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ようこそレイシオン学園へ

 


 街一つ分ほどの広大な敷地。

 視界を彩る新緑の木々と淡い色の花々。

 赤レンガで造らた壮麗な校舎。

 道を行き交うは志を持った学徒達。

 武芸、魔術技芸、魔術工芸を網羅した有数の学び場。



 そう、ここは少年、少女が夢見る学問の園

 ーーーレイシオン学園。




 そして、レイシオン学園と外を繋ぐ数少ない出入り口、大正門に影が二つ。

 胸元には不死鳥のエンブレムが刺繍された深紅のブレザーを羽織り、灰色のズボンを履いている少年が二人。

 いや、正確には少年と男装をした少女といった方が正しいだろう。


「うわぁ……すっごい。これ全部学園の敷地なんだよね……」

「こ、これほどとは……。訓練場の何個分だ??」


 田舎者である二人にとって、この広大な土地は圧倒するのには十分であった。

 今まで自分の育った村と、フィリアン騎士団の土地しか知らなかったルティとロイドはそれぞれに感想を口にした。


「アッハッハ!!ニイちゃん達、感動しすぎたよ!こんなんでビビってちゃあ、中に入ったら身がもたないぜ!」

 道中ずっと馬を使いこなし、馬車を引いていたガタイの良い男性が声をあげて笑う。


「そういえば、ここまで僕達を運んでくださりありがとうございました!」

「いいって、いいって!ニイちゃん達はフィリアン騎士団の期待の星なんだろ?おれの村もフィリアン騎士団にはお世話になってんだ。役に立てて嬉しいくらいよ!」

「それを聞けて良かったです。とりあえず、俺達は荷物を持ってこの門に入ればいいんですよね?」

「そうなんだが、確か、ニイちゃん達を案内してくれる人がいるらしいんだが……」


 その時だ。

 ヒュン!

 風を切る音が響いたと思ったら、火をまとった小石が二つ、弾丸のようにルティとロイドを襲ってきた。


 二人の行動は早かった。

 ロイドは懐に備えていた小刀で石を一刀両断。

 ルティは道に落ちていた同じくらいの大きさの石を投げ、石を弾き返した。


 だけど、それだけでは“彼”には敵わなかった。

「お〜お〜、二人ともよくかわしたな!でも、ざんねーん、後ろがガラ空きだ!」

 突如現れた彼は右手、左手とそれぞれルティとロイドの頭に後ろからコツンと叩く。

「いつの間に!?」

 ルティが驚愕をあらわにし、思わず後ろを振り返る。するのその瞬間、トンッと今度はデコピンをお見舞いされた。

 突然とはいえ、二回も敵の攻撃を受けてしまったことにルティは動揺し、悔しくて顔を赤らめた。

 ルティの目の前にいる男は、それを見て、満足そうに笑みをこぼす。


 男は高身長な上、オールバックした黒髪、目つきの悪い黒色の瞳。見るからに人を寄せつかなさそうな危険な風貌をしている。

 しかし、彼が浮かべる笑みは少年のような快活な笑いで、人懐っこさを感じさせる。


「いいね〜。驚いてる、驚いてる。あっ、そいや、馬車のにいちゃん、こいつら運んでくれてありがとうございました!お勤めご苦労様で〜す」

「あ、ああ。じゃあ、おれはお邪魔そうだから、これで失礼するよ」

 そそくさと馬車を引いて帰ってしまうのをルティ、ロイド、謎の男で見送った後、男が満面の笑みでルティとロイドに向かって振り返った。


「じゃあ、二人ともこれからよろしくな!」

「ちょっと待ってください。何がよろしくなんですか?色々飛ばし過ぎて俺らよくわかってないんですけど……とりあえず、あなたは学校関係者ですよね?」

「うわ〜!!おまえ、絶対ロイドだよな!?このくっそ真面目な感じがなんか懐かしいな〜!」

「話しきいてます?てか、え?懐かしい……?」


 突然のよろしく発言にも戸惑うが、それ以上に目の前の男がどうやらロイドに会ったことがあるかのようなそぶりに、思わず反応する。


「いや、おまえに会うのは初めてだ。だけど、おまえの知り合いとは昔からの仲なんだよ」

 良かった。今度はちゃんと会話が成立した。

 初めてロイドの問いの答えが返ってきたので、胸をなでおろし、話を続ける。

「知り合いって……?あなたはいったい……?」

 その質問を待ってましたとばかりに男は得意げに笑う。


「そういや、自己紹介まだだったな。俺はレイシオン学園の武学専門教師であり、おまえらの事情を知る唯一の教師、ダレン・リックスだ!」


「え?こいつがダーラさんが言ってた知り合いの先生?僕、こいつにサポートしてもらうのすっごく不安なんだけど……」

「それは、俺も同意見だ……。ってことは、ダレン先生の知り合いはダーラさんですか?」


 ルティ、ロイドの厳しい評価に全くもって傷ついている様子ではないが、ダレンはわざとらしくため息をつく。


「これから大変お世話になる偉大な先生に対してその態度はショックだなぁ。先生傷ついちゃう!

 とまぁ、冗談はさておき。確かにダーラ男爵とは紙面上での知り合いだ。だけど、俺が指す知り合いってのは、ロイド、おまえの親父、ロクサーム・クロスのことだよ」

 予想だにしなかった知り合い、父の名前にロイドは目を見開き、問い詰める。


「父さんを!?いつ!?どこで!?今どこにいるのか知ってるんですか!!?」

「落ち着けって〜。残念だが、俺は今、ロクサームがどこにいるのか知らない。あいつとは、この学園の学生の時からの仲なんだ。それに、ずっと昔、あいつから自分の息子がこの学園に来たらよろしく頼むって言われてんだ」


 知らない。その言葉を聞いて、ロイドは肩を下ろす。

 そんなロイドを見てなのか、ダレンはバン!とロイドの背中を叩く。

「そんな、落ち込むな!にしても、ロイド。おまえほんっとうにロクサームに似てきたな。いや〜まさか、友人の息子を見るとはあの時は思わなかったな〜」

 それに……。ダレンは言葉を繋いでルティを見る。

「まさか、それ以外にもこんな厄介なオマケがつくとは思わなかったな〜」

「それって、僕のこといってますかー?」

 ジト目でルティはダレンを睨みつける。


 どうやらダレンの話を聞くと、元々、ロイドは父のお願いもあってここに入学する予定だったのだろう。

 しかし、ダーラはロイドとルティの実力を見込み、二人とも入学させ、ダレンに面倒を見てもらう手はずにしたらしい。

 だが、ダーラにもダレンにとっても予想外だったのはルティが女だったということだ。


 物珍しい目でダレンはルティを見ていたが、ふと何かに気づいたような、でも、信じられないといった顔で独り言をこぼした。


「まさか……ティアナ……!?」

「は?何言ってんの?僕はルティ。正式名はルーティミリアン・ハルツォーネだよ」

「だ、だよな!すまん、今のは忘れてくれ」

「その代わり、後でここの名物の甘菓子買って。偉大な先生だからそれくらいいいよね?」

「おまえほど末恐ろしいガキを、俺は見たことがない」

「褒め言葉として受け止めておくね」


 たぶん先ほどの奇襲とデコピンに根を持っていたのだろう。ルティはダレンに一泡吹かせたことと、甘菓子という謝礼がもらえることに頰を綻ばせる。



「まあ、他にも話したいことは数え切れないくらいあるが、ひとまず置いといて……

 ようこそ、フレアローズ最大で最古の名門あるレイシオン学園へ。

 ロイド・クロス、ルーティミリアン・ハルツォーネ、君たちの可能性ある学びがここにあることを願おう」



 ダレンの後ろに立ちそびえていた大正門は厳かな音を立て開き始める。


 彼は先に1人、門の奥へ一歩だけ入り、ルティとロイドを見つめる。


 最初の一歩は自分で。そう言いたいのだろう。


「ロイド」

「なんだ?」

「これからが僕達の武勇伝の始まりだよ」

「おまえらしいな。うんそうだな、じゃあーーー」

 


「「これからもよろしく、相棒」」



 ルティとロイドはお互いの握りこぶしをコツンと当て、そして、レイシオン学園の最初の一歩を踏み出した。


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