十六話 死ぬまで・・・・・・絶対に諦めない
遅くなりました。すいません
分けて出そうと思ったのですが、いい切れ目がなかったのでまとめて投稿しました。
少し長いですが、どうか読んでってくださいm(__)m
工藤康 元サラリーマン 現無職
高木一 元政治家 現無職
掛布雅 元? 現?
秋山慎吾 元? 現?
鈴木健太
高木はすぐに見つかり、村人が農作業している様子を黙々と眺めていた。
何か考え事をしている様子だったが、声をかける前に先に高木の方が私たちに気付いた。
私は要件を言い、村長の家に戻ろうと話した。
高木は以外にもすんなりと承諾し、一緒に村長の家に戻った。
「・・・・・・で、お前たちの話をしたいと言うことか?」
「はい、そういうことです」
「ふむ、まあいいじゃろう。自由に話せ」
村長にも話をし、私たちの自己紹介が始まった
五人で円陣を組み、私から時計回りに高木、掛布、秋山、健太の順で座っている。
高木以外、私たちはお互い顔と名前しか知らないもの同士だ。
この話で、私たちはお互いを深く知ることになる。
知りたかったことも、知らなければよかったことも・・・・・・。
「では、まず私から話をさせてもらいます」
そして、私は自分の人生を語った。
自分自身の意思を貫いてきた学生時代。
その意思をぐちゃぐちゃに踏みつぶされた社会人生。
『必要ない』と、部長に言われて心にぽっかり穴が空いたような儚さ。
大ざっぱだが、私は自分なりに気持ちを込めながら話をした。
「・・・・・・そして私は、自殺しようとこの樹海に来ました。そこで彼女に会い、ここにたどり着きました。そして、今に至るって感じです。・・・・・・私の話はこれで終わりです」
みんなの顔を窺い、私は話を終えた。
「・・・・・・工藤」
それと同時に高木が言った。
「あ、はい。なんでしょう」
「そんなもん?」
「う・・・・・・」
予想していた言葉が来た。
「お前、メンタル弱すぎだろ」
「返す言葉もありません・・・・・・」
「まあ、自殺する理由なんて人それぞれだけどさ、期待外れだったよ」
そう言って、高木はため息をついた。
「・・・・・・」
何か言い返したかったが、さらに心に刺さる言葉が返ってくることが想像できるために、私は何も言えなかった。
「・・・・・・でも」と、高木は続けて言った。
「そのおかげで俺たちはお前に出会ったんだよな」
「え・・・・・・」
「お前に会っていなかったら、今頃俺たちは後悔したまま死んでいたんだからな。お前は俺たちに、生きる希望を与えてくれた命の恩人なんだよ。・・・・・・感謝してるよ」
「高木さん・・・・・・」
「そうですよ」
健太は言った。
「工藤さんは命の恩人です。俺も、感謝しています」
「健太くん・・・・・・」
「俺も、感謝しているよ」
「俺もさ工藤、感謝しているぞ」
「秋山さん、掛布さん・・・・・・ありがとうございます」
私は嬉しくて涙が流れそうだったが、必死でこらえた。
「おいおい、涙もろすぎるだろ」
「すいません、嬉しくてつい・・・・・・」
私は一度深呼吸をし、気持ちを切り替えた。
「それでは気を取り直して、次に行きましょう」
「ん、そうだな」
高木もそう返事して、みんな気持ちを切り替えた。
「・・・・・・健太くん」
「はい」
「次は、君が話してくれないか?」
「俺・・・・・・ですか」
「無理にとは言わないよ。気が変わったなら話さなくても構わない。でも、少しでも君の力になれるかもしれない。良ければ・・・・・・話してくれるかな?」
「・・・・・・」
健太は大きく深呼吸をした。
「・・・・・・大丈夫です。話します」
「ありがとう」
会った時から、ずっと気になっていた。
どうして、死のうと思ったのか。
この若さで、この少年はどんな苦しい日々を生きてきたのか。
この少年を助けたい、支えになりたいと私はずっと思っていた。
どんな話でも、私は正面から受け止めてみせる。
「俺は今、○×高校に通っている一年生です。学校生活は、はっきり言って楽しくありません。むしろ・・・・・・辛くて行きたくありません」
健太は話を続けた。
「薄々感づいていると思いますが、いじめ・・・・・・にあっていたんです。同じクラスの人に、毎日・・・・・・授業中に休み時間、放課後にも」
「・・・・・・」
やはり、健太の抱えている問題はいじめだった。
「教科書を破られました。鞄をハサミで切りきざまれました。恐喝もされました。髪を引っ張られて、殴られて、便器に顔をつっこまれて・・・・・・」
健太は次第に息づかいが荒くなっていた。
思い出したくない、話したくない過去を思い出しながら話している。
健太の体が・・・・・・震えていた。
平常を装いながらも、震えた声で話した。
「毎日、学校に行くのが嫌でした。行ったら・・・・・・またあいつらがいじめる。先生も、他の友達も見て見ぬフリで・・・・・・誰も・・・・・・助けてくれませんでした」
健太はそこで、我慢できずに一粒、二粒と涙を流してしまった。
「でも、それはしょうがないことです。助けようとしたら、今度は自分が対象にされてしまいますから・・・・・・」
そう言いながら、袖で涙をふいた。
「・・・・・・なら」
高木が言った。
「親には相談しなかったのか?もちろん、親にいじめられているのを話したくない気持ちはわかる。けど、このまま生きていくよりは絶対楽になれるんだぞ?」
「・・・・・・」
健太は黙り込んだ。
下を向き、とても子供とは思えない重たい表情をしていた。
「健太くん・・・・・・」
「親・・・・・・ですか。いませんよ」
「えっ?」
私だけじゃなく、みんながその言葉に驚いた。
「健太くん、い・・・・・・いないって・・・・・・」
「ちょうど一年くらい前のことなんですけど、父が・・・・・・交通事故で亡くなりました」
「そ、そうだったんだ・・・・・・」
「・・・・・・母は、父の死にショックを受け・・・・・・壊れたように荒れてしまいました」
「・・・・・・」
「健康だった母が、酒とタバコに手をだし、半年後には悪い男を頻繁に家に連れてくるようになりました。来るたびに、俺を邪魔者扱いして暴力をふるわれました。学校ではいじめられ、家では男に虐待をうける日々でした・・・・・・」
「母には説得しました。男とは別れてって。でも、母は男に心酔しきっていました。金を貢ぎ、虐待され倒れている俺の目の前で・・・・・・何度も、体を許していました。そして母は、俺が言ったことを男に伝え・・・・・・男は・・・・・・俺に・・・・・・・・・・・・」
「健太くん?」
健太は立ち上がり、ためらいながらも上着を脱ぎ始めた。
「・・・・・・・・・・・・ッ!こ、これは・・・・・・」
「ひどすぎる・・・・・・」
「・・・・・・俺はこれで、普通の人として・・・・・・生きられなくなりました」
それは、あまりにも悲惨な光景だった。
火傷。
それも、タバコを押し付けたような跡が背中に無数にあった。
青黒い痣が背中だけではなく、脇腹、腹部といった体全体にもできていて、とても痛々しい姿だった。
肋骨が浮かびあがるほどやせ細り、とてもひもじい生活をおくってきたのがわかる。
健太の体が、自分の苦しい人生の全てを物語っていた。
「健太くん」
「・・・・・・」
「もう・・・・・・いいよ。ありがとう・・・・・・」
「はい・・・・・・」
そう言うと、健太は上着を着て座った。
「・・・・・・」
みんな、健太の体に衝撃を受け言葉が出なかった。
「・・・・・・ここ二週間は、家には帰っていません。学校にも行っていません」
「じゃあ・・・・・・どこに?」
「マンガ喫茶を転々としていました。お金は、持っていなかったので・・・・・・トイレから脱け出していました。悪いことだっていうのは、わかっています。でも、頭の悪い俺じゃ・・・・・・こんなことしか思いつきませんでした」
「・・・・・・もしかして、サイトもそこで?」
健太はうなずいた。
「もう、死にたいとしか思いませんでした。でも、一人はやっぱり嫌だったので、あのサイトを見ていたんです」
「・・・・・・そっか」
おそらくあの時に時間ぎりぎりに来たのは、脱け出そうとしているのを店員に見つかってしまい、逃げてきたからだろう。
一度解散した後も、またどこかのマンガ喫茶で過ごしたのか、どこかで野宿をしていたのだろう。
これはあくまで予想であり、私はこれ以上何も聞けなかった。
「大変だったな・・・・・・」
少しの沈黙の後に、掛布が言った。
健太は掛布を見るが、またすぐ下を向いてしまった。
「・・・・・・はい」と、力ない声をだす。
でも・・・・・・と、健太は続けて言った。
「今は違います。今はまだ、死ねません。だって、こんな俺にでも・・・・・・やりたいことが見つかったのですから」
健太は私の方を見て言った。
「工藤さん、俺は・・・・・・工藤さんに救われたんです。たとえ、日本を救うことができなくても、諦めても、死ぬ時が来ても・・・・・・俺は・・・・・・工藤さんについていきます」
その言葉と同時に、健太の右目から一滴の涙が流れ頬をつたった。
鼻水をすすり、今にも泣き崩れそうなのを抑えながらも、真剣な眼差しを持ち、決意を示した表情をしていた。
「・・・・・・・・・・・・ありがとう。でも、これだけは言わせてくれ」
私は一息置いて言った。
「私は絶対に諦めない。死ぬまで・・・・・・絶対に諦めない」
真剣に、正直に言った。
「・・・・・・はい!」
健太は、私の気持ちをしっかり受け止め、初めて見せた笑顔で答えてくれた。
モヤモヤがなくなり、とてもスッキリした表情になっていた。
でも、これで健太の環境が変わったわけでも、解決したわけでもない。
健太の辛い過去は、今でも心に深い傷を残したままだ。
・・・・・・この子を救いたい。
こんな私にそれができるかわからないが、やらなかったとき私は、必ず後悔する。
(必ず、救ってみせるよ)
私は心でそう決めた。
「えっと、俺の話はこれで・・・・・・終わりです」
すると、パチパチと高木が健太に向かって拍手をした。
健太は驚いた顔をしていた。
私も、みんなも続いて拍手をした。
健太は少し恥ずかしながらも、笑顔で「ありがとうございます」と言った。
「じゃあ、次は・・・・・・」
「・・・・・・俺の番だな。ちなみにさ、話す前にこれだけは言わせてくれ」
秋山は言った。
「俺は、今から包み隠さず正直に話す。だけど・・・・・・怖れないでほしい」
「どういう意味ですか?」
「それを今から話すよ。何か聞きたいことがあったら遠慮せず言ってくれ」
「わかりました」
私は返事し、みんなも承諾した。
そして秋山は
「・・・・・・・・・・・・俺は」
驚きの言葉を放った。
「人を殺した」
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