出会い
「兄貴、しっかり!」 オレの肩に体重を預け、それでも必死に走る兄貴を支える。
「あ……ああ」
ブラックウルフとの戦闘中は、アドレナリンで感じなかった痛みが今になって襲って来ているのだろう。滲み出た血液で皮の鎧はベッタリと濡れている。
「兄貴!」
必死で兄貴を支えながら、出来るだけ速く走る。何時間もかかったような気がした、何度も狼犬が襲ってくるのだろうと覚悟を決めた。でも、頭で考えれば、ものの5分ほどだったに違いない。
そして、やっと、オレ達は美都の村にたどり着いた。
「ここは美都の村だよ、ぼうや。」村の柵を護衛している男が出迎える。
「兄貴が、兄貴が大変なんです!」オレは必死に訴える。
「う……うう」
兄貴は村へ無事到着できた事で安心したのか、意識を失ってしまった。
オレはまず、兄貴を宿に休ませ、ベッドに横にする。薬草を与え、体力を回復させる。そして、一晩。
朝には意識も戻り、だいぶん良くなったようだが、まだ体調が良くない様子の兄貴。
「ゴホゴホ。うっ」辛そうな兄貴。
「兄貴? 大丈夫?」
「ああ、おかげでかなり良くなった。だが、狼犬は毒を持っていたようだ。オレは猛毒に侵されている。」
「薬草じゃダメなんですか。」
「ああ。フォール、すまないが、毒消しを買って来てくれないか。ここに5ゴールドある。」
「わかったよ、兄貴!」 オレは急いで村の道具屋に向かった。
「すみません、すみません! 兄貴が毒に侵されてて。」 オレは駆け足で道具屋への道を聞き、小さな村で、すぐ店に着いた。
ところが、店には一組だけ先客がおり、オレも最初は待つ事にした。女性の二人組で、金髪の女性と、妹であろうか、若い少女、こちらも同じく金髪だ。
と言っても驚く事はない。この地方では、多くの人々が金髪であり、オレや兄貴のような黒髮の方が珍しいのだ。
なかなか終わらないなと会話に耳を澄ますと、話がこじれているのが聴こえる。
「もうちょっとくらい負けてくれてもいいでしょう?」 値切る金髪女。
「いやぁ、申し訳ないねぇ。うちもこれでギリギリなんだよ」道具屋も一歩も引かない。
「それが最後なんでしょう? どうせ売れ残りなんだからいいじゃないの?」
「それがこの田舎では、結構貴重な物であまり旅の商人も来ないんだよ」
そんな問答がいつまでも続く。
オレも痺れを切らし、ついに、「すみません! うちの兄貴が毒で大変なんです。 毒消しを先に売って貰えませんか!」 と割り込んだ。
それが毒消しを安く値切ろうとしている金髪女にとって、不利な事だとはオレは全く知らず。
「ちょっと、うるさいよ!」 怒鳴り散らし、オレの方を向いた金髪女。
金髪女の背は170cmくらいだろうか。胸を大きく開いたローブ姿で、オレに説教する為に前かがみになる。まだ、10歳のオレは、まだ、背が低い。
開かれた胸元から白く大きなメロンがたぷんたぷんしているのが、ちょうど目の前に来る。オレは一瞬、兄貴の事を忘れ、見入ってしまった。
「あ、す、すみません……」 オレは言葉を失った。