悪女の刺客
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「ルティ、何度も言うが、もうこれ以上目立つようなことをするな」
ルティとロイドは向かい合い、作戦会議という名の言い争いが始まっていた。
場所はルティの部屋。周りに聞かれるわけにもいかないので、二人部屋であるロイドより一人部屋であるルティの部屋が選ばれるのは必然であった。
「なんで、大人しくしなくちゃいけないのさ」
「はあ!?何言ってんだ?目立ったら女ってバレる危険性があるだろーが!バレたらおまえはここにはいられなくなるんだぞ!」
「でも、そういうリスクを恐れてたら何もできないよ。ロイド、僕たちの夢は何?」
「俺たちの夢は憲兵団の騎士になること」
「そう、僕たちの夢は憲兵団。そのためにはここで実力をつけないといけない」
「じゃあ、なおさら女ってバレるわけにいかないだろ」
「でも、ただ真面目にやってても、なれるものかな?」
「どういうことだ?」
「ただ強いのと、目立って強いのだと、目立つ方がいい」
「目立たない方がいいじゃないのか?」
「目立った方が自然と地位の高い人の目にとまる。先生、貴族、そして皇族であるフィニス先輩にも」
実際、入学式の表舞台で騒ぎを起こしたルティは大勢の生徒から視線を集めるようになった。その中には莫大な権力を持つ者もいる。
「確かにリスクはあるけれど、そういう人たちの前で実力を証明できたら大きな助けにもなる」
「な、なるほど」
ルティの考えにも一理あるとロイドも同意を示す。
度々、ルティとロイドの間で言い争いが起きるが、毎度すぐに収束する。というのも、口が達者なルティが上手く説得してロイドを丸め込むからだ。
「それだけじゃない」
人差し指をピンと伸ばし、にたりと笑いながらルティは続ける。
「目立った方が強い奴とも戦える可能性が増える」
ピクリとロイドは動く。
ロイドにとってそれは魅力的な理由だった。戦闘狂とまではいかないが、ロイドは戦士として純粋に強者との戦いを望む。
「目をつけられるのは面倒だけど、そのおかげで今日はユーロンと戦うことができた」
高みを目指す者にとって強い者と戦いたいという願望は一種の衝動のようなものだ。
「初めてあんな剣の使い方を知ったよ。フィリアン騎士団では見たことのない型だった」
「羨ましいぞ、ルティ……!」
「でしょ!だから目立つ方がいいんだよ!」
先ほどのルティとユーロンの戦いを見せつけられて何も感じないわけがない。
強い奴と戦いたい。
ルティの話術に踊らされ、ロイドの頭は戦闘欲で満たされている。
それは、ルティの主張を同意するわけであって、
「それなら目立ってしまうのも仕方がないな…」
「でしょ〜!」
「だけど、本当にバレないように気をつけろよな!」
「分かってるって〜」
結局、今回の言い争いもルティの勝ち。そもそも、ロイドはすぐに説得されるので、言い争いと呼ぶかどうかも疑わしいところだが。
そうして話しがひと段落ついた時、タイミング良くこんこんと誰かがドアを叩いた。
「ん〜?誰だろ?」
「ルティの部屋の近所の奴らだろ、どうせ。セレナ・レインか、ユーロン・アレクシアのどちらかじゃないのか」
「それならセレナだといいな〜」
「俺はどちらも勘弁だ…」
しかし、ルティがドアを開けた先に立っていたのはそのどちらでもなかった。
「あら、あなたがルティちゃんね!」
「えっ〜と、お嬢ちゃん道に迷ったのかな?僕でよければ一緒にお母さん探してあげるよ?」
幼い少女である。
栗色のふんわりとしたボブ、瞳も髪と同じ栗色。そして、きわめつけは頭についた大きな赤いリボン。
レイシオン学園に通う生徒は今年で十五歳以上になる少年少女しか基本入学はできない。
では、この少女は学園に迷い込んだ学園関係者の妹が娘か何かだろうか?
だが、ルティの対応に少女はぷくっと頬を膨らませ、怒りの感情を示す。
「年上に対して失礼ね!あたしはリリアンナ・マロン!三年生よ!」
無い胸を張って、自信ありげにリリアンナは自分の名を言う。
リボンに目がいってしまってたが、確かによく見るとレイシオン学園の指定の紅い校服を着ている。
三年生というのは信じ難いが、ここの生徒というのは本当だろう。
そして、周りに誰をいないのを確認してからこっそりとルティに耳打ちした。
「それに、あたしはルティちゃんが女の子っていうのも知っているのよ」
「!!!?」
バレた。
つい先ほどロイドにバレないように気をつけろと言われたばかりなのに、数分経たぬうちに見知らぬ先輩に女だと指摘された。
これは、まずい。
バタンと勢いよくドアを閉め、リリアンナを強引に部屋に入れる。
「どうしたルティ?って、なんだそのチビ?」
「チビって失礼わね!あたしは三年生よ!」
「はぁ!?」
「というより、ロイドちゃん!女の子の部屋なんだから勝手に漁っちゃだめよ!紳士としてあるまじき行為よ!」
「紅茶を淹れるティーカップを探していただけだ!というか、何で俺の名前を知ってる?………ん?待て、今、女の子の部屋って言って……」
ロイドの顔がルティと同じように蒼白になっていく。
流石にルティとロイドの動揺に気がついたのか、リリアンナは二人の反応を笑う。
「二人とも何か勘違いしていない?あたしはあなた達の協力者よ」
「「えっ?」」
「……どうやらあたしについて何も聞かされていてなかったのね。まったくあの人は……」
自分のことを知っていると思っていたリリアンナはそうでは無いと確認し、誰かに対しため息をつく。
「じゃあ、あらためて自己紹介させてもらうね!あたしはリリアンナ・マロン。こう見えても三年生、今年十七歳になるわ!専門は医療魔法!」
ハキハキと元気な声でリリアンナは自己紹介を始める。
「元はレイン帝国の平民だったけど、崩壊後はフレアローズ王国にいた親戚に引き取られてマロン家の養子になったわ!甘いお菓子も好きだけど、それ以上に辛いものが好き!」
一通り話し終えた後、最後にルティ達がよく知る人物の名前を出した。
「そして、あたしに医療魔法を教えてくれたのはシャルーナ。あたしはシャルーナの弟子よ!」
初耳である。
シャルーナに弟子がいたことも、ダレン以外にルティの秘密を知る者がいたことも聞いていない。
シャルーナがそんな大切なことを言い忘れるような人物ではない。
では、何故言わなかったのか?
理由は簡単だ。面白そうだから。
シャルーナはそういう女だ。
ルティ、ロイドは、つい先ほどの慌てふためいていた自分達を楽しそうに見て笑うシャルーナの姿を容易に想像できた。
オホホと今頃笑っているだろうシャルーナに怒りをぶつけつつ、意識をリリアンナに戻す。
「えっと、じゃあ、リリアンナ先輩は僕たちをサポートするためにここ来たってことですよね」
「そうよ!大体のことは手紙でシャルーナから聞いているわ。言っておくけど、ルティちゃんが女だってことを知っているのはあたしとダレン先生だけよ」
「ん?ダレン先生もリリアンナ先輩と僕たちの関係を知ってるの?」
「ルティちゃん達が来るちょっと前にそのことについてお互い話したから知ってるはずよ」
「マジかよ。俺たちそんなのダレン先生から聞いてなかったぞ」
「あー、たぶんあの先生は言い忘れてただけだと思うわ。だいぶ適当な人だから……。
まあ、きっとダレン先生はちゃんと説明していないことが多いと思うから、そういうのも含めてあたしはあなた達をサポートするわ!お姉さんに任せなさい!」
「ありがとうございます……!」
「何で、ロイド涙目になってるのさ?」
ロイドは感動した。初めてこの学園に来てまともな人に会えた気がする。
秘密を隠さなければいけないのにトラブルばかり引き起こす相棒。ろくに教えずほぼ丸投げの適当教師。ただの先輩だと思ってたら国の皇子。なんだかきまづいルームメイト。やたら相棒に絡んでくる高慢女とうるさいチビ。
だが、目の前の彼女はどうであろうか?
一目見たらひどく幼く見えるが、年齢の割にその大きなリボンはどうかと思ってしまうが、中身はちゃんとした先輩である。フィニスのように実は皇子でしたなんてこともなさそうである。
まともに会話が成立しそうだ。
「いや、最初はなんだこのガキって思ってたけど、すごく頼れる先輩だと分かったらつい…」
「あら、嬉しい!でも、ロイドちゃん、今回は許すけど……」
瞬間、ロイドの目の前からリリアンナが消え、首元にひやりと冷たい何かが当てられているのを感じた。
「次、あたしにチビとか、ガキとか言ったらその首スパッと裂いちゃうからね、クソガキが」
背筋が凍った。
前言撤回。彼女もまともな人ではない。
「わ、わかりました。リリアンナ先輩」
「はい、よろしい」
リリアンナはロイドの首に当てていた小型ナイフをポケットにしまい込んだ。
ニコニコ笑っているが、彼女の笑顔の裏にはどす黒い何かを感じた。
たぶん、学園であった人達の中で彼女だけは敵に回してはいけない気がした。社会的にも消される。
ぶらりと肩を震わせ、ロイドはこれから下手な発言は控えようと決意した。
「そもそも、シャルーナの弟子っていう時点でまともな人なわけないじゃん」
リリアンナに聞こえないくらいこっそり呟いたルティの言葉に納得してしまった。
そうだ、リリアンナはあの性悪女の弟子だ。今までシャルーナにやられてきた“面白いこと”を思い出して頭を抱える。
この学園は本当にまともな人がいるのだろうか?
これからの学園生活により一層の不安を覚え、深いため息をロイドはついた。
ご精読ありがとうございます。