十五話 どんな事でも、私は揺るぎません。幻滅したりなんかしませんよ
工藤康 元サラリーマン 現無職
高木一 元政治家 現無職
掛布雅 元? 現?
秋山慎吾 元? 現?
鈴木健太
その後も、いろいろ話をした。
村長が新聞で得た情報の詳細を知りたいとのことだった。
主に政治、社会的なものだったが、他にもスポーツ、学業、祭り、外国との交流について、興味のあることをたくさん私たちに質問していた。
私たちも知る限りの事は答えていたが、残念にも半分以上が知らないことだった。
村長は少し落胆していた。
自分が育った国の事をわかっていないことに、私は自分自身にがっかりしてしまった。
「さて、お前さんたち疲れたじゃろ。休憩をとろう」
村長が私たちの顔色を窺って言った言葉だろう、そう言った。
腕時計を見ると、話し始めてかれこれ三時間が経っていた。
「あ、はい。わかりました・・・・・・って高木さん?」
村長の言葉で高木はすぐに立ち上がり、早歩きで家から出ていった。
「え・・・・・・っと」
「構わん、みなも自由にしてよい」
私がどうしようか悩んでいると、村長はそう言った。
「じゃ、じゃあみなさん、どうぞご自由に」
「どうぞご自由に・・・・・・ってここでなにすればいいんだよ」
「え、ええっと・・・・・・」
秋山の言葉に私は困った。
「む、村の観光とか・・・・・・ですかね?」と、とりあず思いついたことを言ってみる。
「村の観光か・・・・・・。まあ、散歩がてら良いかもな。高木はしょうがないから、四人で行こうか」
「いいですね、掛布さんも健太もどうですか?」
「ああ、いいぞ」
「いいですよ」
掛布も健太も立ち上がり、私たちは村長の家をあとにした。
「工藤さん」
そこで、あの子が私を呼び止めた。
「ん、どうした?」
「話が再開するとき、連絡させてもらいます。あと、なにか村長に用があるなら私に言いに来てくださいね」
「うん、わかったよ。じゃあ、行ってきます」
そう言うと、彼女は手を振り私たちを見送った。
「・・・・・・いやー、結構疲れたなぁ」
よほどこの気持ちを吐き出したかったのだろう、歩き始めてすぐに掛布がすぐに言った。
「確かに、思いのほか村長の質問攻めが長かったしで疲れましたね」
「まったくだよ。お化けがお化け坂のこと聞くんじゃねーよ」
秋山も話にまざり言いたいことを言った。
「あはは、奇遇ですね私もそう思いましたよ」
「おっ、やっぱり?さすが工藤だよー」
「で、でも・・・・・・」
そこで、健太は言った。
「高木さん、とても辛そうでしたね・・・・・・」
「「「・・・・・・」」」
健太の言葉に、私たちは黙り込んでしまった。
高木のあの辛い話を聞くと、こんなことで死のうとしている自分が馬鹿らしくなってしまったからだ。
これから、高木にはどう接すればいいのか難しい疑問がでてきていた。
「あの・・・・・・」
そこで、健太が思いついたかのように言った。
「俺、みなさんの事を全然知りません」
「え?」
健太の言っていることがわからず、つい言葉がもれた。
秋山も掛布も理解していない様子だった。
「えっと、あの俺、みなさんの名前しか知らなくて、その・・・・・・し、失礼なのはわかっていますけど・・・・・・仕事とか、えっと・・・・・・・・・・・・死のうと思った・・・・・・その・・・・・・」
「死のうと思った理由を知りたいってことかな?」
私の言葉に、健太はゆっくりとうなずいた。
「理由・・・・・・か」
確かに、私は高木以外の素性を知らない。
年齢とか仕事、他にも・・・・・・死のうと決意したこれまでの経緯とか。
「・・・・・・」
私は悩んだ。
私は、自分のことを話すことにべつに抵抗はない。知りたいことがあればできる限り答えるつもりだ。
しかし、残りの三人はどうなのだろう?
正直なところ知りたい。
知って、共感を持ってあげたいと思った。
でも、相手は言いたくない、知られたくないという拒絶感があると思い、聞こうにも聞けなかった。
死ぬ理由なんて、言えないのが当たり前だ。
私は話せるのなら話すつもりだが、掛布、秋山、健太の三人は・・・・・・本人の自由だ。
「私は・・・・・・」
「俺は」
私が言おうとしていたところで、秋山が言った。
「・・・・・・話すよ。みんなが知りたいかはわからないけど、話すよ」
「秋山さん・・・・・・」
「工藤は、聞きたいか?俺の話」
「・・・・・・はい」
「高木ほどじゃないけど、俺を幻滅するかもしれない、知らない方がよかったと思うかもしれないけど、それでも・・・・・・いいか?」
「大丈夫です」
私は言った。
「どんな事でも、私は揺るぎません。幻滅したりなんかしませんよ」
「・・・・・・やっぱり、あんたが言うと不思議と信用してしまうんだよな」
「そ、そんなことないですよ」
「それに、そんなくさい言葉言うやつ他にいねぇよ」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
褒めているのか貶しているのか・・・・・・。
「工藤さん、お・・・・・・俺も話します」
「健太くん、ありがとう」
「い、いえ。工藤さんには聞いてほしいんです」
「・・・・・・うん。わかった」
「工藤」
掛布が言った。
「俺は、まだ・・・・・・話せねぇ。話したく・・・・・・ないんだ」
「いいんです掛布さん。話したくないことは誰にだってあります。気にすることはありません」
でも、と私は続けて言った。
「話してくれたら、私はとても嬉しいです。いつでも待っていますよ」
「・・・・・・ありがとうな」
「気にしないでください。それじゃあ、高木さんをさがしに行きましょう。高木さんにも話は聞いてもらいたいですしね」
「ああ・・・・・・」
「・・・・・・」
掛布は先程の明るい表情から、深刻そうな表情に一変していた。
とても辛い過去があった、思い出したくない過去があったのだろうと一目でわかるほどだった。
何があったのだろう・・・・・・。
どんな人生だったのだろう・・・・・・。
気になったのだが、こればかりは私が無理矢理踏み入れて良い領域ではない。
いつか話してくれることを願い、私たちは高木をさがしに歩いた。
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