ルティという名の少年
初投稿です!温かい目で読んでください!
「ルティー!」
そう呼ばれ、十四、五歳くらいの子供が振り返った。
風が揺れ、木々が波打ち木漏れ日がその子供の顔を照らす。
日にあたり、肩に少しかかりそうなくらいのハニーイエローの髪はより一層明るさ増し、二重の大きく開かれたエメラルドのような美しい緑色の瞳はキラリと宝石のように光る。まだ、幼さが抜けきってない可愛らしさが残る童顔。だが、振り返るその横顔は妙な大人びた落ち着いた印象を与える。
剣を持ち、スラッと立つ姿はまさに絵本にでてくる王子そのもの。
そう、その光景は美しい絵本の一ページのよう。
「なんだ、ロイド。どうしたの?」
ルティと呼ばれたその麗しい子供は鈴のような可愛らしい声で返事する。
ここはフィリアン男爵が創設したフィリアン騎士団の領地。そして、このルティという子供はフィリアン騎士団の騎士の卵を育てるフィリアン騎士団育成所に通っている。基本騎士になるには貴族や裕福な商人の子供でないとなれないのだが、ここは地方の農民や市民を騎士へと育成するごく稀な所。
そして、ルティの名を呼んだロイドという子供もまたルティの同期として共に五年前、フィリアン騎士団育成所に入団した。
年はルティと同じ一四歳。
しかし、外見はあまりにも一四歳に相応しくない風貌をしている。
「どうしたのこうしたのない。稽古の時間に決まってるだろ」
目つきも悪く、眉間にしわを寄せぶっきらぼうに話す姿はどこぞのゴロツキ。
紺色の髪に、紺色の瞳と明るい色ではなく暗い色なので、より一層を厳つさに拍車をかける。
また、身長を成人男性顔負けの高さ。
上から見下ろしてくるその姿は恐ろしいの一言。
しかし、ルティは臆することなく反論する。
「フィリアン男爵から聞いてないの?僕達二人、今日は用事があるって言われたじゃん」
「でも、時間までまだあるだろ?それまで稽古の相手してほしいんだ」
五年も一緒にいるとロイドの外見に恐れを抱かないのだろう。楽しげに会話する。
「ったく、しょうがないな。じゃあ、勝ったら今日のデザートちょうだいねっ!」
タタタッと返事を聞かずルティは稽古場に軽やかに走っていく。
「あぁっ!?くそっ、勝手に決めやがった」
負けじとロイドもルティの後を追う。
ロイドは持ち前の足の長さと、運動能力ですぐルティに追いつき、稽古場に着いたときは二人同時だった。
どうだと言わんばかりの顔で見下ろしてくるロイドに対し若干の不満を抱きつつ二人は中に入る。
「失礼します!しばらくの間ですが、ご指導お願いします!」
ロイドの声が響き渡る。稽古場にいた他の子供達が振り返り、奥から師が出て来る。
「おお〜ロイドとルティ達か用事があるって聞いたけど、感心だな」
「そーなんですよ!ドーラ師匠!あと、僕が勝てばロイドがデザートくれるって言ってくれたんですよ!感動ですよねっ!」
「このやろう、師匠にまで言いやがって……!」
ドーラと呼ばれた筋肉質の大男は大笑いし、ロイドの背中を叩く。
「じゃあ、一戦でちょうどいい時間だろ。他の奴らもいい勉強になるんだから、見てろよー」
ロイドとルティは向かい合わせになって木刀を握る。同期を含め年上やまだ幼い子供達が見る中では緊張するはずだろう。だが、二人にとっては日常茶飯事のこと。
ーーーシン。向かい合う二人の間に一瞬の静寂が訪れる。
「始め!」
ドーラの合図と同時に木刀の叩きつけ合う音がなる。
すばしっこく身体を動かしあらゆる角度から攻撃してくるルティに対し、俊敏な手の動きと力でロイドはねじ伏せる。
双方の戦い方は全く異なるが、迷いがない。どうしてこうなってしまってたのかドーラにとっては不思議でしょうがなかった。
まだ二人が来た最初の頃は懇切丁寧にドーラは教えていたが、しばらく用事でフィリアン邸を離れている間に独自の型をつくってしまった。慣れないと自分なりに方法を変え、何回もの失敗の末、今現在の型に至る。
だが、たぶんこれからも新たな技術を覚えるごとに彼らは変化し、成長するだろう。
もっと専門的なところで学ぶべきだ。いくらここが騎士の名門とはいえ、彼らの吸収力の早さと独自の戦い方では限界がある。
だからフィリアン男爵はあのような決断をとったのだろうか?
パァァン!!
ルティがロイドの手に向かって放った突きによって、ロイドの手から木刀が落ちた。
どうやらドーラが思考を巡らせている間に決着はついたらしい。
「勝者ルティ!」
ドーラの終わりの合図によって稽古場内は拍手喝采となる。
「いや〜ロイドは間抜けだね!木刀を床の隙間に挟んじゃうなんて!」
「お前、絶対それ狙って逃げてただろ!普通にやってれば俺が絶対に勝ってた」
「もー、ムキになっちゃってロイドく〜ん。使えるものは何でも使わなくちゃ!正々堂々なんて戦場ではきかないぞっ!」
確かにルティ言うことも正論ではあるが、いかんせん言い方が挑発してるようにしか見えない。
「はいはい、そこまで!ルティ、ロイドそろそろ時間だ!早く屋敷に行ってこい!」
このままだとまたロイドが決闘を申し込む勢いだったので、ドーラは待ったをかける。
「ちっ。おい早く行くぞルティ」
「はーい。デザートのこと忘れないでね〜」
さっきの激しい打ち合いにも関わらず一つも息を乱さず、また走り去ってゆく。たぶん、彼らにとってこれは準備運動に過ぎないのだろう。
ルティとロイドが去った後は他の見習い達は彼らの話題で持ちきりになる。
「なあ、さっきのロイドの剣さばきすごくなかった!?」
「ルティの避けはもっとすごいだろ!あれ誘導するために計算しながらやってたんだろ!!」
などと、目を輝かせながら語る少年達もいれば、
「相変わらず、ルティって美形だよな〜あんなめっちゃ動いてんのに顔が全然ぶれないできめてるんだぜ?」
「スカした顔よりロイド兄貴の真剣に打ち込む姿の方がかっこいいだろ!」
いくら男ばかりの育成所でもルティは端正な顔立ちでファンが、ロイドは兄貴肌に憧れをもつ弟弟子のような者たちが存在する。
ある意味で彼らのモチベーションにもなってるだろう。
おいおい、ルティとロイドがいなくなったらこいつらどうなっちまうんだ?
ハァ、とドーラは肩を落とす。
そう、剣の実力以外でも二人の影響力は大きかった。
ダーラ・フィリアンは名門フィリアン騎士団を創設した男爵であり、次期フィリアン騎士団を担う見習い達を指導するドーラ・フィリアンの兄でもある。
今まで都市から離れた辺境の地でいそいそと農民と田を耕すほど質素で権力もないフィリアン家だったが、ダーラの代になってからは男爵の位といえどほぼ伯爵に等しい力を持つようになった。
これは、フィリアン騎士団のおかげでもあるだろう。
この田舎でダーラが目をつけたのは農耕などで幼い頃から働く活発な少年達であった。
都市の温厚育ちの商人や貴族の子供達と比べてずっとたくましく見えた。確かに知識や魔法の才では劣るだろうが、運動神経や精神的な強さは計り知れない。
現に弟のドーラはそれで騎士団長まで登りつめた。
今はこうして少年達の面倒をみているが、現役のころは散々都会育ちの騎士達を泣かせてたらしい。
らしい、というのはダーラはドーラとは違いここに残り自分の代になるまでのんびりと農民と過ごしていたからだ。しかし、ダーラには人を見る目があった。
その才能が発揮されるようになったのは男爵の位を受け継いだ二十五才での頃だろう。
ダーラはどうにも書類仕事や細かいミスなどが多かった。だが、その時疎遠となっていたドーラとは縁を戻し、伝で知り合いになった商人のケインを秘書して捕まえ、目をつけていた屈強な農民には声をかけ彼らと共に騎士団を作り上げた。
結果は予想以上のものだった。ダーラは人を選び見つけ、ケインは書類や契約を、ドーラは騎士団長を引退し、その経験と技術を農民達に指導する。
それから二十年が経ち、現在では名門フィリアン騎士団とまで呼ばれるようになった。
その間にフィリアン騎士団育成所などで、更に優秀な未来の担い手を見つける機会も増えた。
そして、今回ダーラの視線の先に二人の姿がある。
「ルティ、ロイド!」
才能あふれる若き見習い騎士の名を呼ぶ。
ルーティミリアン・ハルツォーネ。ルティという愛称で呼ばれるこの子供は、ダーラから見ても思わずため息が出てしまうほどの美しい容姿を持つ少年。今はまだ童顔で幼さを感じてしまうが、端正な身のこなしと爽やかな笑顔は多くの者たちを魅了する。
また、剣の実力もアクロバティックな動きと予想もできない作戦で人を虜にする。
ロイド・クロス。背丈は高く、短く切られた髪と鋭い目に宿る紺色は人を恐れされるほどの迫力がある。ダーラが初めて会った頃は幼い虎のようでまだ可愛らしくもあったが、今はもはや獣。しかし、真面目で人情深い性格から多くの者に慕われている。
彼の剣のさばきはシンプルではあるが、その一つ一つの動きと力は成人騎士も顔負けで、力だけならこの育成所には敵うものはいない。
「お前達二人のレイシオン学園への入学が許可された!」
こんな狭い世界で技術を学ぶのには勿体無い。
だからこそダーラはこんな辺境の地より、王都のすぐ近くにあるレイシオン学園に彼らを通わせることに決意した。
「お二方の入学手続きは昨日無事に終わったので、今日正式にダーラ男爵に報告してもらいました。これは、入学資料と学生証。あとで制服などの荷物は部屋に届けてもらいます」
秘書のケインが二人に入学資料と学生証を手渡す。
思わず笑顔になったルティとロイドはそれぞれに資料を見はじめる。
「手続きとかはケインがやったから安心しろ!誤りはない!入学はまだ先だが寮で過ごすことになるから、あらかじめ資料や準備はしておけ!何にか質問とかはあるか!?」
そう、ドーラが声高々に言った後、そっとルティが手を挙げた。
「すみません、僕の性別は“女”なのに学生証の方では“男”と表記されています」
少し驚いたように“彼女”、ルティが口を開く。
「「「えっ?」」」
ルティを除く三人の頓狂な声が部屋に響いた。
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