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四話 下げたくない相手に頭を下げる必要なんてありません

四話です

村長はとても喜んでくれていた。

一気に気が抜けたのか、さっきまで緊張気味だった顔が今はとてもヘラヘラしていた。

私は村長の変わりように少し戸惑ったが、村長はそれに気付いたのか一度咳をし、すぐに戻った。


「あ、あのですね村長」

「ん?ああ、どうした?」

「えっと、あのー、やるとは言いましたけど、私は・・・・・・何をしたら良いんでしょうか?」


日本を救うと決心はしたものの、実際には何をすればいいのかまったく決めていない。


「・・・・・・あー、言っていなかったな」


村長は思い出したような顔をしてそう言った。


「実はな、私たちみたいな幽霊でもずっとここに留まっているわけじゃなくてな、散歩がてらに山を降りて街中に行ったりもするんだよ」

なんとも自由な幽霊だ・・・・・・。

「このようになってからというもの、結構な月日が流れたが、街の様子は始めより大いに変わった。別に嫌という訳ではない、むしろ変わることは良いことだ・・・・・・」

しかしな、と村長は話を続けた。

「この国は、良い方向に変わっておらん。わかるか?要するに、悪い方向に変わってきているということだ」

「悪い方向に・・・・・・ですか」

「これを見てくれ」


そう言って村長はあるものを私に渡した。

それは新聞だった。


「え、新聞?」

「街中を散歩がてらな、その度に拾っては持ち帰っている」

「そ、そうなんですか・・・・・・」


どこから拾ってきているのか気になるが、そこは触れないでおこう・・・・・・。


「それで、この新聞を見てくれ」


そう言われ、私は新聞に目を通した。

日付を見ると、最近の新聞だった。


「お前さんが日頃新聞を見て日本の事を知っているかは知らぬが、お前さんが生まれるその前から私はずっと日本を見てきた。まあ、新聞だけの知識とこのあたりの街の状況だけの情報だけどな・・・・・・」


新聞に目を通している私に村長はそう言った。


「まったく、この国は汚れている」


新聞を見ていると、本当にそう思える記事ばかりだ。

万引き、窃盗、強盗、詐欺、金銭トラブルによる暴行、傷害、殺人、身代金誘拐、賄賂、天下り、脱税、この新聞の二、三面だけで、こんなにも罪に関わる記事が載せられている。

ろくに新聞やニュースを見ないで世間のことをあまり知らず、毎日平凡に生きてきた私には十分過ぎるほどの衝撃だった。

もちろん、新聞には良いこともかかれている。ボランティアや地域の発展、祭り、子供達の将来が期待される様々な行事、読むだけで平和で豊かな世界が想像できる。

だけど、悲しいことに新聞に載っているほとんどが悪いニュースだった。

良いニュースがだんだん薄れてしまうほどに・・・・・・。

それが毎日だ。

今目を通している新聞の記事は、その日に起こった事だ。明日にはまた悪いニュースが新聞に載せられる。毎日毎日、今もどこかで何かしら悪いことが起こっているのだろう・・・・・・。


「どうだ?」


村長の言葉にすぐ返すことができず、少し間をおいて答えた。


「村長の・・・・・・言ったとおりですね。本当に、この国は・・・・・・汚れている」


新聞を読んだ感想は、村長が思ったそのまんまの答えだった。

「おいおい、そう気に病むな。別にお前さんのせいではないし、お前さんはむしろこの国に尽くしてきたのだろう」

「尽くしてきたかは、自信ないんですけど・・・・・・」

「いや、お前さんは尽くした。私が保証する」


大した自信だ。


「なんせ、お前さんはこれからこの国を救うのだからな」


無理矢理感が半端ない。


「余計自信無くなりましたよ・・・・・・」

「という訳で、善は急げだぞ。行ってこい!」

「無視ですか!ってか、まだ何するか決まってないし、それにここ樹海ですよ!帰れないですって!」

「それなら問題ない、あの子が道案内してくれる」

「あの子って・・・・・・あっ」


村長が指したところを見ると、女の子がいた。

私が自殺しようとしているところで見かけたあの女の子だった。



今何時だろう・・・・・・。

そう思って身につけていた腕時計に目を通すと、まだ正午になったばかりだった。

何故時計を見たかというと、別になんとなくとか、時間を気にしていたとかではなく、ただ単純に周りが暗いからである。

森の中、木と木の間隔が狭く、枝や葉が空を覆い尽くし太陽の光が入ってこない。

真っ暗という訳ではない、ちゃんと周りが認識できる程度の明かりはあるのだが、明るいか暗いかと言うならば暗いと思うくらいだ。

でも、時間を知り改めて周りを見ると違和感があるほどの暗さだと実感する。

そんななか、私は村長が道案内をしてくれるという彼女の後を歩きながら山を降りていた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


お互い何も喋らない。

小鳥の鳴き声と枝が折れる音、荒い地面を踏む足音だけが響き渡る。

山を降り始めてまだ少ししか経ってないのだが、この沈黙はなかなかキツイ。

私は自分からすすんで話しかけるような事はあまりしない。

人と話すのがあまり好きじゃないからだろう、いつも喋る時は必要最低限で、余計なことは言わない。

だけど、こんな沈黙した状態も私はあまり好きじゃない。

静かな場所に一人でいるのは好きだ。

だけど、そこに複数の人が存在する静かな場所の場合、誰も喋らない重々しい空気が嫌なのだ。

人としてタチの悪い奴だとは自分でも思っている。

自覚はしているのだが、性格とはそう簡単に変えられない為、結構困っていた・・・・・・。

沈黙の中、私はこの空気に耐えられず、どうにかしようと考えていたのだが、この空気を変えるための方法と言えば、話すこと以外他にないだろう。

コミュニケーションが下手な私には厳しい。 

ましてや話し相手が初対面で、女の子で、しまいには幽霊ときた・・・・・・。

ふと、さっき見た顔を思いだしながら、うしろ姿の彼女を見る。

見た目十歳くらい、綺麗な黒髪におさげ、若々しいツヤのある腕と足、パッチリとした純粋な目・・・・・・可愛い。


(・・・・・・ハッ!いかんいかんいかんいかん!)


我を失いそうになった私は、勢いよく顔を横に振り正気に戻った。


「・・・・・・はあ」


結論から言えば無理だ。

三十路の私が女の子と話しているという絵面だけでなんかもう、危ないような気がする。

ましてや絶対に話が合わない。

子供は、何を考えているのか、何を思って行動して、何を思って発言しているのか、皆目見当がつかないのだ。

どうせ子供なんて、「君いくつ?」って聞いたら「百二十メートル!」とか意味のわからない予想の斜めうえの答えをだす生き物なのだ。

どうせ、この子も一見落ち着いているようにも見えるけど、頭の中はジブリ並みの世界感溢れる想像をして・・・・・・。


「あの・・・・・・」と、考え事をしている時に彼女が話しかけてきた。

「え!あ、はい?」

「ここを・・・・・・真っすぐ降りていけば、すぐ見覚えのあるところに着きます」

「あ、どうも・・・・・・ありがとうございます」


気を取り直し、私はそう言って彼女の横を通り過ぎた。

そこで、「あの」と彼女が再び話しかけてきた。


「その、なんと言えば良いか・・・・・・ご迷惑をかけてしまってすみませんでした」

そう言い、頭を下げた。

「・・・・・・」


一瞬、見とれてしまった。

私が知っているような子供ではなく、とても礼儀正しく、着物を着ているせいかより大人っぽく見えた。


「あ、いや、迷惑だなんてそんな、私はまったく思ってないよ」

「それなら、良かったです。あの、私からもお願いします。どうか、この国を救ってください・・・・・・お願いします」


彼女は再び頭を下げた。


「や、やめてくれ、私みたいな人に、頭を下げるなんて・・・・・・」

そう、今日死のうとしていた私に、頭を下げるなんて・・・・・・。

「いえ、下げさせてください」


彼女は頭を下げたまま言った。


「あ、あのね、頭を下げるってのはね、謝るときとか、自分より立場が上の人に対して敬意を表するときにすることでね・・・・・・?」

「いいえ、違います」

彼女は顔を上げ、私の話に割り込んできた。

「私は、自分がとても尊敬している方にしか頭を下げません。立場や権力なんて関係ありません。人はみな平等、下げたくない相手に頭を下げる必要なんてありません」

「あっ」


その言葉を聞いたとき、昔の事を思い出した。

人の心を忘れてしまう前の自分のことを・・・・・・。


「・・・・・・君の方が、よっぽど人間らしいよ。私なんかより」

「い、いえっ!わ、私は元人間で、今は幽霊でして・・・・・・」

「その心を、君にはずっと持ち続けて欲しいと思うよ」

「あ、ありがとうございます」


そう言って、彼女はまた頭を下げた。


「・・・・・・じゃあ、ボクは君のことを心から尊敬する」

「え?」

「だから、君に頭を下げさせてほしい。君と、村のみんなの願い、叶えてみせます」

私はそう言い、彼女に頭を下げた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」


お互い、頭を下げたままという珍しい光景がここにあった。


「じゃあ、私はもう行くよ」

「あ、なにか困ったことがあったらまた来てください!わかりやすい道しるべを置いておきますから」

「ありがとう・・・・・・、そうだ、君の名前は?」

「名前・・・・・・ですか?」

「そう、名前」

「あ、ありません」

「え、ないの?」

「はい、村のみんなも名前はありません」

「ど、どうして?生きていた時の名前は?」

「それが、みんな生きていた時の記憶がないのです」

「そ、そうなんだ・・・・・・。じゃ、じゃあ、私からもお願いさせてよ。もし、日本を救うことができたら、私に村のみんなの名前を付けさせて欲しい」


少し、彼女は驚いた顔をしたが、


「・・・・・・はい、その願い・・・・・・喜んで引き受けます」


目に涙を浮かべ、喜んだ顔をしていた。



ありがとうございました。

良ければ感想、評価の方お願いします。


次話は少し短くなります。

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