五話 思い知ったかい?『社会』を
第五話です
いつからだろう、私が人の心を忘れてしまったのは・・・・・・。
だいたいの目星はつく。
社会に、踏みつぶされた時からだ。
まだ社会人ではない学生だった頃、私は自分の意見をしっかりと言える人だった。
私の考えには間違いはなく、いつも自分が正しいと思いながら自分自身の意思を貫いてきた。
教師たちも、私のことを認めてくれていた。
『今の世の中、君みたいに自分の言いたいことを言う気持ちがとても大事』と、先生達は言っていた。
私もそれが正しいと思い、その気持ちをずっと持ち続けてきた・・・・・・。
当時二十三歳の私は大学を卒業し、職に就いた。
それからだった、人生の歯車が少しずつ狂い始めたのは・・・・・・。
社会でも、私は自分の意見を貫いた。
最初の半年間は、良い新人がきたと褒められたくらいだ。
だけど、私の良かった社会人生はそこまでだった・・・・・・。
単純に気に入らないと思ったのだろう、会社の先輩たちは私をいじめた。
肉体的にではなく、精神的に・・・・・・。
私がつくった書類を、目を盗んでは破り捨て、スーツにわざとコーヒーをこぼし、ありもしない悪い噂を勝手に広められ会社のみんなからは陰険な目で見られるようになった。
会社では私の居場所がいつの間にかなくなり、耐え切れず上司に相談した。
上司は私の話を真剣に受け止めてくれていた。
これで少しでもいい、私の社会人生が良くなれば私はやり直せる。
そう思っていたが、上司の答えはあまりにも残酷すぎるものだった・・・・・・。
『これが社会なのだよ』『君を教育しているのだよ』『ありがたいと思え』『そもそも君は最初から調子に乗りすぎた』私は唖然としていた。
そう、上司は私がいじめられていることを最初から知っていたのだ。
知っていて、何もしなかった。
『これが社会』、じゃあ、今までやってきた私の人生、生き方はなんだったのだろう。
無駄・・・無駄だったのか?
私のこれまでの人生は、自分の意思を貫き通す人生は、全部無駄だったって言うのか?
そう考えているときに、上司は言った。
「君のやってきたことは間違っているんだよ」
「間違っている・・・」
「君は、自分の意見をはっきり言うタイプみたいだけどね、そういう人はみんな社会に潰される。ま、単純に目障りだから早めに社会の厳しさを教えてやっているのだよ」
「・・・・・・」
「どうだね、思い知ったかい?『社会』を」
・・・・・・あれから私は、人を信じなくなり、人の心を忘れてしまった。
思い出したくない過去でもある。
何も不満は無かったとは言ったが、勘違いしないでほしい。それは給料や仕事に関しての事だ。
人間関係は・・・・・・滅茶苦茶だった。
あれから、私は別の部署に移動し、人の心を持たぬまま仕事をしてきた。
自分の言いたいことを言える、生き生きとしていた私はどこかへ行ってしまっていた。
言われたことを、ただするだけの偽りの自分になっていた。
特に友人もつくらず、彼女もいない。
思い返せば、ひとりぼっちの寂しくて哀れな人生だったと感じた。
そんな私が、今・・・・・・日本を救おうと試みている。
そう、試みているのだが・・・・・・。
「何をすれば良いんだろう」
結局、村長からは何をすればいいのか聞けず、困っていた。
この言葉を何回も口ずさみながら、もう二度と帰ることはないだろうと思っていた自分の家に着いた。
「・・・・・・ただいま」
とりあえずそう言って、ボクは敷きっぱなしの布団に寝転んだ。
手を頭の後ろに置き、天井を見ながら今後の事を考える。
「日本を救う・・・・・・か、救うって言われても・・・・・・今の自分に何ができるんだろうな」
これといって特技とか趣味はないし、ましてや日本を救うための役に立つものなんて私には無い・・・・・・。
どうしたら・・・・・・どうしたら・・・・・・?
『無駄』『間違い』
私は勢いよく起き上がり、頭を激しく横に振った。
考えすぎてしまい、嫌な過去を思い出してしまった。
「考えすぎも良くないな」
そう思い、気張らしにテレビの電源をつけた。
テレビなんてあまり見ないからどんな番組がやっているかわからない為、適当にチャンネルをかえていく。
その時にふと目にとまった番組が、とあるドラマだった。
題名はもちろん知らないし、内容もわからないし、これが何話目かもわからないが、主人公だろうそれらしい人物の言葉に心を惹かれた。
『仲間』
この人生で、彼女も親友もいない一人ぼっちの私にはまったく縁のなさそうなものだ・・・・・・。
だけど、今・・・・・・今の私にはそれが必要なのかもしれない。
「そうだ、仲間だ。仲間をつくるんだ」
私は立ち上がり、やる気に満ち溢れていた。
すぐさまパソコンを立ち上げ、あるサイトをひらいた。
「確かに私は一人ぼっち、仲間もいないしそのうえ仲間もつくれない・・・・・・。だけど、私と同じ気持ち、同じ状況を持っている人はいる」
そのサイトは、自殺サイトだ。
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