三話 死のうと思うことはとても凄いことだ
第三話です
「ん・・・うん」
私は、本日二度目の気絶から目が覚めた。
起きようとすると、あれからまた大分時間がたったのか、さっきより体がだるい感じがする。
辺りを見回すと、幽霊の村人はいないようだ。どうやら、さっきいた場所から移動されたらしい。
建物の中は、さっきのところと見た目は変わらないが一回り広い一室になっている。
「お、ようやく目が覚めたか」
声がするところを見ると、赤い絨毯が敷かれていて、その端に二本の蝋燭が立てられていた。
そこには若い女性が正座していた。
見た目は二十代だが化粧をしているように綺麗で顔立ちがよく、大人びている感じだ。
他の村人と違って、高価な飾りを身に着け、明るく上品な着物を身に着けている。
(まあ、透けているけど・・・)
「まったく、あいつらといったら目が覚めたら連れて来いと言ったのに気絶したまま運んできおって・・・この場にいる私の身にもなってほしいものだ」と、彼女は不満げにぶつぶつ呟いていた。
「あの、あなたは・・・?」
「ああ、紹介がまだだったな。私はここの村をまとめている村長だ。ようこそ、死町村へ・・・」
「そ、村長ですか?」
「ああ、そうだが・・・どうした?」
「い、いえその・・・とても若い村長だなと・・・」
「はは!褒めてくれて嬉しいぞ」
「ど、どうも」
「頭を叩かれたと聞くが、もう大丈夫なのか?」
「え、ああ、まあ・・・少しコブができていますがなんとか」
「それならよかった、すまなかったな。村のものが・・・」
「い、いえ!気にしないでください。これくらい平気ですから」
「ふむ、その言葉を聞いて安心した」
それから一呼吸おいて村長は言った。
「せっかく来たのだ。じっとしているのもなんだし、良かったらこの村を少しまわってみないか?それとついでに、お前さんにお願いしたいことがある」
「お願い・・・ですか?」
「まあとりあえずは村をまわろう。まだお前さんは少し混乱しているみたいだしな・・・、慣れるまでには時間がいるだろう?私が案内する。話はそれからでもいいだろう」
「は、はあ」
私は有無を言わず、村長のあとをついていった。
建物を出ると、ここの村の風景が全体的に見渡せた。
「この村は、自分たちでつくったのですか?」
私の質問に「そうだ」と、村長は答えた。
「私たちがこの家を、村をつくった」
「へえー」
感心しながら村を見ていると、物をさわったり運んだりと、幽霊だけどまるで生きている普通な人のようにも思えた。
なんだか、人と幽霊の違いがわからない気がしてきた・・・。
広さはだいたい小学校の運動場くらいだろう、樹海とは思えないほど、とてもしっかりとしている村だ。
でも、空は木々できれいに覆っているため全然見えない。
木々の隙間から光がわずかに入ってきて、村は少し薄暗く見える・・・。
でもなんだか、その薄暗さが良い雰囲気をだしているようにも思えた。
もしヘリコプターで上空を通っても、おそらくこの村は森林によって見つけることはできないだろう。
「よし、じゃあここから案内しよう。ついて来い」
「あ、はい」
それから少しの間、村長は私に村の案内をしてくれた。
「おっ!村長。おや、お前さんも目が覚めたのか」と、畑を耕している頭に布を巻いた三十代の男性が話しかけてきた。
「まったく、目を覚ましたらつれてこいと言ったのに、気を失ったままつれてきおって」
「いやー、すまねえすまねえ。なんせわしらが幽霊と知ったとたんな、まーた気ぃ失ったんじゃよ」
「言い訳は無用じゃ。次からは気を付けるんじゃぞ」
「へ、へえ。気を付けます」
そう言いながら、男性は右手で頭をポリポリかきながら頭を下げた。
私はその男性を見ていると、気づいたかのようにこっちを見た。
幽霊だと知っているせいか、一瞬ビクッした。
「お前さんもさっきはすまなかったな」と、謝ってきた。
「い、いえ。大丈夫です」
その返事に男性は安心したのか、笑顔になり
「ああ、良かった良かった。なんもねえ村だけど、ゆっくりしていきな」と言ってくれた。
「あ、はい。ありがとうございます」
「よし、では行くぞ」と、村長の言葉に
「あ、はい。では、失礼します」と、返事をして男性におじぎをした。
男性は笑顔で私に手を振って見送ってくれた。
「・・・良い・・・幽霊ですね」
「おいおい、そこは人と言っとくれよ」
「あはは、どうもすいません。どっちを言ったらいいか迷っちゃいました」
「はははっ!よし、次はあそこに行くぞ」と、村長は歩いていき、私はそのあとをついて行った。
それからも、村長は村人一人一人に声をかけ、村の状況や何でもない会話をし、明るく接していた。
感想としては、江戸時代をモチーフにした少し古風的なところだなと思いながらも、とても栄えている良い村だと思った。
それからはまた村長の家に戻り、私と村長は向き合っていた。
「少しはこの状況に慣れたかな?」
少しの沈黙のあと、村長は言った。
「ま、まあ・・・」
「それでは本題に入ろう」
私はうなずき、そして村長は言った。
「この日本を救って欲しい・・・」
「・・・え?」
言っている意味がわからなかった。
「あ、あの・・・よく意味が」
「意味なんてそのままだろう。私がお前さんに言いたいことをありのまま伝えたつもりであるが?」
「で、でも救うったって私みたいな・・・」
「死のうと思っているのだろう?」
「あ・・・」
私の口からは村長に言える言葉が出なかった。
「村人たちから大方事情は聞いた。お前さんの口から、詳しく聞かせてもらえないだろうか?」
私は少しためらいながらも、弱々しく答えた。
「・・・必要ない・・・と、言われたんです」
「必要ないとな?」
「・・・会社をリストラされてしまいましてね、ああ、リストラって言うのはいわゆる解雇ってやつです。十二年間、この会社に尽くしてきたのに、捨てられちゃったんですよ。もうここには来なくていい、必要ないって言われて・・・」
「・・・」
「自慢ではないんですけど私は、結構良い人生おくってきたんですよ。裕福っていうわけではなくて、なんていうか・・・人生設計的な意味でなんですけどね、なにもかもがうまくいっていたんですよ・・・。文武両道そつなくこなしたし、進路は少しの失敗はあったものの、ここまでしっかり生きてきました」
「・・・」
「なのに、必要ないって言われた瞬間、私のこれまでの人生がすべて否定されたような気がしたんです・・・。はは、バカみたいですよね?誰だって人生一度や二度失敗したりつまずいたり、落ち込んで、でも立ち上がって、頑張って生きていくのに・・・、私はそのちょっとしたつまずきで死のうとしているんだから、情け・・・ないですよね」
「・・・そうだな、確かに情けない」
「・・・」
自分で自分のことを情けないとは言ったが、他の人に言われるとさすがに心が痛む。
「でも、それでお前さんの人生は終わって良いのか?」
「えっ」
「私はお前さんの心に問いておる。素直に、正直に答えろ。お前さんの人生、これで終わって良いのか?」
「そ、それは・・・」
私はうまく言えず、黙り込む。
「・・・悔しくないか?」
「・・・」
「お前さんをここまで陥れた世界に未練はないのか?」
「未練・・・ですか?」
「そうだ、お前さんは悔しみ、未練を残しながらこの世界から『逃げる』のか?」
逃げる。
「それは・・・嫌です」
「ならば、この世界をお前さんが変えてみてはどうだ?」
「そんな、私みたいな人が・・・世界を変えるなんて・・・」
「のう、お前さんよ」
私が話している時に村長は割って言った。
「死のうと思っているのだろ?」
「・・・う」
改めてその言葉を言われ、返す言葉がなくなる。
「私たち死人が言うのもなんだが、死のうと思うことはとても凄いことだ。例えでは言いあらわせられないほど、死ぬ『勇気』とはすさまじい勇気に値する」
「はあ・・・」
「なら、そんな勇気を持っているお前さんなら、世界を変えることくらいどおって事はないだろ?」
「それとこれとは、全然違う気が・・・」
「違わない、なあお前さんよ・・・」
「はい?」
「死ぬ気があるなら死ぬ気で動け・・・だ」
「死ぬ気で・・・動け?」
「そう、どうせ死んでもいいと思っていた身だ。その気になればお前さんはどんなことにでも挑めるはずだ」
「そ、そんなもんですかね」
「だが勘違いするな、今のお前さんは何も捨てるものが無く、過去に未練があり、未来に希望が無い生きた屍同然だ」
「う・・・」
なかなかキツイ言葉だ・・・
「だからって軽い気持ちで挑んではダメだ、身を引き締めろ。いいか?捨てるものが無いのはかえって良いことだ、幸運だと思え。過去の未練などどうでもいい、逆にそれをさっさと捨てろ。大事なのはその先、未来だ。真っ暗だった未来に光を浴びせろ、お前さんの想像している輝かしい未来を現実にしてみせるのだよ・・・自分の手で」
「自分の、手で・・・」
私は自分の手のひらを見た。
自分で言うのもなんだけど、傷一つない綺麗な手だった。
だけどそれと一緒に、なんだか頼りない小さな手だと感じた・・・。
私に、この日本が救えるのか?
私みたいな人に・・・。
でも、村長は言ってくれた。
『死ぬ勇気があるなら死ぬ気で動け』
『真っ暗だった未来に光を浴びせろ』
・・・やってみよう。
駄目もとでいい、やらないで後悔しながら死ぬより、やって死ぬほうがよっぽどいい、それの方がスッキリする。
私は決心した、それと同時になんだか、心のどこかにあったモヤモヤがきれいに無くなったような気がした。
「村長、私・・・やります!」
ありがとうございました。
日本を救う方法は次話にまわそうと思います。
よければ次も見てってください