八話 たったこれだけの理由
第八話です
ひじをひざの上に置き、手と手をガッチリと握りしめ、顔は下を向いたままの姿勢だが、怒りを込み上げているのが一目見てわかった。
「あ、あの・・・・・・」
男性が私の方を向く。
「日本を救う?生きる希望?死ぬ気で動け?馬っ鹿じゃねえの?あんたみたいな人に何ができるっていうんだよ。そんなことができるならな・・・・・・みんなとっくにやってるんだよ!」
俺だって・・・・・・と、そう言いながら怒りと悔しさが入り混じった表情になっていた。
「・・・・・・あれ?あんた、どっかで見たことある顔だな」と、掛布さんが言った。
私はその言葉を聞いて、その人をよく見てみた。
「・・・・・・あっ!高木一たかぎはじめ!」
私がそう言うと、素性がバレたのが嫌だったのだろう、高木は舌打ちをした。
高木一、五年前に自由民主党の東京二区から出馬し、二十六歳という若さで見事当選した期待の新人として一時期有名になっていた。
政治活動も活発で、税金の横流し、天下り阻止、公務員の給料コスト低減など、政治や社会の汚れたところを改善させるなど、国民からは驚くほどの支持率をあげていた。
この人を機に、若者が続々と出馬や選挙活動を活発に行うようになった通称『高木フィーバー』はとても最近な話である。
だがしかし、去年あたりから高木一の名前は突然と消え、政治活動の話も何も聞かなくなったのだ・・・・・・。
そんな凄い人が、どうして今ここにいるのかと疑問に思った。
「あなたみたいな方が・・・・・・どうしてここに?」
「そんなことはどうでもいい、あんたみたいな人に何ができるのかって俺は聞いてるんだよ」
「そ、それは・・・・・・」
私が言葉を考えている最中に高木はたたみかけてきた。
「日本を救うって・・・・・・だいたいなんであんたなんだ?あんたの理想の日本ってなんなんだ?そんなことも知らずに、俺はあんたの話にはのれない」
「・・・・・・」
「それにどうやって?具体的な方法も案も言わないし、俺は簡単にあんたを信用なんてできないんだよ」
「・・・・・・確かに」と、掛布さんが呟いた。
「言われてみれば、そうだよな・・・・・・。なあ、詳しく説明してくれないか?」
掛布さんの言葉に、高木と秋山も同感という気持ちで私を見た。
「・・・・・・」
健太は私を見ず下を向いたままだった。
「えっと・・・・・・」
「どうした、言えないのか?」
高木の言葉に、私はますます焦る。
「・・・・・・」
私は、何も言葉が出なかった。
理想の日本も、具体的な方法も、何も決めていなかったからだ。
特に、『なんであんたなんだ?』という言葉には、どうしても言葉が思い浮かばなかった。
それを答えるということは、あの村の事を話すことになるからだ。
理想の日本は、汚れた社会を立て直したい、私たちみたいな社会に潰され、生きる希望を失くした人たちをなくしたいという単純な気持ちなのだが・・・・・・これで納得するほどあまくない。
方法なんて、具体的どころか何も考えていない。それは後々、みんなで考えればいいと思っていたが、高木の言うとおりだ。自分がそっち側だったら警戒するのが当然だろう。
私は、俯いてしまった。
「・・・・・・」
何かを言おう・・・・・・言おうと、口はわずかに動くが、言葉が出なかった。
何も言えない。
もう、ダメなのか・・・・・・。
「あの、工藤さん」
終わりだと思っていた時、健太が私に声をかけた。
「俺は、工藤さんについていきますよ」
「健太くん・・・・・・」
健太の目は本気だった。
「根拠は?」
高木が健太に質問した。
「根拠・・・・・・ですか?」
「そうさ、この人が言う言葉には根拠がない。日本を救おうなんて言うだけなら簡単さ。だけどその言葉が嘘で、俺たちをもてあそび、最終的には残酷的な方法で殺す可能性だってあるんだ。もともと死のうとしていた奴らだからどう殺したって構わないってな!」
「・・・・・・」
反論したいが、今の私に言える権利はなかった。
高木は話をすすめる。
「君はこの人の言葉を信じられるのか?嘘かもしれないって疑わないのか?こういう駆け引きをする時はまず人を疑うのが常識だ。目的だけを言って、具体的なことは何も言わない。こんな奴を信じられる君の根拠は何なんだ?」
「・・・・・・根拠なんて、ありません」
「ない?ないだと?ないのにこの人を信じるっていうのか?」
「はい」
健太は真剣な顔でそう答えた。
「・・・・・・」
予想外の答えが返ってきたからだろうか、高木は唖然としていた。元政治家だからだろう、正当な理由を聞かないと納得ができないのだ。
「じゃ、じゃあ・・・・・・」
高木はまた質問した。
「もし、嘘だったら・・・・・・その時はどうするんだ?」
健太は少し考え
「えっと、呪います・・・・・・かも」と、少し笑みをうかべながら私を見た。
「あ、あはは」
苦笑いしかでなかった。
「・・・・・・なんて言うか」と、健太は話を続けた。
「俺も具体的なことは言えないんですけど、工藤さんの言葉には『力』があるような気がするんです。人を引き寄せるような、納得させるような力が・・・・・・。」
その言葉に、三人は反応を見せた。
それには納得みたいな顔をしていた。
「たったこれだけの理由ですけど、俺は工藤さんを信じようと思いました。今日、死のうとしていた俺に、救いの手を差し伸べてくれた工藤さんに、ついていこうと思いました」
これじゃ・・・・・・ダメですか?と健太は聞いた。
「「「・・・・・・」」」
少し、沈黙ができた。
私は何も言わず、三人の返事を待った。
だけど三人は考え込み、静かな一室がまた少しずつ空気が重たくなっていくのを感じる。
少しずつ不安そうな顔になる健太を見て、自分もだんだん不安になってきた。
その時
「健太・・・・・・くんだっけ?」と、秋山が健太に言った。
「あ、はい」と、名前を呼ばれたことに驚きながらも健太は答える。
「君の言っていた、工藤の『力』は俺にも感じたよ」
「・・・・・・」
「確かに、工藤の言葉にはなにか人を引き寄せられるような感じがした。俺だけかと思って警戒したけど、健太くんにもその感覚が伝わったのなら、工藤の力は本物だと思うよ」
そう言って、秋山は私を見た。
「秋山さん」
「俺も、工藤を信じるよ。あんたのその力で、日本をどう救うのか俺は見てみたい」
「あ・・・・・・ありがとうございます」
「あ、でも嘘だったら俺はマジで呪うからな」
「あ、あはは」
私はまたしても、苦笑いしかでなかった。
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