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六話 人って素晴らしいって・・・・・・私は心から感動しました

第六話です

自殺サイト、そう聞くと自殺をしようしている人たちが集う掲示板と思われるのが一般的だろう。

しかし、それは少し違う。


正確に言うと、『自殺せざるを得ない状況にたたされている人たち』が集う掲示板だ。


私も何度か興味本位で掲示板を見たことがある。

正直、酷いものだ・・・。

投稿している人たちの文章を読むと、この日本の汚いところ、黒いところが見えてくるような印象を与えた。

投稿する人は様々で、ただ自分の人生に嘆いている人や、生きていることが嫌になり死のうか悩んでいる人、それを煽ったりして楽しんでいる人、必死で説得して日常生活復帰を願う人、他にもたくさんいる。


私がそんななか狙うのは『集団自殺をしようと考えている人』だ。

要するに、「死のうと思っているが一人じゃ寂しい。誰か一緒に死にませんか?」みたいな感じの人だ。


そんな掲示板を、私が自分で立ち上げる。

大人数はさすがにキツいため、私を含めて五名、つまり四名の人数制限をかけて掲示板を立ち上げた。

すると、数分もしない間に人数が集まった。

こんなにも早く集まることに少し悲しくなったが、今はそんなことは言っていられない。

私は話を始め、集合する日時と場所を決め、参加する四名に了解の返事をもらい、すぐにサイトを閉じた。

久しぶりに見たが、やはりそう長くはひらきたくないサイトだ。

哀しみを通り越して、恐怖や吐き気がこみ上げてしまいそうだった・・・・・・。


(こんな人たちを一人だけでも多く、一日でも早く、救うんだ・・・・・・救わなくちゃ!)


その後、すぐに横になったのだが精神の不安定からか、なかなか寝付けなかった・・・・・・。



三日後、その時がついに来た。

時間は夜中の一時五十五分、場所はカラオケ店。

室内では誰も歌ってはおらず、テレビ画面には小音量で歌の宣伝が延々と流れ続けていた。

隣の部屋はにぎやかなのだろう、盛り上がっていて楽しそうな歌声が静かなこの部屋にまで聞こえてきた。

対照的に、この部屋はものすごく重たい雰囲気である。

私以外にも、この部屋には向かいのソファに座っている三人がいるのだが、誰も喋らずずっと下を向いたまま、もう一人が来るのを待っていた。

仕事がら、スーツ姿で来た私が集合場所に着いた時には、すでにその三名が座っていた。


左斜めの短髪の男性は見た目二十代後半、灰色のシンプルなトレーナーにジーパンと普通な格好だが、羨ましいほど良い体格をしている。

正面の少し白髪の混ざっている短髪の男性は見た目五十代で、少し中年太り体型だ。仕事帰りなのかと思えるほど、汚れた作業着を身に着けていた。

右斜めのいかにもサラリーマンしてそうな人は、私と同じ三十代前後だろう、私と同様スーツ姿だった。


見たところ、この三人はたぶん私と同じ立場の人間に近いような気がした。

社会に踏みにじられ、人生に行き詰まり、生きる気力が無くなってしまった・・・・・・。

言葉ではとても言い表せられないほど、思い詰まった表情をしていた。

・・・・・・当然だ、死にに来ているのだから、それ以外の表情ができるはずがない。

私はチラッと腕時計を見て時間を確認する。

予定ではあと一人、時間まであと二、三分と迫っていた。

時間までに来なければ、不参加とみなしすぐ行動を開始すると事前に掲示板には連絡済みだ。

刻々と時間が進むなか、空気がとてつもなく重たく、澱んだ空気がこの部屋一帯に溜まっている感じがビシビシと伝わってくるのがわかる。

一分がとてつもなく長く感じる・・・・・・。

私はこの空気に耐えられず、すぐにでも逃げ出したい気持ちだったのだが、不思議なことに体の上に何か重たい物が乗っているかのような錯覚がおき、動けない状態になっていた。

今までに感じたことのない重圧だ。

緊張して、心臓の鼓動が大きくなっているのがわかる。

一時五十九分そろそろ時間だと思ったとき、この部屋のドアが開いた。

そこを見ると、フードを深々とかぶった少年が入ってきた。


「お、遅れて・・・・・・すみません」


少年はそう言い、私の隣に座った。

見たところ高校生だろう。

こんな少年が自殺をしようと思うなんて、どれだけ今の学校や社会、人々の暮らしが息苦しくなっているのか、考えるだけで悲しさと苛立ちがこみ上げてくるようだった。

でも、今はそんなこと言っていられない。

人数が揃ったからには話を始めなければならない。

私は今から・・・・・・この人たちと手を組み、この腐りきった社会に抗うんだ。

私は席を立ち、一度深呼吸をし、気持ちを落ち着かせ話し始めた。


「お、お待たせしました。それでは、人数も揃いましたし、始めることにします」


そう言うと、今まで澱んでいた空気が一気に変わった。

よりいっそう濃ゆさを増し、部屋中絶望感に満ち溢れた。

それもそうだ。

少なくとも、あと数時間で『自分は死ぬんだ』と強く実感しているのだ。

隣に座っている少年も感じたのだろう、体が震え、呼吸が乱れているのがわかった。

怖くないわけがない、これまでにない恐怖を体感しつつも、顔に出さず、声に出さず、じっとしているのだ。

逃げたい、逃げ出したい。


(でも逃げちゃダメなんだ、落ち着け、一旦落ち着くんだ・・・・・・ってさっきも深呼吸して落ち着こうとしたばかりじゃないか!冷静になるんだ、このプレッシャーに打ち勝つんだ!)


私は・・・・・・この場を乗り越えるのだ。


「みなさんがここに来られた理由は人それぞれだと思いますが、目的はみんな一緒です。短い間ですが・・・・・・よろしくお願いします」


私はみんなの反応を確認する。


「・・・・・・」


震えていた。

死ぬことに、心から怯えているのだ。

こんな思いするなら来なければいいのにと思うが、それでも死のうとするこの人たちは、どんな気持ちでここにきたのだろうか。

私は、この人たちに共感をおぼえ悔しさを感じ、涙が込み上げてきた。

腐りきったこの社会が、私たちみたいな自殺志願者を生み出したことに恨みを感じた・・・・・・。

けど、それよりも私は、こんな人たちを一人でも多く救いたいと思う感情の方が何倍も強かった。

心を闇にするのではなく、希望の光にするのだ。


「今回、見ず知らずの赤の他人同士が集まってすることは・・・・・・一緒に死ぬことです」


私の言葉はちゃんと聞いていると思うが、誰も反応せず俯いたままだった。

そこで、私は言った。


「・・・・・・ですが、私はまだ死ねません」

「・・・・・・は?」


左斜めに座っていた短髪の男性が、私の言葉にすぐ反応し、顔を見上げて疑問の言葉を漏らす。


「私はまだ・・・・・・死ねません」

「お、おい、ふざけるなよ。俺たちをここに集めたのはあんただろ?」

「そうです」

「じゃあなんで集めたあんたが死ねないって言っているんだ?もしかしてびびったのか?」

「・・・・・・びびっている事には否定できません。ですが、死のうとは・・・・・・思っています」

「ははっ、なんだよそれ・・・・・・。なあ、もしかしてあんた、俺たちが死んでいく様を見て楽しもうって思ってんじゃないだろうなあ!」

「そ、それはありません!」

「嘘つけぇ!」


その人は私の胸倉を掴んで顔を近づけた。

呼吸を荒げ、大きく目をひらき怒りに満ちた顔をしている・・・。

立っている私の足がガクガクと震えだす。


「ふざけたこと言いやがって。どうせ死ぬんだ・・・・・・今ここで一人殺したって俺にとっちゃなんともないんだよ」

「・・・・・・」

「死に方、まだ決めてなかったよな。じゃあ、あんたは俺が・・・・・・殴り殺してやるよ!」

「私はまだ死ねません!」

「まだ言うかこの・・・・・・!」

「この国を救うのです!」

「・・・・・・は?」


私を殴ろうとした人は唖然とした顔をしていた。

他の三人も、私を見て固まった。


「今日、皆さんにここに集まってもらったのは一緒に死ぬことが目的ではありません。生きることに辛くなり、真っ暗な未来しか見えず、死のうと思っていた皆さんに・・・・・・皆さんにだからこそ!お願いしたいのです。突然な申し出だと思いますが、私と一緒に、日本を救ってみませんか?」

「・・・・・・」


誰も何も言わず、ただ私を見ていた。

掴まれていた手をさわると抵抗もなくその人は掴んだ手を離し、一歩下がった。


「私はこの社会に出て十二年間、苦しみながら生きてきました。思ったこと、言いたいことはしっかり発言する。これが私なりの決まりで、とても大切なことだと幼い頃からずっと思いながら育ってきました。しかし、私の想像していた社会とは裏腹に・・・・・・とても残酷なものでした。いじめに会い、上司には見放され、クビになり会社を追い出され、この数日間で私の生きる目的が無くなりました」


みんな自分と似たことがあったのだろう、下を見て悔しそうな顔をしていた。


「人は、『目的』が無いと生きていけないのです。仕事を成功させたい、やりがいのある趣味を思う存分したい、幸せな家庭を築きたい、そして・・・・・・友達をつくって、楽しい学校生活をおくりたい」


隣に座っている少年が少し反応した。


「そんな目的を掲げ、そこから生きる『希望』が生まれる。私はそう思うんです。そう思うと、人って素晴らしいって・・・・・・私は心から感動しました」


不思議なことに、私は涙を流していた。

少しずつ、私の声は震えてしまっているのがわかるが話を続けた。


「だけど、生きる目的が・・・・・・生きる希望が!自分以外の誰かに邪魔され、無くなってしまうというのはどんな気持ちですか?私は悔しい、悔しくてたまらなくて、暴れだしたいくらい悔しいです!皆さんにはわかると思うんです!この気持ちを心に収めたまま、皆さんはこの世から去って良いんですか!」


『私は・・・・・・絶対に嫌だ』


「・・・・・・」

「こんな気持ちを持ってしまった人を、一人でも多く助けたいと私は思いました。だから、皆さんに・・・・・・もう一度聞きます」


私はここにいる四人を見て言った。


「私と一緒に日本を救ってみませんか?」


ありがとうございます


良ければ感想、評価の方お願いしますm(__)m


ここまで書き溜めていたので、次話からペースが空くと思いますが、次話も気長に楽しみにしていてください(^^)/

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