迷惑なサプライズ
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ロイドは扉の前で待っていた。
ただ立っているだけなら誰も振り返りはしなかっただろう。
しかし、彼の額が何度もぶつけたようにいくつもの痣があった。不思議そうに彼の横を過ぎる者は見る。
ロイド自身、自分が見られているのに自覚はあった。そもそも、この痣たちは自分でつくったものだ。
ジンジンと額から感じる痛みがロイドの思考を麻痺させる。思考というより煩悩といった方が正しいだろうか?
ルティとのやり取りを思い出す度に、ルティが女だと理解するたび恥ずかしかが込み上げる。少しでもよこしまな考えしてしまう自分がいるということに嫌気がさしてくる。
「俺はそんなこと考えない。あれは間接キスではない。断じて違う。いつものことだ」
ダンッ!
我を取り戻そうと、頭を壁に叩きつけ、自分に言い聞かせる。
「ロ、ロイド殿!?何をやっているんですか!?血が少し出てきてますぞ!!」
扉から驚いたようにケインが出てきた。
「へんな音が聞こえると思ったら、血を流してるロイド殿がいるからビックリしましたよ。まだ、軽傷のようですが、シャルーナ殿のところにいきますか?」
「いや、いい。ダーラ男爵にようがあって来た。ルティのことについてだ」
そう、ロイドが立っているのはダーラの書斎の前。ルティについていてもたってもいられずに来てしまったのだ。
「しかし、話が長くなるので明日の方がいいかと……」
「ケイン、大丈夫だ。ロイドがいいと言うのならいれてやれ!」
扉の奥でダーラの声が聞こえる。
サッとケインは扉の前から身を引き、ロイドをダーラのところまで案内する。
「お忙しい中、申し訳ございません。どうしても、今お伺いしたかったので、参りました」
ロイドは片膝を付け頭を下げる。自分の都合に合わせてもらうのだから、せめてもの礼儀は尽くす。
「頭を上げろ。安心しろちゃんと話す」
普段はだらしない面もあるダーラだが、こういう時はとてもしっかりとしていて威厳を感じる。だが、若干顔に疲れた表情が見受けられる。
「ルティは男としてレイシオン学園に入学することになった」
開口一番、ダーラはロイドにとって信じ難いことを口にした。
「えっ、でも!ルティは女だったんですよ!?どうするんですか??」
「まあ、驚くのも仕方がないが、落ち着いて聞け。ケイン、詳しい事を含めロイドに説明してやれ」
「はい、わかりました。ロイド殿にこれを渡します」
ずっしりとした資料を渡され、ロイドはパラパラと目を通す。レイシオン学園の入学手続きや生徒証など昼に渡されたものとほぼ同じである。
「ルティ殿も同じものを渡されてますが、重要なのはもうすでに男として正式に登録してしまったことです。正式に登録した以上、退学または卒業するまで変更は不可能なのです」
「不可能って、普段の生活とかどうするんですか!?」
「それはバレないように上手くやってもらうしかありません。バレた場合は登録情報と違うということで、本人と認められず退学となってしまいます」
「だからと言ってルティの負担は大きくないですか!?何とか、女として入学できないんですか?というより、このまま入学してもいいんですか!??」
「もちろん負担は大きいと思います。ですが、それしか入学できる機会がないのです」
「それに……」間をおいてケインは神妙に重い口を開ける。
「これを確認した上で、ルティ殿は入学を望みました。ルティ殿がそこまでレイシオン学園にこだわる理由を一番近くにいたロイド殿がご存知なはずですよね?」
「っ……」
ロイドは黙る。確かに知っている。レイシオン学園にルティが行きたがっていたこと。
「あいつは、ルティは憲兵団に入りたいからです。でも、こんなところにいたら、最高でも騎士団が限界です。レイシオン学園は憲兵団を多く輩出してる名門校です」
昔からルティが憲兵団を目指していたのを知っている。キラキラとした瞳で夢を語っていたのを知っている。一緒に入ろうとルティは誘ってくれた。二人で憲兵になろうと約束した。ルティだけでも、ロイドだけでもない、二人の夢なのだ。
「ケインさん、ずるいですよ。そんな事言われたら俺はなんも言えませんよ」
そう、ロイドは認めるしかないのだ。ルティがそれを求めるならロイドはついていくしかない。
「すみません。でも、ルティ殿のためにもロイド殿の協力が必要不可欠なのです」
「……うむ。一通り納得というより、説得した感じだが、ルティが男として入学するということはひとまずこれで大丈夫か?次はこの状態でどう生活していくか話すぞ」
話しに一区切りがついたと見て、ダーラがパチンと指を弾いて注意を向けさせる。
「まず、最初に今回の件については本当に申し訳なかった。元はと言えばわしが資料を無くして引き起こした問題だ」
「いえ、そんなわざわざ頭を下げなくても大丈夫です。ダーラさんだけのせいではないです!」
「そう言ってもらえるだけでも安心した。それで、お前たちの生活についてだが、 男女混合の寮に入ってもらう。幸い、まだ寮の申し込みはまだだったからな。基本は二人部屋だが、ルティは特別に一人部屋にしてもらう予定だ。普段はそこで風呂とかは済ませてもらう」
ルティが一人部屋と聞いてロイドは胸をなでおろした。二人部屋でルティが他の人と暮らすなんて気が気でない。また、もし自分とルティが二人部屋をしろと言われたら色々な意味でロイドは耐えられなかっただろう。
「しかし、今のところ決まってるのはこれだけだ。教科やその他の事について学園で説明や決定していくそうだ」
これでいいか?とでも言うかのようにダーラは一息つける。
正直、ロイドはまだ気になることがあったが、ルティが女とわかって一日すら経ってないのに、ここまで準備や手配をしてくれたダーラとケインにこれ以上負担をかけたくはなかった。彼らの手腕には舌を巻きつつ、せめてこれだけは確認しなければと遠慮がちに聞く。
「最後に聞きたいんですが、何週間後にここをでるんですか??」
行けるかどうかわからないが準備だけはしとけ。と、前々から言われていたから早くて一週間後だろうか?
正式に入学が決まった報告を受けたのは今日だったから、資料も送られてるし日程もわかるはずだ。
それまでには仲間との別れの挨拶もあるし、ルティの問題もなんとかしたい。
しかし、なぜだろうか?
返ってくる答えはなく、沈黙が彼らの間を流れる。
若干嫌な感じをしながらももう一度ロイドは問う。
「な、何週間後にここをでるんですか?」
「………………」
「………………」
きまづそうにダーラとケインは目をそらす。
「え、えーと、何週間後にここをでるんですか?」
「……………………………………明後日だ」
「いやいやいやいや!!!それは無理があります!急ですよ!!!!」
ぼそりとダーラはつぶやいたが、ロイドは聞き逃さなかった。
前言撤回、彼らに感謝と敬意を払おうとしたがやってたまるか。通りで必死に準備をしてくれたわけだ。そもそも時間が無さ過ぎたのだ。
「なんで、もっと早く伝えてくれなかったんですか??!」
「ギリギリまでサプライズは残して置こうかな〜って思って」
そんなサプライズは甚だ迷惑だ。何故だろうか?頭がクラクラしてきた。
「ルティは知ってるんですか!??」
「シャルーナが今ごろ伝えてるはずだ」
「まじで明後日ですか……?」
「ああ」
確かに荷物などは片してあり、可能と言えば可能だが、気持ちの問題である。ロイドとしては長年の間、共に時間を共有した友人たちや後輩たちに伝えたいことがあった。知らない地で暮らす心構えもしたかった。
はぁ。ため息をつき、どうにか頭を冷やす。
「出発日を遅くすることはできないんですよね?」
「残念だか、できないな」
「………わかりました。考える時間が欲しいんで、今日はこれで帰ります」
混乱したままの状態をとりあえずどうにかしたかった。現状を冷静に整理したかった。
ダーラとケインに礼を言って、ひとまず部屋を後にする。
今日はよく寝れなさそうだ。
憂鬱な気持ちでロイドは残りの時間を過ごした。
今回はこれからのストーリーについての説明みたいな感じだったので、あんまり進展はありませんでした。これからちまちまと進めていきます!