ブラックウルフ
「ガウウウ!」 大きな狼犬は、オレに向かって飛びかかろうとした……瞬間。
「そんなまね、させるか!」 兄貴が前に突撃していた!
鋭い爪が兄貴の皮の鎧に突き刺さる。
「喰らえ!」掛け声とともに、兄貴は狼犬を蹴り飛ばす。ブラックウルフの俊敏な動きからみて、ダメージにはなってないみたいだが、いったん間合いが取れる。
兄貴は狼犬を睨む。ブラックウルフも、兄貴の強さを認め、攻撃の標的をオレから兄貴に移した様子。
兄貴と狼犬。お互い、隙を探すような、睨み合いが続き…… いきなり、緊張で張り詰めた空気を破る咆哮と同時にブラックウルフが兄貴めがけて飛びかかった。
開かれた顎から、大きな白い牙が見て取れる。
「ガキン!」 狼犬の鋭い牙を兄貴の鋼の剣がはじき返す。オレだったら棍棒ごと食いちぎられてたに違いない。
兄貴はすぐに体勢を立て直し、着陸時に少しバランスを崩したブラックウルフの黒い毛皮に鋼の剣を突き立てた。
「ギャルルルル……!」
それでも、抵抗するブラックウルフに、兄貴は鋼の剣を塚まで突き刺し、グルっと剣を狼犬の中で回転させる。内臓がえぐられる音と、あばら骨に鋼がこすれる音。
そして、狼犬は息絶えた。
オレのレベルが5に上がった!
名前: フォール
レベル: 5
職業: 旅人
力: 5
防御力: 5
素早さ: 10
賢さ: 14
魔法: なし
装備: 棍棒、旅人の服
幸い、視界には今兄貴が倒したブラックウルフ一匹のみ。
「狼犬の仲間が近くにいるはずだ。走って村に入るぞ」兄貴は狼犬も慣れた流れ手つきでアイテムボックスに入れ、次の指示をテキパキと出す。
「うん!」
オレは兄貴について精一杯速く、走ったのだった。
村がはっきりと見えてきた時、異変に気づいた。オレの為にゆっくり目に走っているのかと思っていた、兄貴の様子がおかしい。
追いついて、となりから声をかける。 「バザック兄貴、もう少し速くても大丈夫です」
前を見て、集中して走る兄貴が辛そうに顔を歪めている。
よく見ると、皮の鎧に複数の穴があき、血がジワリと滲み出ている。傷口は黒く、普通の怪我ではない事は一目瞭然。
「あ、兄貴!」オレが声をあげると兄貴は呟いた。
「意識が飛びそうだ。もし、オレが倒れたら、先に村へいけ。助けを呼ぶんだ。いいな」
ハアハアと息を荒げながらそうオレに命令した兄貴の額には、汗がビッシリと浮かんでいた。
あと、村までは五百メートル。
「アウウウウ!」
「アウウウウ!!」
もう少しというところで、狼犬の鳴き声がまわりの丘から響き渡った。