行ってきます
今回は短めです。
「ガハハハハッ!!!」
天気は晴天。強い風もなく、雨もない。
聞こえるのは鳥の小さなさえずりだけ。
だからこそより一層、野太い男の声が響き渡る。
笑い声の主、ダーラは馬車の上で腹を抱えていた。
そんな彼に笑われた二人は荒い呼吸をあげ、疲れ切った顔をしていた。
「す、すみません、ダーラさん。俺達、遅れてしまって……」
最初に顔を上げ、口を開いたのはロイドだった。彼の額は真っ赤に腫れ上がって、見ているだけで痛々しい。
「いや、気にするな。こんなちょこっと遅れただけでは問題にもならん。むしろ、遅れた理由が練習して気絶したとは、ある意味あっぱれだな」
「あっぱれじゃないですー!散々でしたよ!!」
ルティが涙目になって反論する。相当痛かったのだろう。
しかし、ロイド、ルティの赤く腫れた、何とも陳腐な顔を見て、ダーラは堪えきれずまた笑う。
「でも、笑い事で済んで良かったわよ!昨日あんなことがあったから、誘拐されたのかと思ってヒヤヒヤしたわよ!!」
シャルーナは眉間に皺を寄せ、小言を吐く。
「で、その様子だと。行く覚悟はあるようね」
「もちろん。僕らは憲兵団に入るためなら、こんな覚悟は当たり前だよ」
「俺もこいつにだけは置いてかれたくないしな」
そう応えるルティとロイドを満足気に見て、シャルーナは後ろを振り返る。
「あと、最後に彼らからの贈り物があるらしいわよ?」
シャルーナの後ろには今まで共に訓練し、励みあった仲間がいた。
「がんばってこいよー!」
「フィリアン騎士団訓練生の力を見せつけてやれ!」
「次、戻ってくるときは憲兵団になってろよ!」
それぞれがそれぞれの思いを口にする。
その一つ一つが応援として二人の記憶に刻まれていく。
「ルティ!ロイド!」
そんな群衆の中を掻き分け、一人、一歩前にでた。
トールだ。
「昨日は助けてくれてありがとな!まじでかっこよかった!オレも強くなりたいって思った!だから、オレもレイシオン学園入学を目指すよ!」
そう、高らかに宣言する。
「実力が認められれば入学できるんだろ!?だから、まってろよ!来年になったらオレもおまえらんとこ行くからな!」
「いうねぇ〜、トール。じゃあ、僕は先輩として待ってるよ」
「おう、強くなった姿を見るのを楽しみにしてる」
送られる側はニヤリと笑みを浮かべ、応える。
そして、ルティ、トールはあらためて姿勢を正し、五年間お世話になったこの土地に別れを告げる。
「「今まで、ありがとうございました!
行ってきます!」」
ルーティミリアン・ハルツォーネ、ロイド・クロス。
冒険はまだ始まったばかり。彼らはまだ旅の途中。
二人は思い入れの土地を離れ、未開の地へと足を踏み出した。
これにて訓練生編終了です。
次からは学園生編です!