で、ですから!魔王の手下たちが各路線の線路を塞いでしまっているため、安全が確認できるまで運行を見合わせているんです!」


女性の勢いに押されつつ、駅員は事情を説明する。


「マーラのやつ…!おばば様から聞いていたとおりの魔王みたいね」


歯ぎしりする女性。


「駅員さん、深海の神殿の最寄駅であるディープアクア駅は…どの路線ですか?」


「ディープアクア駅でしたら、この赤い路線になりますが」


女性の質問に、路線図を見せて説明する駅員さん。


「わたしが、その路線に(たむろ)している魔王の手下たちを倒したら、運転見合わせは解除してくれるんですか?」


女性のまさかの発言に、驚きを隠せない駅員さん。


「一人で相手する気かい!?無茶にも程があるよ!」


「わたしは、魔王の手下なんかに負けませんよ」


女性はそう言いながら微笑み、駅員さんに教えられた線路を歩いていく。

駅員さんは、女性を不安そうに見つめている。


女性は剣を鞘から抜くと、線路に屯している魔物を睨みながら口を開いた。


「そこの雑魚ども!今すぐ線路から立ち去れ!」


女性の声に、明らかに不機嫌になった魔王の部下達は、睨みをきかせながら近づいてくる。


「なんだ女!お前に指図される言われはない!」


魔物の集団のリーダー格と思しき一体の魔物が、女性に食ってかかってきた。


「マーラ様の命令で俺たちはここにいるんだ…お前が立ち去れ!」


だが女性は魔物の威勢に動じない。

その行動にさらに怒りを露わにした魔物が、女性に襲いかかってきた。


「ふざけるな!この下等生物が!!」


女性はこの時を待っていたのだろうか、持っていた剣を構えると口を開いた。


「我が剣アーサーよ!円卓の騎士の名の元に、その力を示せ!」


女性の言葉に反応するかのように、剣が突如眩い光を放ち出した。


「喰らえ!エクスカリバー!!」


女性がそう言うと同時に剣から光が放たれた。

真っ直ぐに放たれた光は、複数いた魔物たちをも包み込んだ。


魔物たちは悲鳴をあげることなく、その場から消え去った。

屯していた魔物たちがいなくなったことに、駅員さんは開いた口が塞がらない。


「これで、通れますよね?」


女性は、振り返りながらそう言った。

駅員さんは、ただただ頷くだけしか出来なかった。



暫くして、夜の駅に列車の汽笛が鳴り響いた。

ディープアクア駅へ向けて、列車は運行を再開した。


この列車はどうやら寝台列車の様で、女性は一つの客室にいた。

窓を開けた女性は、星が瞬く夜空を見上げる。


「みんな……無事だといいな」


女性はそう言いながら、夜風に髪をたなびかす。


この出来事を知るのは…一人の駅員さんと瞬く星と綺麗な月だけだった。

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