十七話 だから、それまでは生きてみるよ
約八ヶ月ぶりの投稿になりました。
遅くなり申し訳ございません。
まだ読んでくださる方がいるなら、とても嬉しいです
工藤康 元サラリーマン 現無職
高木一 元政治家 現無職
掛布雅 元? 現?
秋山慎吾 元? 現?
鈴木健太 学生
「え、人を」
その言葉に、みんなは驚いた。
「まあ、当然そんな反応するよな」
「あっ、いやその」
「いいんだよ、もう・・・・・・見慣れているしさ」
「・・・・・・」
気を取り直して秋山は話を続けた。
「俺は特殊部隊、SATに所属していた」
「えっ!SATって、あのSATですか?」
私は驚き、つい大きい声で言ってしまった。
「あ、ああ。そうだよ」
秋山は私の反応に驚いていた。
「あ、すいません。予想外すぎて、つい・・・・・・」
「いや、いいよ。それに、他のみんなも驚いているみたいだし」
「そりゃ驚くだろ。まさか部隊のエリートがこんなところにいるなんて考えもつかねぇしな」
掛布の言葉に、秋山は言い返した。
「エリートなんて、そんなたいそれたもんじゃないよ」
秋山は悲しい表情をしていた。
「知っていると思うけど、俺がいた部隊はテロや武器を持っている凶悪犯罪者を対処としているのが主の仕事だ」
私はうなずいた。
「表では大掛かりな事件のニュースとかでしか話題にはならないけど、それなりに活動はしている。まあ、しない方が平和でいいのかな」
秋山は話を続けた。
「二年前、十六歳の少年が麻薬中毒で暴れてコンビニ定員を人質に立てこもった事件があった」
「知っているぞ、その事件」
高木が言った。
「名前は高橋良太十六歳無職、小中高の学生経歴は無し。母子家庭の環境で育つけど、生活環境が厳しく盗みや恐喝を繰り返していた。確か、その少年は結局自殺したって聞いたけど」
「いや、俺が殺したんだ」
「え、でも今高木さんが自殺って」
「隠ぺいしたのか」
高木の言葉に秋山はうなずいた。
「突撃したとき、少年は包丁を持っていた。それを奪い、一人の隊員が少年を拘束した。人質も逃がし、俺は任務完了の連絡をした」
『俺は、それで終わりだと思っていた』
「少年は暴れ、ズボンの腰に隠していたナイフを取り出し、拘束している隊員の手の甲を刺した。少年は隊員の隙をついて拘束から逃れ、俺に向かって走ってきた。叫んで、ナイフを振り回し、俺を切りつけようとした」
『俺は咄嗟に肩にさげていた銃で、少年を撃った』
「無意識だった。気がつくと、少年が俺の目の前で倒れていて、血を流していた。まずいと思った。俺は急いで救命活動をしようとした時、他の隊員に止められたんだ」
『こいつはやってはいけないことをした。死んで当然だ』『お前に手をだそうとしたんだぞ。助ける必要は無い』
「そんなことを言って、俺をその少年から離した」
そして少年は、俺の目の前で息を引き取った。
「事件はすぐに報道された。でも少年は、自殺で片づけられたんだ」
「なんで、自殺で」
「そんなのすぐわかるだろ」
私の質問に高木は答えた。
「特殊部隊が誤って人を撃ったとしても、殺したことには変わりはない。その話が世間に知れ渡ってしまったらそれこそ問題になって、国民に対する信頼を失ってしまう。だから上の連中は、少年の麻薬中毒による混乱で自らの命を絶ったことにしたんだ」
「・・・・・・」
「俺は」
秋山は感情が溢れ、涙を流し始めた。
「俺は恥じた!助けられなかった命を、隠ぺいされて安心してしまった自分自身を!周りが許しても、俺は自分が許せなかった。死んでいった少年の姿を、今でも目に焼き付いていて離れないんだ。夢に出てきたときには、俺は何度も謝り続けた」
「秋山さん・・・・・・」
「俺はそれからも任務はこなしてきた。でも、頭の片隅には必ずあの少年がいた。忘れてはいけない、忘れちゃいけないんだ」
『それでいい。それが、自分に対する罰だと思ったから』
「でもな」と、秋山は続けた。
「それじゃダメなんだ。人を殺めて許されるやつなんて、誰一人としていちゃいけないんだ」
「そう、ですよね」
その通りだ。
相手がいくら悪くても、人が人を殺めてはいけない。秋山はそう思いながらも、ずっと苦しんで生きてきたのだろう。
秋山は、感情を抑えるように両手を強く握っていた。
「俺さ、生まれてすぐ親に捨てられて孤児院で育ったんだ」
「・・・・・・」
「物心ついたときに親に捨てられたことを説明されてさ、ひと時心を閉ざしていたけど、世話してくれた先生がとてもいい人で、俺は幸せを感じながら暮らしていた。でも十五になったころ、軍が俺を引き取りにきた」
「軍が、引き取り?」
「孤児院から軍が引き取るってケースはそう珍しくはない。裕福な生活をしてきた奴より、辛い過去や苦しい人生をおくっている奴の方が良い人材がそろっているってな」
「そ、そうなんですか」
「それとあと一つ、死んでも誰も悲しまないからだ」
「そ、それはッ!」
「工藤が言いたいことはわかっている。でも実際、誰も悲しまないんだよ。なんせ、天涯孤独な俺みたいな奴を知っているのはごく少数なんだから」
「でも、でも孤児院の、秋山さんを育てた人はきっと悲しみます!」
「そうだと、いいな」
「・・・・・・」
秋山は悲しい表情をしていた。
「俺さ、『孤独な人間はいてもいなくても変わらない』そう思っていた」
「それはッ!」
「でもさ」
私が言おうとしたところで、秋山は構わず言った。
「その言葉をひっくり返せる答えが、もう少しで見つかりそうな気がするんだ。だから、それまでは生きてみるよ」
「秋山さん・・・・・・」
秋山は深呼吸して「話がそれてしまったな、すまない。本題に入るよ」と言った。
「俺は、自分の罪を晴らすために脱退を志願した」
「軍を抜けるって、ことですか?」
私の質問に秋山はうなずいた。
「ここにずっといたら、俺はいずれ人として腐る。なにかしたいとか目的は特になかったけど、何か良いきっかけになると思ったんだ。ただ一つ、あの事件の真相を明かさないという条件付きで。そして俺は軍を抜けた。だけど、それで終わりじゃなかったんだ」
そこで秋山は震え声で言った。
「そしたらあいつ、なんて言ったと思う?『そうか、じゃあ死んでくれ』だってよ」
その言葉に、私たちは驚いた。
「ちょっ!ちょっと待ってくれ。なんで死ななきゃなんねーんだよ!」
掛布が驚いた表情をしながら言った。
「口封じだよ」
高木が掛布の質問に答えた。
「口封じって、秋山さんは真相を明かさないって言ってるじゃないですか!」
「そう言っても、信用できないんだよ。それに、わからなくもないだろ。こんな裏仕事をしているやつを、そう簡単に表に出せるか?」
「あ・・・・・・」
私が秋山を見ると、うつむいたまま何も言わなかった。
「うっかり誰かに喋るかもしれない。秋山が原因で情報が洩れる可能性がないという保証はない。この真相がバレてしまったら、お終いだ。そう考えると、部隊に留めておくか、監禁か・・・・・・殺すかになるってことだ」
「そ、そんなのひどすぎる」
「工藤」
秋山が私に言った。
「これが、俺が知っている『社会』なんだ」
「ッ!そんなこと、言わないでください」
秋山は寂しい顔をしていた。
私はそれを見て、何故だかわからないが自分自身を攻めたくなってしまった。
怒りなのか、悔しさなのか。哀れみ、情け、悲しみ、そんな感情が頭の中でかき回されてどうにかなってしまいそうになった。
周りがぐるぐると回るような錯覚を起こし、どこを見ているのかもわからない。
なんだか、体がだんだん重くなってきているように感じた。
「その後、俺は必死になって逃げた。さっきまで同じ部隊にいた仲間が・・・・・・いや、あいつらが俺を殺そうと追いかけてきた。逃げるために、俺はなんでもした。万引き、窃盗、空き巣、他にもたくさん、死に物狂いで逃げたよ。それが一週間、一か月経っても、あいつらは俺を探して、追いかけてきた」
けど・・・・・・もう、疲れたんだ。
「犯罪をしてまで逃げる俺は、自分が馬鹿に思えてきた。そう思うと、罪悪感が湧いてきて自分自身が情けなく感じたよ」
もう・・・・・・いいやって、思ったんだ。
「俺は死のうと思ったけど、あいつらに捕まって死ぬより、自分で終わらせようと思った。軍で使っていて、そのまま持ってきた銃を、俺は・・・・・・こめかみにあてたんだ。けどさ、やっぱり怖かったんだよ。ああ、死ぬのってこんなに怖いんだって初めて知ったよ」
「・・・・・・」
「人は平気で殺せるのに、自分自身を殺せないって本当に情けなく感じたよ」
秋山は泣きそうになるのをこらえ、声を震わせながら言った。
「誰かに、俺を殺してほしかった。俺はネット喫茶に身を隠し、あのサイトを調べていた」
「・・・・・・」
私の頭は混乱していて、秋山の話を聞いても何も言えずにいた。
焦点も合わず、ぼーっと下を向いていた。
「工藤・・・・・・・・・・・工藤!」
「え・・・・・・あっ」
秋山の言葉に私は我に返った。
秋山は悲しい表情で私を見ていた。
「えっと、その」
「工藤、同情はしないでくれ」
「え?」
「お前は俺たちの話を聞いて同情をしてくれるのもいいが、背負い込みすぎなんだよ」
「背・・・・・・負う」
「いいんだよ、背負わなくて。俺たちが話したのは、お前に知ってほしかっただけで、背負わせるためじゃない。俺たちの問題は、俺たちで背負う。だからお前は、お前の問題だけを背負えばいいんだよ」
「私は、私だけの・・・・・・ッ!」
そう思ったと同時に、私の体は急に軽くなったように感じた。
私の顔を見て安心したのだろう、秋山はホッとした顔をしていた。
「無理すんなよ。俺たちは仲間なんだぜ」
「仲間、そう・・・・・・ですね。ありがとうございます。秋山さん」
そう言うと、秋山は私に笑顔を見せてくれた。
辛い過去を背負っているのに、それでも笑顔をつくれる秋山を私は本当にすごい人だと私は思った。
一人で背負い込みすぎてはいけない。
辛かったら、助け合えばいいのだ。
それが仲間なのだと、私は心からそう思えた。
「これで、話は終わりか?」
みんなが落ち着いたところで、村長はそう言った。
「あ、はい。これで終わりです」
「ふむ、ひとまずお疲れと言っておこう。それで工藤」
村長は言った。
「この話を聞いて、お前のやるべきことは決まったか?」
「・・・・・・」
みんなが私に注目する。
私は少し考え言った。
「一日だけ、考えさせてください」
「ということは、もうほとんど決めているのか?」
「はい」
「そうか、それを聞いて安心したぞ。それでは明日、お前の話を聞かせてもらおう」
「はい。それではみなさん、今日はお疲れ様でした。窮屈だと思いますが、この村で一晩過ごしてください」
「おいおい、窮屈とは失礼だな」
「す、すいません!」
「まあよい、お前たちもここで一晩過ごせ。明日、工藤の話を聞こう。これにて、今日は終いじゃ」
村長の言葉にみんなはうなずき、村長の家から出ていった。
私も出ようとしたところで村長が私を呼び止めた。
「工藤。悔いは、残してはならぬぞ」
「はい」
私は力ない言葉で返事をし、村長の家をあとにした。
ありがとうございました。
遅くなると思いますが、更新できるよう頑張ります。
良ければ次話もよろしくお願いします