九話 できないじゃない・・・・・・やるんです
第九話です
そして私は、高木の方を見た。
「・・・・・・」
高木は睨んだ顔で私を見ていた。
「えっと・・・・・・高木さん」
私がそう言うと
「・・・・・・力」と言った。
「え?」
「今この二人が言ったことだよ。引き寄せられるような力とか、それは確かに存在する」
「は、はあ」
「こういう説得の時に大切なのは、発言力と信頼だ」
「発言力と信頼・・・・・・ですか?」
「人の話を聞くとき、相手のどこを見る?」
「顔・・・・・・ですよね」
高木の質問に渋々答える。
「人の話を聞くときは、相手の顔を見て『目』と『耳』で聞く。表情を見て相手の心情を確かめ、言葉を聞いて自分の心を響かせる」
「・・・・・・」
高木は私を見て、理解していないことに気付きため息を吐く。
「簡単に言うと、あんたの嘘偽りない必死さが、ちゃんとみんなに伝わったってことだよ」
まあ、魅力があったってことだなと付け足す。
その言葉で私はやっと理解した。
理解したと同時に、少し恥ずかしくなってむずがゆくなった。
「高木さんにも・・・・・・ですか?」
「元政治家だぞ。伝わらないわけがない」
遠まわしだが、高木さんに伝わったのが嬉しかった。
私の気持ちが、ちゃんとみんなに伝わったことに喜びを感じた。
「じゃ、じゃあ」と、健太が言った。
「どうしてさっき、工藤さんにあんなこと聞いたんですか?」
「・・・・・・」
健太の質問に、高木は一呼吸おいて話した。
「試しただけだよ」
「試す?」
私は聞いた。
「政治家でも、あんたほどに魅力のある説得をする人はそんなにいない。だから、それが本物か偽物か試したってことさ。今この人(秋山)が言ったように、あんたの気持ちが、俺だけじゃなくて他の人にも伝わっていたなら本物ってこと。まあ、俺の質問には答えられなかったけどね・・・・・・」
「で、でも、高木さんほどでもないですよ。私より、高木さんのほうが魅力ありますよ」
「いや」と、高木はあっさり否定した。
「なんで、魅力のある説得ができる人が少ないかわかるか?」
「い、いえ、わかりません」
「・・・・・・才能だよ、さいのう。良い言い方するなら『純粋な心』かな。汚れず、目標に向かって一直線に突っ走る気持ちが、その魅力を発揮する。あんたにはそれがあって、俺にはない。そういうことさ」
「そ、そんな、高木さんも・・・・・・」
「俺は産まれた時の環境が悪かったんだよ」と、私が言っている時に高木は割って言った。
「自分で言うのもなんだけど、裕福な生活を送ってきた。だからかな・・・・・・。いくら気持ちを込めても、わずかに上から目線な気持ちが邪魔してしまって、聞いている相手には届いてくれない。少しの心の乱れが相手の気持ちを阻害してしまうんだよ」
高木は私を見て言った。
「だから、あんたを試した」・・・・・・と。
高木の視線に私は固まってしまい何も言えなかった。
「俺は、あんたに嫉妬しているんだよ」
「え、嫉妬?」
「・・・・・・いや、何でもない。気にしないでくれ」
「あ、はい」
少し間が空き「えっと、高木さん」と、健太が高木に声をかけたが
「・・・・・・悪いが、それとこれとは別の話だ」と、まだ健太が言い終える前に返事をした。
「え・・・・・・」
自分の言おうとしていたことが先読みされ、それをあっさり返されたことに健太は驚いた。
「協力してくれますかって聞くつもりだったんだろ?悪いけどそのつもりはないよ。もう、あんなところはごめんだ・・・・・・」
高木はそう言いながら、その時を思い出しているのだろう。少しずつ怒りの表情になっていた。
「高木さん、いったい何があったんですか?」
そう言うと、高木は怒りの表情からは一変、悔しさが一気に込み上げてきたのだろう、涙をうかべながら話した。
「あんたたちは、国の怖さをわかっちゃいない・・・・・・。俺は、知ってしまったんだ。政界の裏を・・・・・・」
「政界の裏・・・・・・ですか?」
「・・・・・・」
「高木さん、ぜひ・・・・・・その政界の裏を教えてもらえないでしょうか」
高木が私の方を向く。
「教えてなんになる!教えたところで、あんたたちがこの国を救う事なんてできやしない。絶対にな!」
「・・・・・・」
私は、何も言い返せなかった。
それもそうだ、元政治家、あの大人気だった高木一をここまで言わせるほどだ。
そのうえ、自殺まで追い込まれている。
辛い目にあってきたという訴えが、痛いほど伝わってくる。
それに比べて私は、政治家でもない、元サラリーマンの現在フリーターだ。
そんな私がなんと言おうが、国が変わるわけがないのが目に見えていた。
「でもよ、やってみなきゃわかんねぇだろ?やりもしねぇで諦めるなんて、はやすぎやしねぇか?」
なんて言おうか考えている時に、掛布さんが高木に言った。
高木が掛布さんの方を見た。
「死のうとしていた人がよくもまあそんなことを言えるな」
「うっ・・・・・・」
すぐに論破され、掛布さんは何も言えず悔しそうな顔になった。
「で、でも、掛布さんの言う通りです。やらなければ何も起きませんし、何も変わりません。ここで諦めたら、私たちが待っているのは『死』なんですよ」
「ははっ、だから俺たちはここに集まったんでしょ」
「残念ながら、今日ここにあなたたちを集めたのは私です。そして、死ぬためではありません。一緒に国を救うためです」
「だから国を救うなんて・・・・・・」
「高木さん」
高木の発言に私は割った。
「ここであなたと出会ったのは、何かの縁だと私は思っています。変えることなんてできやしない、無理だと思っている、それはあなたの思考です」
「・・・・・・」
「できないじゃない・・・・・・やるんです」
私は力強く言った。
「はっ、強制参加かよ」
高木は呆れた顔をしていた。
「もちろん、無理矢理とは言いません。そこで一つコレで決めませんか」
そう言って私は、財布から五円玉を取り出した。
「コイン・・・・・・か、政治で悩んだときはよくやったな」
「・・・・・・私もです。あっ、五円玉の理由がですね、五円とご縁をかけていましてね・・・・・・」
「さっさとやってくれ」
「あ、はい」
そして私は、五円玉を人差し指の側部にのせた。
「・・・・・・」
これは賭けだ。
この結果で、私の・・・・・・この四人の運命が決まる。
そう思うと、言葉では言い表せられないほどの緊張感を感じた。
(頼む・・・・・・頼む!)
一度、大きく深呼吸して高木を見た。
「では、表で」
私が言うと
「・・・・・・裏」
高木は言った。
「・・・・・・いきます」
私は親指で五円玉を弾いた。
五円玉が激しく回転するなか、静寂の一室では金属を弾いた音だけが響き渡った。
緊張の影響なのだろうか、私の目からは、回転する五円玉がゆっくりに見えた。
まるで、ボールが自分の顔に向かっている時に回転やボールの模様、縫い目がはっきりと見えているかのように、ゆっくりと・・・・・・。
ゆっくりと・・・・・・ゆっくりと・・・・・・。
パシッと私は五円玉をとった。
すぐに手をどけて、五円玉を見た。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
表だった。
「・・・・・・はぁっ!はぁ・・・・・・はぁ」
安堵したおかげで、知らずに止まっていた呼吸がやっと活動を始めた。
緊張がとけ、力が抜けたようにソファに座り込んだ。
「私の・・・・・・勝ちです」
「どうなっても知らんぞ」
「覚悟の上です」
「後悔するぞ」
「その時にはもう、死んでいますよ」
高木の言葉に、私は不思議と笑顔で答えた。
高木は私の顔を見て、「はぁ・・・・・・」とため息をついた。
そして、少しの沈黙のなか高木は答えた。
「わかった・・・・・・やろうじゃないか」
「あ、ありがとうございます!」
私は、安堵と喜びで心が躍るかのように高ぶっていた。
「良かったな、えーっと・・・・・・工藤さんよ」と、掛布さんが言ってくれた。
「はい!みなさん、これからよろしくお願いします!」
何年ぶりだろう、私は心から笑顔になった。
「ああ、よろしく」と、掛布さん。
「よろしく・・・・・・お願いします」と、鈴木くん。
「よろしく」と、秋山さん。
「・・・・・・よろしく」と、高木さん。
そして、私は一息置いて言った。
「では、気持ちが一つにまとまったということで、本題に入りたいところですが、その前に一つ、みなさんに教えておきたいことがあります」
「「「「?」」」」
高木は乗り気じゃないが、残りの三人はちゃんと聞く姿勢をしていた。
いくら仲間でも、言うべきかはわからない。むしろ言わない方が良いかもしれない。
でも、私はこれからこの四人と共に活動をする。
だから隠し事はしたくない。
意を決して、私はこう言った。
「私が、日本を救うと決めたきっかけを」
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