怪しい雲行き
大ネズミをアイテムボックスに収集する。けっこう大きく、不慣れなオレは少し手間取ってしまう。それでも、優しく身守るユカ。
やっと終わって、立ち上がると、金髪少女はこちらに数歩近づく。
「前に出て、庇ってくれたのね。かっこよかったわ」とオレの耳元でささやく。つい、耳が赤くなるのを感じる。
「そ、そんな! かわいい女の子を護るのは当然だよ!」
あっ、かわいいって言ってしまった。しかも、大声で。青春がオレにも来たのかぁ、なんて思っていると。
「でもね、私…… 実は秘密があるの……」 少女の告白。
「……」いきなりの事に、オレは返事も出来ず金髪少女を見つめる。
「私…… 本当は、ミジンコなんです……」
「……!」
「私は悪い魔法使いに呪いをかけられてしまって…… 人間の姿になってしまったミジンコなの」そこまで言うと、つぶらな青い瞳を大きく開けて、ユカはオレの反応を待つ。
「はぁ……!?」言っている事がまったくわからない。
「ぷっ…… くっくっくっ…… あはははっ!」
「なっ……」
「だまされた? ごめんなさい」 ユカは謝ると、金髪少女はいきなりオレにキスをする!
あまりにも唐突で、オレはめまぐるしく変わる状況についていけず、その場で固まる。
「ふふっ、あまりにも一生懸命、私の事をかわいいって言ってくれるから、ちょっとからかっちゃった」
ユカは、今さっきオレにキスしていた、ピンクの小さな舌をペロッと出す。
ザアアアアアアアアア!
そうこうしていると、空が急に黒く暗くなっていた。そして、轟音とともに、スコールが激しく降り注ぐ。大きな雨粒の猛打に、青春の香りは吹き飛ばされる。
まずいな、泥のマッドフラワーも湿気を好むファームラット。確かに、雨が降る前兆はあったのに、気持ちがうわついていて、気づかなかった。
「キャ!」 ユカはオレの手をまたもや握ると、「村に戻るわよ! 早く!」 と言って走りだす。オレももちろん、金髪少女の柔らかい手を握りかえして、一緒に猛ダッシュ。
ここを走るのは、二度目だな。
雲がさらに濃くなり、村への道も見えにくくなるほど、不自然なほどの豪雨と暗雲が立ち込める。なかば、目を閉じたまままっすぐに村に向かって進む。
まわりは何も見えない。視界が完全に遮られ。
「キャアアアア!」 ユカの悲鳴が豪雨の音をつんざく。握った手が強引に引っ張られ、引き離される。
ユカからは引き離されてしまったが、手をつないでいたおかげで、ユカがどっちへ連れていかれているのか、わかる。
オレはスコールの中、無理やり誘拐犯の方向に目を開く。 黒い人影がユカを掴み、持ち上げ、抱えるようにして金髪少女をさらうのが、やっと見える。
豪雨の中、大人の誘拐犯達の歩度は速く、なかなか追いつけない。必死に食いつくが、それどころか、距離が離されてしまう。
ずぶ濡れのオレはユカを追跡する。誘拐犯達の背中は遠ざかり、そして、すぐに、その姿は道の先の米粒。
途中、モンスターが現れ、オレは時間を惜しみ、モンスターから逃げて、逃げて、逃げながらユカの誘拐犯達を追って道を進む。
が、オレのスピードでは追いつけるはずもなく、ユカを見失ってしまった。
オレは呆然とその街道にただ、突っ立っていた。
気がついたら、雨は止んでいた。
矢久さん、ありがとうございます。「ちょっときいて」読んでます。魔王様(♀)が好きです……